ラズベリーと苺は全く別物
第42話
楽しかった文化祭も夢の様に去っていく。
夢じゃないって分かる理由は棚に置いてあるぬいぐるみだけ。
でも、今思うと私、ゆきくんから色々もらってるなー。
……なんか、申し訳ない。
そんなことを考えていると、ゆきくんの声がする。
あ、そーだ!
今日、勉強教えてもらうんだよね!
「はいっ、どーぞ!」
私は部屋の扉を開いてゆきくんを招き入れる。
「はかどってる?」
私のノートを横から見て聞いてきた。
「うーん……。
でも、やっぱり数学が……」
「あ、これはね、グラフにするの」
ゆきくんは数学が得意。
私は分かっててゆきくんが来る日は数学をやるって決めています。
「でも、蘭ちゃん、本当に頑張ったよね」
そりゃ、ゆきくんのタメですからっ!
「秀も褒めてたよ」
「……秀が?」
なんだかそれはビックリ。
「あいつ、何だかんだ蘭ちゃんのこと、心配してるよ」
「……ゆきくんは?」
秀の話をするゆきくんに、まじまじと聞いた。
ゆきくんは少し止まる。
「……俺?」
「うん。ゆきくんは私が心配?」
秀が心配してくれるのは別に、嬉しくないよ。だって家族だもん。
でもゆきくんは違う。
「私、ゆきくんに心配されたい」
ゆきくんはお兄ちゃんじゃない。
“好きな人”。
「……俺も心配だし、蘭ちゃんに受かってほしいよ?家族みたいなものだからね」
……妹脱却は気のせいだったのかな。
「ゆきくんにとって私はやっぱり、妹みたい?」
時計の音がやたらうるさい。
「蘭ちゃんはかわいいよ。秀の妹だしね」
……神様、昔の感謝をたった今、取り下げます。
なんで、私を秀の妹にしたんですか?
「あっ!そーいえばね。
姉ちゃんの結婚式、今週の日曜日だね」
「……そうだね!私も行けて嬉しい!」
「姉ちゃん、多分一番蘭ちゃんに来て欲しいと思うよ」
お世辞でもその言葉は嬉しかった。
「……弥生ちゃんに電話して良い?」
「うん、いいと思うよ」
もう、なんかダメだ。私、泣きそうだ。
「他に分からないのある?」
「ううん、大丈夫!
ありがとうっ、また教えてね」
追い出すようにゆきくんを部屋から出した。
ゆきくんが出ていってからベッドに寝転ぶ。
……なんか、勉強とかの気分じゃない。
私、何を頑張ってるんだ?
「……弥生ちゃん?」
「おー!久しぶり!どーしたの?」
「今、忙しい?」
「いや、超、暇なんだよねー!
日曜日、結婚式なのにさ」
「……会いたい」
弥生ちゃんはまだ福本家に住んでいる。
「会いたいよ、弥生ちゃん」
無性に弥生ちゃんに会いたくなった。
「……分かった、蘭ちゃん。今、行くよ」
どうして私は秀の妹なんだろう。
そんなこと初めて思った。
ゆきくんが好き。
でも、いつになったらこの気持ちは届くのかな。
弥生ちゃんはすぐに部屋に来てくれた。
「……弥生ちゃん」
抱き着いて、落ち着いて、涙が出てきた。
「どーしたの、蘭ちゃん」
「……秀がお兄ちゃん、ヤダ」
いつだろう。昔、勘違いしてた。
ゆきくんがお兄ちゃんって。
「私、いつまでも妹なのかな……」
弥生ちゃんはゆっくり私を離す。
「幸也に何、言われたの?」
目を覗き込んだ。
「……ゆきくんは悪くない」
誰も悪くない。何も悪くない。
だから、やりきれない。
「……幸也は蘭ちゃんを妹だとは思っていないと思う」
そう言った弥生ちゃんの顔はすごく、真剣だった。
「あいつが何考えてんのか知らないけど。
でもね、蘭ちゃん。妹なんて、思わないよ。
だって、妹じゃないもの」
そして私を優しく抱きしめた。
「私だって蘭ちゃんを妹だなんて思ってない」
ねぇ、弥生ちゃん。
じゃあどうしてゆきくんはあんなこと言うの?
私にはもう、分からない。
でも、分かるの。ゆきくん以上の人なんて、もう絶対に現れない。
昔は秀と比べていた。
秀より、優しい。
秀より、足が速い。
秀より、かっこいい。
でも、いつからかな。
秀とは全然関係なくなっていた。
ゆきくんが好き。
キラキラしてるゆきくんも、かっこいいゆきくんも、周りを気にしすぎるゆきくんも、悩むゆきくんも全部、好き。
そんな気持ちを伝えるには私はまだ子供すぎますか?
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