錬金術の始まり


 アカデミーの寮へ戻ったエメリウスとカインは、しばらくの間、それぞれの部屋で休息を取った。酒場でのやり取りや依頼内容の確認により、少しずつアカデミーでの生活が現実味を帯びてきたことで、エメリウスは心地よい疲労感に包まれていた。


 「さて……少しは予習しておくか。」


 エメリウスは机の上に置いてあった分厚い教科書を手に取り、ページをめくる。数日後には本格的な授業が始まるため、今のうちに少しでも知識を蓄えておこうと考えていた。


 「カイン、そっちの部屋で一緒にやらないか?」


 「お、いいね! どうせ一人じゃ寝ちまいそうだったしな。」


 こうして二人はエメリウスの部屋に集まり、教科書を広げて予習を始めることにした。


 「第一章:錬金術の始まりと成り立ち」


 エメリウスは声に出して読み上げる。


 「錬金術とは、古代の賢者たちが世界の理を探求する中で生み出された技術である。大地の恵み、水の流れ、炎の力、風の導き——これら四大元素を組み合わせ、物質を別のものへと変化させる術である。」


 「ふーん……やっぱり基本は四大元素なんだな。」


 カインが頷きながら言う。彼はさほど学問に熱心ではないが、話を聞くうちに興味が湧いてきたようだった。


 エメリウスはさらに読み進める。


 「錬金術の起源は『始原の賢者』と呼ばれる者によって確立されたとされるが、その詳細は今もなお不明である。しかし、現存する最古の錬金術書『エルミアの書』には、金属を錬成し、薬を生み出し、不老不死の秘法を探求した記録が残されている。」


 「不老不死か……。結局、見つかったのか?」


 「うーん、書には『道半ば』としか記されていないみたいだ。」


 エメリウスは興味深そうに指で書かれた文字をなぞる。


 「ただ、錬金術はいつしか人々の生活に取り入れられ、特に『治癒の錬金術』は多くの国々で発展を遂げたらしい。」


 その言葉に、エメリウスはふと自分がこの道を志した理由を思い出す。幼い頃、瀕死の病から救ってくれたあの錬金術師……彼もこの古くから続く技術を極めた一人だったのだろうか。


 「……やっぱり、すごいよな錬金術って。」


 エメリウスは拳をぎゅっと握りしめた。


 「お前、本当に錬金術が好きなんだな。」


 カインが笑いながら言うと、エメリウスも少し照れくさそうに微笑む。


 「まあな。でも、まだ始まったばかりだよ。」


 二人はその後も教科書を読み進め、錬金術の基本的な理論や応用について学んでいった。時間が経つのも忘れるほど、夢中になって読み進めていく。


 そして夜が更ける頃、エメリウスは一冊目の教科書を閉じ、大きく伸びをした。


 「ふぅ……今日はここまでにしようか。」


 「おう。俺も頭がパンパンだ。」


 カインが苦笑しながら立ち上がると、部屋の窓から見える夜空には、無数の星が輝いていた。


 「明日からまた頑張ろうぜ、エメリウス!」


 「もちろん!」


 エメリウスの胸には、錬金術師としての道を進む覚悟が、少しずつ確かなものになっていくのだった。


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