第4話

翌日学校の帰りに駅で待っていたら、この辺りには似合わないちょっと派手な赤い車が駅のロータリーにとまる。


高級そうだなー、と思っていたらそこからは空さんが出てきた。



「梅ちゃん久しぶり」


「……あ、れ?え、えと……?」



私の記憶が正しければ、空さんは車の免許は持っていないし、いつも自転車かバイクだ。


なのになにあの赤い車。



「お、お久しぶり、です……」



私の動揺を悟ったらしい空さんは苦笑いでこちらを見る。


そしてその車からは、そこだけ住所違ったっけ、と思わせるほどのオーラを放ついわゆる超イケメンが車から出てきた。



「よぉ、梅」



しかもメッチャ馴れ馴れしく呼び捨て。

でもドキドキする。

空さんは私の隣に立って何も教えてくれないし。



「あ、あの……?」


「あー、空好きそうだなー。

なんか戦争ドラマとか高度経済成長時代の再現とかに出てきそうな感じ」



あご掴まれて持ち上げられて。


なんか、なんでだろう。

颯太さんに言われた時はすごくムカついたのに、今はそれで良いって思える……!



「俺の名前分かる?」


「わ、分からないです……」


「彼氏の兄貴の名前くらい知らなきゃダメだろ」


「ご、ごめんなさい……?」



なんで私謝ってるの?いや、そんなことどうでも良いや。



「陽。気軽に陽お兄様って呼んでね」


「……陽お兄様……」



こ、この方が……!

そしてすんなりサマ付できたのはなぜ?


本当に経験したことない、なにこの感覚、気持ち悪い私。


そんな私をよそに空さんはさっさと車に乗り込む。



「おいで、梅ちゃん」



空さんにおいで、とか言われるとどこでもついて行きたくなる。


私は小さく頷いて陽お兄様から離れ、空さんの隣にちょこんと座った。



「あの、それで、空さん。この状況は、一体……?」


「俺が梅に会いたいって言ったの。

空に彼女いるのは別に珍しいことじゃないけど、空が俺に必死に隠すのは珍しいことだったから。

どんだけ可愛い子なのかなーって。な、そら」



陽お兄様の言葉を空さんはシカト。私の目すら見てくれない。



「……あ、あの、空さん?どーかしたんですか?」


「え、いや、別に?」



思い詰めた表情……すてき。

……じゃなくて!


私、何かしたのかな……?

もうちょっとオシャレしてくるべきだった??



「あ、あの、空さん!これ、良かったら!

お煎餅なんですけどっ!」



空さんは私のその紙袋をそっと受けとった。



「ありがとう」



陽お兄様はミラー越しで少しだけ笑っている。

やっぱり私、何かしたかなぁ……。


そう考えていたら車が少しずつ減速して、派手な赤い車とは少しちぐはぐな感じの民家の車庫におさまる。



「梅ちゃん、降りようか」



空さんはそういって先に下りてから、回ってドア開けてくれた。


やっぱりココだけ住所違うかもしれない……!


しかし家に入ると靴で散らかった玄関にやたら物が置かれた廊下、汚い訳じゃないんだけど生活感たっぷりのリビング。

所狭しと干されたジャージや洋服。



「汚くてごめんね。洗濯、追いつかなくて」


「いえっ、全然大丈夫です!」



なんか……、大家族っぽい!



「人の家キョロキョロ見すぎ」


「あ、ごめんなさいっ!」



陽お兄様は一番窓に近い、座布団いすが置かれた場所に堂々と座り私を手招く。


空さんを見たらコップとお茶を用意していた。



「梅」


「は、はいっ!」



「お前、空のどこが好きなの?」



赤くなる私を見てニコーと笑う陽お兄様。



「え、えっと……、優しい、ところとか……」


「うん」


「いつも爽やかな所とか、」



「ちょっと陽兄。

あんまり梅ちゃんのこと虐めないで」



お茶をテーブルに置くと空さんは私の隣に座る。

堂々と座る陽お兄様に対し、なぜか正座の空さん。



「弟の彼女の値踏みは兄貴の大事な仕事だろ」


「そんなの聞いたことない」



しかしそう言いながら陽お兄様のグラスにお茶を注ぐ空さん。そして私のお煎餅を出す。



「梅は何歳?」


「高二ですっ」


「どこ高?」


「芦沢高校ですっ」


「得意科目は?」


「体育ですっ」


「苦手科目は?」


「数学ですっ」



「はい、不合格」



……えぇえーっ?!



「な、なんでですか……?!」


「得意科目が体育だから」


「あ、じゃあ、変えます!」


「意志がない奴はもっと無理」


き、厳しい……!

かなり動揺する私を見て空さんはため息をつく。


その後も私に対する不合格の嵐は続く。


じゃんけん弱かったり、日本語ちょっと間違えたり、バイト先のファミレスのメニュー全部言えないってこととか不合格に繋がった。



「やっぱり空の彼女なんて無理なんじゃないの?」



な、泣きそう……。

やはり彼氏の家族に好かれるのは難しいんだろうか……。



「もうやめろよ、陽兄」



落ち込む私を哀れに思ったのか、空さんはそう言って陽お兄様のことを睨む。



「梅ちゃんはいい子だよ」


「何がいい子なんだよ。

頭がいい子なのか、顔がいい子なのか、かわいい子なのかハッキリしろよ」



……要するに私はバカでブスでかわいくない、と……。



「頭も良いし顔も良いしかわいいよ!性格も良いしっ!」


「368×458が五秒以内で出来ない奴のどこが頭良いんだよ」


「問題が難しすぎるんだろ!俺もできないわ!」


「難しい?は?三桁の掛け算なんて小学生で習うんだぞ?」


「自分が出来るからって、みんな出来ると思うなよ!」


「煎餅もボロボロこぼすし……」


「陽兄がやたら話し掛けるからだろ!」



あぁ……、目の前で、ある意味、私を巡って兄弟喧嘩が勃発……。


空さんにかわいいとか性格良いって言われたのは本当に嬉しいけど、喧嘩は止めなきゃ……。



そんな時。

私の脳裏には小牧さんたちの言葉が浮かぶ。



私には魔法の呪文がある!しかも二つもっ!

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