第20話 模倣犯登場

今俺の目の前にいるのは、俺を苦しめている悪の元凶だ。この悪意たっぷりのこいつを、今から懲らしめてやらなければならない。


「そんなに奥出が大事か。そう思うならこんなことさっさとやめちまえ」


「こんなこと? あなたを潰すことが会長のためになるんです」


「奥出のためにやってるとでも?」


「その通りですよ」


あいつはきっとそんなこと望んじゃいない。そもそも、こいつは俺たちの関係を何か勘違いしているようだ。


「一年生が俺のことを最初から知っているわけがない、俺と直接関わりがあるわけでもないのに、どこで俺と奥出が繋がっていることを知ったんだ?」


「教室で仲良さそうに話していたじゃないですか。まるで恋人かのように」


「やっぱり勘違いしてたか。俺たちはそんな関係じゃないぞ。ただの友達だ」


相手は明らかに疑っている。無表情がさらに険しくなり、眉間にしわが寄る。


「一緒に買い物だって行って、仲良くプレゼント選びするのが、ただの友達ですか」


「お前、どこまで見てんだよ」


「私はいつだって会長のことを見ていますよ。どんな時だって、『生徒会』ですから」


「それストーカーじゃねえか。奥出にバレたら嫌われるぞ」


いや、奥出にはもうバレているだろう。あいつが違和感を感じないはずがない。


「会長はそんなことでは怒りません。寛大なお方なので、いつだって私の味方なんです」


「妄想もその辺にしとけよ。奥出は誰か一人に入れ込むようなやつじゃない。『生徒会』だろうが『ばか』だろうが、同じように接してくれるんだよ」


「そんなこと許しません。私だけ見ててくれないと困るんです」


とんだメンヘラ女だ。奥出もこんな奴の世話をしていると思うと、心配になってくる。


「だから俺は邪魔なのか」


「そうです。やっと理解できましたか。あなたがいなくなれば、会長はまた私だけを見てくれる」


「残念だけどな、俺は奥出と約束があるんだ。そういうわけにはいかない」


「まだ懲りてないみたいですね。弟まで使って、本当に目障りな人」


これは獲物を狩ろうとする猛獣の目だ。意地でも俺を許さないみたいだな。


「カバンを漁ってたってことは、また同じ手を使おうとしたな? そんなに何回も騙されると思っているのか?」


「あなたにはそれで十分ですよ。他の人たちも、それで簡単に騙されてくれる。状況証拠で犯人を決めつけ、偽りの真実を作り出してくれるのですから」


頭の良さを間違った方向に使う天才か? このままじゃ埒が明かない、何か考えなければ。




生徒会長の奥出と拓斗の友人は、まだ生徒会室で戦いを繰り広げていた。


「人生ゲームなんて何年ぶりだろうね」


「私は意外とやるわよ。自分の人生を見直すのにちょうどいいの」


「そんな風に使うのはきっと君くらいだよ」


初手は友人、ルーレットを回して、出た目の数だけマスを進んでいく。


「あなたの人生設計はどんなものなのかしら」


「僕たちは高校生と言えど、まだ子供さ。簡単に人生設計なんてできるはずがないよ」


「私は結婚をして子供を産んで、そういう普通の人生を歩みたいわ」


順番にルーレットを回して進んでいく。人生ゲームに現実を求める奥出と、たかがゲームだとのんびり進める友人。


「せっかくならお金持ちになって勝ちたいね」


「でも、お金持ちが勝ちだなんて誰が決めたのかしら」


「僕はね、お金持ちが勝ちなんじゃなくて、勝者にはお金が寄ってくるってことだと思っているんだけど」


今のところ先に進んでいるのは奥出だ。ただ、お金を多く持っているのは友人。どちらが勝ちに近いのだろうか。


「確かにそうかもしれないわね。今の状況、私のほうが有利かしら」


「それはどうだろうね。貯金も資産もなしに歳を取ってしまえば、その後の人生が詰むことぐらい君にも分かるだろう?」


