第2話

本当は梅ちゃんのこと待ってたくて仕方ない。



会いたい。でもっ!

俺には家庭があるっ!



「た、ただいまっ!」


「あ、空っ!お帰りなさい!

ねぇ、どうしたら良いのかしら?!

コンロが点かなくなっちゃった!」



母親はそう言いながら俺のほうに駆け寄って、俺は慌ててキッチンに向かい大急ぎで窓を開ける。



「ガス漏れ!この間言ったでしょ、いまコンロ壊れてるんだってば!

修理するまではとりあえず、長く押して回して!」


「そうだった、ごめんなさい」



露骨に落ち込む母親に俺はやや焦る。



「いや、良いから。うん。遅くなってゴメンね。母さんはお皿出して」



落ち込みながら食器棚から皿を出していく母さん。



瑞穂と華は黙って動くものの、他の奴らは全員テレビを見て爆笑。



ウチは10人家族だ。



喜一さんが言ってくれた通りの名前と年齢の兄弟がいて俺は上から三番目。



母親は昔グラビアアイドルで、父親は当時AD。


父親はその立場を利用し、19歳のうら若き母親をゲット。


いわゆる、できちゃった婚。


父親は今も普通にディレクターをやっていて収入もそこそこあるけれど、なんせ人数が多い。

そこそこの収入だと足りないくらいの人数で、そこそこの収入だから国から補助を受けられない。

そこそこ大きな家に住んでるけど、そこそこだと足りない人数がいる。


学費のことを考えて、俺は頭が悪いから通信制の高校に通っている。



長男は天才だから大量の奨学金をもらい大学に進み、長女は顔しか取り柄がないからキャバクラで働き、弟はあまりにもチャラチャラだから将来働くために工業高校に通い、以下は義務教育中だ。



だけど覚えなくて大丈夫。


こんなの覚えられるの喜一さんとギンちゃんくらい。



俺はカレーを作りながら、ため息をつく。



梅ちゃん……、ごめん……!


付き合って二ヶ月……。

まだ一度もデートにも連れてってないし、電話やメールも、まともに出来ていない。


いや、それ以前に!

もうかれこれ三週間、会ってもいない!



「ごめん、本当ごめん、俺が主婦もどきなばかりに……。

家庭の事情を恋愛に持ち込むのは恋愛敗北法の一つなのに……」


「空、どうした?」



ルーを混ぜながら呟いていたら陽兄が隣から覗き込む。


「わっ!な、なに?!

台所に来ないで!俺の聖域!」


「お前本当キモいな。

一人ぶつぶつ呟いてたから心配してやったんだろーが」


そう言いながら高級そうな肉を台所にボン、と置く。

俺は野菜を切りながらその肉を見るだけにしておいた。



「なにそれ」


「なんか大学の女が、お菓子寄越してきたから、『もっと肉とか野菜とか栄養になるものが好き』ってふざけて言ったらマジで肉くれた。感謝しろ、空」



陽兄は昔から天性のモテ男だ。


道を歩けば女性は振り向き、声をかければ向こうは敬語になる。

カリスマ性っていうのかな。それが我が兄ながらすごい。


陽兄は俺のことを面白そうに見て笑う。



「お前彼女できたの?」


「いや、できてないよ」



中一の頃付き合った彼女は陽兄に惚れてフラれた。

以来俺は陽兄には彼女は会わせないようにしてる。



「空は可愛い顔して、意外とやることやってっからなぁー」


「陽兄と一緒にしないで」


「どうせ今回の女もチャラチャラした年上なんだろ?」



会わせはしないがなぜかバレる。


……まぁ、正直??

遊びっぽかった付き合いも多いから、そこまで警戒とかもなかったけど。



「だから、いないって」



だけど、今回の俺はかなりマジだ。

本当に梅ちゃんが好き。



「チャラ子か。なに、何歳?」


「……」


「どうせ巨乳だろ?あ、美脚?どっちもそなわってる系?」


「……」


「ギャル?ギャルか?それかすげーアホ?


昼間からパチスロ通ったり、酒飲みまくって学校サボって、耕作女バージョンみたいな-」



「そんな子な訳ないだろ!」



怒鳴った俺の肩に陽兄はニコニコしながら手を置く。

カレーは気付けばぐつぐつ言ってた。



「じゃあ、どんな子?」



あと、陽兄は拷問の天才でもある。

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