サイダーみたいな夜

斗花

こんなに

第1話

私の話を聞いた同期の泰葉やすは

パスタを食べながら驚く。


千尋はハンバーグを切りながらうんうん、と頷いた。



「え……?!

矢木さんって、生活支援事業部の?!

社長の運転手の?!」


「そう、その矢木さん!」



千尋はハンバーグをあっという間に食べ終えて泰葉のパスタをフォークで横取りした。


泰葉は千尋の手を叩く。



「だって、このみ言ってたじゃん!

矢木さん見た目怖いしイカついしあんまり関わりたくないって!」


「最初はそうだったの!!


でもね!矢木さんって超優しいんだよ!すごい気がきくし!


一緒に仕事の時、アップルティー買ってくれるし!

私が普段飲んでるの覚えてくれてるんだよ!

すごくない?!」



熱く語る私に泰葉は少し呆れた顔をした。


千尋はスイーツを選びながら私の顔を少しだけ見て聞く。



「矢木さんって強い?」


「強い……と、思う!

千尋よりは弱いかもだけど!」



千尋は柔道黒帯で、大学の団体で優勝したこともあるらしい。


私の言葉に一気に興味を失う千尋。



「で?矢木さんと付き合いたいの?」


「付き合いたい!

一応、ご飯は行くって約束したんだよ!


なに食べたらイイかな?!なにがお勧め?!」



泰葉もつまらなそうに首を傾げる。


そして、腕を組んで言った。



「てゆうか私、矢木さんはこのみこのとなんて、絶対に相手にしないと思うんだけど」



そして、私たちが入社する一年前の全社表彰パーティーの写真を見せてきた。



そこには広報の豊橋さんをお姫様抱っこする、矢木さんの姿が。


その写真を見た私は固まってしまう。


千尋はチーズケーキを頼むとその写真を改めて見る。



「うわー!豊橋さん、本物のお姫様みたいだなー!


あっ!矢木さんってこの人か!

ちゃんと腕鍛えてるじゃん!合格!」


「な、なんでこんな写真……、泰葉が持ってるの……?」


泰葉は携帯の画面を消すと悪びれもせずに続けた。


「社内報作る時に過去の写真漁ってたら出てきた。

二人、同い年で家の方向も同じらしいよ。


入社もだいぶ昔だし、二人とも社長と入社前からの知り合いらしいし共通点多いよね。


てゆうか、豊橋さん本当綺麗」



私の頭の中に二人のお姫様抱っこがグルグルする。



豊橋すみれさんは広報部の弊社を代表する美人さんだ。

そして愛想も良く、会社のアイドル的存在。



取材や制作物、新卒説明会など顔を出す場には必ず豊橋さん、というくらい。


私が新卒で入社するときも豊橋さんの説明を受けた。



あ、自己紹介サラッとします。

湯崎このみ、社会人1年目です。



「で、でもっ!

二人が付き合ってるなんて聞いたことない!」


「仲良いってよく聞くけど」



マーケ本部で働く同期の泰葉はやたらと情報通だ。


何も言えなくなる私に千尋が更に追い討ちをかけるように話しかける。



「矢木さん、私は話したことないけど見るからに大人じゃん。

このみみたいな子ども興味ないんじゃない?」



ち、ちひろに言われたくない……!


言われたくないけど矢木さんって、たしかに社内でも年上綺麗目お姉さん達に可愛がられてる印象ある……!



「で、でもっ!

私のためにソーイングセットくれたりした!」


「それは仕事で必要だからでしょ?」



最もすぎる泰葉の言葉に私は何も言えない。



「……え?てことは、矢木さんって私に興味ないの……?!」



二人は更に興味なさげにさあ、と首を傾げた。

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