「もちろんよ。でも、皮肉なことに、お年寄りと子供は優しくされる運命なのよ」


進めば進むほど、義務も権利も増えていく。それに応じて、手に入るお金は増え、出ていくお金も増える。


「君はそういうものには頼らないと思っていたよ。全て自分が背負えばどうにかなると、自己犠牲の上に他人の幸せが成り立つ、難しい考え方をしているのだとね」


「仮にそうだとして、何が悪いのかしら。人は支え合って生きていると、よく言うじゃない」


「この考えは支え合いじゃない、助けてやろうというただのエゴにすぎないよ」


人生ゲームは佳境に入る。二人とも子宝に恵まれ、正社員で収入も申し分ない。実際こんな人生を簡単に送れたらいいと、そう思うのが一般的だ。


「厳しいこと言うのね。善意も、誰かにとっては悪なのかしら」


「そうだね、考えて行動しないといつの間にか誰かに恨まれているかも」


「そんな逆恨みみたいなこと、私は経験したくないわね」


無事にゴールした二人は、持っていた資産をお金に換え、貯金を計算し、勝敗を決める。


「今回は僕の勝ちみたいだね」


「ルール上、仕方のないことだわ」


「まだ、ゲームを続けるかい?」


奥出は生徒会室の倉庫から、また別のゲームを引っ張り出してくるのだった。




俺は一つ疑問に思うことがある。それは、どうやって人のカバンに怪文書を入れたかだ。


「お前にとって、俺はそんなに隙のあるやつだったのか?」


「隙どころか、がら空きじゃないですか。まあ、弟の海斗さんのほうが立場的に入れやすかったですけどね」


「基本的に休み時間は教室にいたし、他の三年生だっている。一年生がそう簡単に怪文書を忍ばせるなんてできないだろ。もしかして他に協力者でも……」


「ヒントでも差し上げましょうか? 唯一教室から全員いなくなる授業があるじゃないですか」


協力者はいなさそうだ。まさかとは思うが、そこまでして俺と海斗を嵌めるってどうなんだ。


「体育か……」


「さすがに『ばか』でも分かるみたいですね」


「一言余計だ。そもそも、一年生にも授業があるじゃないか」


「これは『生徒会』の仕事ですから、授業なんて受けてられないですよ」


何が仕事だ。仮病よりたちが悪い。先生も疑わないということは、『生徒会』の信頼は相当なものらしいな。


「横暴な考えだな。そんなにベラベラ喋ってていいのか?」


「大丈夫ですよ。特にあなたのことですから、録音や録画などはないでしょうし、それ以上の考えもあなたにはないと思いますから」


大変よく分かってるじゃないか。だからこそ困ってるんだが、ここに友人でもいれば何かしら仕掛けてくれていたかもしれない。というか、あいつ今どこにいるんだ。




友人は何かを感じ取っていた。


「誰かが僕のことを考えているかもしれない」


「そんなの、貝塚拓斗以外にいるのかしら」


「きっと、僕の助けを待っているんだろうね」


気づいたとしても、気にも留めない友人であった。




待っていたって仕方がない。ここには俺とこいつしかいないんだ、俺がどうにかするしかない。


「俺だってやるときはやるんだからな」


「負け惜しみですか」


「先輩のことを侮っていると痛い目見るぞ」


こいつに勝てるのはおそらく友人か奥出だろうな。でも、あいつらと一緒に過ごしてきた俺なら、勝てないこともないんじゃないか?


「私が怪文書を入れていたとして、それを私が作ったという証拠はあるんですか? 私より頭の良い人はいくらでもいますし、時間だって『生徒会』に入っていない人のほうがありますよ」


「あの楽譜の怪文書、あれを作れるのはお前しかいない。俺と海斗に向けられた脅迫文、そんなことする奴、お前しか考えられないんだよ」


このまま詰めていけば、勝てるかもしれない。 

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