ジョセフィーヌとローラン ーマルベル砦防衛戦ー③
リシャールの姿が見えたことに加えて、援軍が来たことにジョセフィーヌは少しだけ安堵した。劣勢であった王国軍が徐々に押し始めている。元々戦っていた兵士たちも援軍に勇気付けられたのか、更に勢いをつけていた。ジョセフィーヌは自分も負けていられない、と矢をつがえ、攻撃を続ける。ふとそこへ、屍兵に接近する一人の少女が見えた
「まずい、あれは不死の兵士だ! 倒せるわけがない!」
ジョセフィーヌは何とか助け舟を出そうと矢を手に取ったところ――少女はなんと、軽く鮮やかな剣筋で屍兵を斬ったかと思えば、鎧だけを残して屍兵は光の粒子となって消えたのである。ジョセフィーヌは我が目を疑った。
「まさか・・・念話の報告の中にあった聖剣の使い手か!?」
ジョセフィーヌは足下にあった単眼鏡を拾い上げ少女をよく見る。――少女はどこか見たことのある鎧の一部を身に着け、金の装飾が美しい剣を手にしていた。間違いなくあれが聖剣であり、“この戦いも、この先の戦いも勝てる”という希望が湧いてきた。
「私も負けていられないな・・・!」
そう呟くと、弓に矢をつがえた。
■
周囲には倒れて動かない帝国兵が増えていった。ベルナデットは今は敵兵の生死を考えないようにし、屍兵を探そうとする。だが、そこで集中し過ぎたせいか、接近してくる敵兵に気付かなかった。
「ベルちゃん、危ない!」
「えっ!?」
ニアの叫び声と同時に、ベルナデットの背後にニアが立ち、杖で剣を受け止めつつベルナデットを突き飛ばした。ベルナデットは一瞬戸惑ったものの、即座に身体が敵兵に反応し、反転して距離を詰めると敵兵の腕を斬り付けた。
「ぐあっ!?」
敵兵は思わずニアから剣を離すと、今度はニアがすかさず杖を向けて氷弾を撃ち込み、敵兵を昏倒させた。
「ニアさん!」
ベルナデットは慌ててニアの傍へ寄った。ニアの手の甲には、切り傷があることに気が付いた。
「大変! 怪我が・・・私がぼうっとしていたせいで・・・!」
「大丈夫よ、これくらいかすり傷なんだから! それよりも、油断しちゃダメよ?」
「は、はい!」
ニアに言われてすぐに戦いの方へ意識を向けるが、自分の油断のせいでニアに怪我をさせてしまった、とベルナデットは心の奥底で落ち込んでいた。
一方、王国軍は屍兵が倒されたことでより有利な戦況へと運び、ローランたちは敵将の陣にまで踏み込んだ。敵将の護衛はローランの部下たちが倒し、敵将一人である。
「大人しく降伏すれば、貴様と残った兵士の命までは取らん!」
ローランは剣の切っ先を敵将に向け、一応選択肢を与えた。
「フン、今更命乞いなど・・・! 勝ったと思うには早過ぎるだろう!」
敵将は剣を抜き、ローランと対峙する。ローランも剣を構え直すと、どちらともなく動き出して斬り結んだ。激しい剣戟の応酬が繰り広げられ、ローランの部下たちは割って入ることが出来ずに、固唾を呑んで見守る。
実力は互角か、ローランが少し上を行っていた。今のローランは勝利へと突き進むために、普段よりも激しい剣筋である。そしてその結果――押し勝ち、首を跳ねたのはローランの方であった。敵将の首が兜ごと地面に落ち、衝撃でズレた兜から出て来たのは、自分が敗北したことを受け入れられていないような敵将の頭であった。
ローランの勝利と敵将の死が戦場に伝わり、王国軍の兵士たちからは勝ち鬨が上がった。ベルナデットが最後の屍兵を倒したのは、その直後のことであった。
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