群青

れんげ。

第1話

聖地甲子園。これまでの歴史の中に数々の奇跡を産んできた。俺たちはその場所に立つ切符に王手をかけていた。



「夏の大会の背番号を発表する。」

地方大会前俺たち星乃宮学園の野球部総勢60名は呼び出されていた。


「背番号1。瀬戸山。この番号を与えることができるのはお前だ。1年生ではあるがこのチームのために頑張ってくれ。」

「はい! ありがとうございます。」

周囲のメンバーからの拍手を受けこの伝統ある強豪校のエースとして認められたことを誇りに思い受け取った。


「俊介! やったな!」

そう言って肩を組んで白い歯を見せる少年。宇川凛斗。彼は小学生の頃からバッテリーを組んできた相棒だ。

「あぁ。やっとここまで来れたんだな。」

「そうだな。お前の制球力と俺の配球。俺たち2人ならぜってえ勝てるな!」

「おう!」


凛斗と俺は1年生で唯一背番号をもらったメンバーだ。中学時代こいつと一緒にでた全国大会。中学最高峰の選手たちと本気でぶつかれたあの大会の記憶はいまだに鮮明に残っている。正直言ってこのキャッチャーはもう中学生とか高校生のレベルを超えている。野球を本当によくわかっていて各打者の弱点を見抜いて揺さぶる。その頭脳に加えて強肩強打。不動の4番として俺たちのチームに欠かせない存在だった。


野球を本気でやっている人間であればおそらく誰しもが憧れる聖地甲子園。その聖地に立ち今まで見てきた奇跡を起こす。このチームのメンバーで絶対に頂点に立つ。真っ黒になっている帽子の裏に書かれた全国制覇の4文字をひたすらに追い続けて今ようやくそのための第一歩を踏み出せたのだ。嬉しくないわけがない。これから始まる3年にとっては最後の夏に期待を膨らませながら俺は練習に一層打ち込んだ。




地方大会決勝戦。この試合に勝てば聖地に立つことができる。準決勝は出番がなくムズムズしていた俺は電光掲示板に表示されている瀬戸山俊介の文字を見て張り切って肩を作った。


「瀬戸山。少しいいか?」

「監督。なんでしょうか?」

「あまり力を入れすぎるな。宇川を、チームメイトを信じろ。お前には一緒に汗を流した仲間がいる。思う存分楽しんでこい。」

陰で鬼と言われる名将は相変わらず厳しい表情でしかし温かい言葉をくれる。


「瀬戸山! 打たれんじゃねえぞ! 俺たちの分まで戦え!」

ベンチの上の応援席からはベンチ入りを果たせなかったメンバーが応援をしてくれる。


「俊。凛斗ミーティングを始めるからこい。」

このチームを率いるキャプテンに呼ばれ俺たちはブルペンを後にした。



「相手も間違いなく最高のコンディションでくる。こちらがそうであるように瀬戸山の対策も十分行われているだろう。だが、それがなんだ。

思いだせ。マメが潰れて血が滲んだグリップ。走り込みをしてもう二度と見たくないと思ったあの山。真っ黒でボロボロの白ユニ。ぜってえ勝つぞ。

いいな、絶対に勝つぞ!」

「おう! 」


蝉のやかましい声を弾き返し熱狂に包まれる球場にて。ついに甲子園出場をかけた最後の戦いが幕を開けようとしていた。

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