転生した凡人は誰かに認められたい!
明日葉 晴
前編
──俺はどうしようもないほどに凡人だった。
頭は良くはなく、
運動もからっきし、
人付き合いなんてもってのほか。
誰かに自慢できる何かを持ち合わせていない、どこにでもいる『凡人』。それが俺。
俺だって、努力したさ。
自分に出来ることを全力で。
頑張って、頑張って、頑張って、頑張って。
頑張った先には──他の誰かが何時もいた。
努力する天才は誰にも止められない。
効率良く努力出来る秀才はどこまでも進みゆく。
追い縋るので精一杯な
所詮、俺はどこまで行っても主人公のように周りから認められる存在になれない。
泣いて。
諦めて。
忘れて。
逃げて。
……でも、やっぱり認められたくて。
不器用な俺は自分の夢を捨てきれなかった。
それが──前世での俺。
何の因果か、俺は前世とは異なる世界で生まれ変わった。いわゆる異世界転生ってやつで。
今世の名は、レグル=エルリード。
俺という意識が起きる前に両親に捨てられ、今はエルリード孤児院でお世話になっている男児。境遇こそ悲劇の少年だが、この世界では珍しくないらしく、俺のような境遇の子が他にもここにはいる。
早くも辛い現実──だが、俺は喜んだのだ。
人生二周目。
普通ではありえない経験が俺にはある。
捨てられたという生い立ちが些細な出来事だと思ってしまうほどに、もう一度夢を叶えられるチャンスが訪れたことが嬉しかった。
俺という存在を認められたい。
その原点は死んでも燻らず胸の内で燃えていた。
さっそく、夢という原動力を得た俺は努力して──現実を知ってしまった。
当たり前の話ではあるけれど、この世界にもいたのだ。
天才ってやつが。
秀才ってやつが。
もう一度言おう。
何度でも言おう。
俺はどうしようもないほどに凡人だった。
♦♦♦♦
俺が転生した世界には各々が『固有魔法』を覚えていた。例外はない……と思う。少なくとも俺が知る限りの人は魔法を使えている。
固有魔法ともあって、その魔法を使えるのはその人だけ。オンリーワンの力が当たり前のように備わることになる。
それから、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、特殊魔法の4つの系統に分かれる。どれが優れていて、どれが劣っているというのはない。適材適所、その力が発揮されるにはその力に沿う環境が必要なのだ。
そして、俺にも固有魔法は存在した。
模倣魔法。
対象の魔法術式の解読、完全詠唱、効果範囲の認知の3つさえクリアしてしまえば、オンリーワンのはずの固有魔法を使えるということ。分類は特殊魔法に属される。
稀有である特殊魔法、それも他に類を見ないコピーを行える力。もちろん、発動条件の難しさ、魔力使用量増大、オリジナルより劣るというデメリットはあるが、それでも破格の力であることはこの世界に疎い俺でもわかる事だ。
浮かれるな、というのは無理からぬことだろう。
……普通なら。
「んー、どうしたの?私を見つめて」
「……いや、なんでもない」
「そぉ?」
視線の先にいるのは、可愛らしい女の子。
ステラ=エルリード。
透き通るように綺麗な金髪の長髪を靡かせ、くりくりと大きな紅色の瞳は宝石みたいで。同じ8つの歳だというのにその身に宿す雰囲気は別格のように感じる。
そんな彼女の魔法は、創作魔法。
自身の魔力容量が許す限り、好きなように魔法を創れてしまう力。この世界で唯一と言い切ってもいいほどに特別な魔法。
更には、彼女のセンスは繊細でありながら滑らかで、他を圧巻させるほどの美しさを物語る。
魔法を愛し、魔法に愛された存在。
……俺の完全なる上位互換。
俺が焦がれ続けている天才──それがステラだ。
「……ズルいよなぁ」
「私の可愛さが?」
「違う」
「私が可愛くないと?」
「それも違う」
じゃあ、私は可愛いんだね!──そう嬉しそうに笑うステラを見て、俺はため息を吐いた。
自分に絶対的自信がある彼女はこうして自己肯定感を高めてゆく。誰にもそれは止められない。
そして、ステラは自分の才覚に驕らない子だった。現に今も俺と共に孤児院の中にある広場で鍛錬を行っている。これ以上の力なんて必要なんてないだろうに、彼女は決まって「レグルに負けたくないからね!」と笑って俺と鍛錬を積むのだ。……俺なんかがステラに敵うはずないのに。
努力を欠かさない天才の成長は目覚しい。
それは前世から変わらずに今世でも適用される。
「お2人とも楽しそうですね。わたしも混ぜてください」
ステラと軽く話し合っていると、鈴を転がすような声が聞こえてきた。
「遅かったねー、エレノア」
「お2人が早いんです。これでも急いで来たんですよ」
「えー、そうかなぁ?」
「そうなんです」
むー?と唸るステラに、柔らかく微笑むエレノア。
エレノア=エルリード。
ふわっとくせっ毛の強い銀髪を揺らし、ややつり目がちの蒼色の瞳は青空を彷彿とさせる。エレノアもまた8歳であるのにステラ同様に気品さを感じられずにはいられない。
……そして、彼女もまた俺が願って止まない側の人間。──すなわち、秀才と呼ばれる存在だ。
エレノアの魔法は、氷結魔法。
攻撃魔法、防御魔法の2つの属性に分類され、その応用力は単一の魔法で頭一つ飛び抜けている。それゆえ、氷結魔法は人によって扱いの差が浮き出る。
エレノアはステラと違って感覚派……天才肌とは言えない。なんだったら、彼女はこの孤児院で1番魔法操作が下手だった。幼い頃は魔法の暴発により氷壁が何度現れたことか。
それでも、エレノアは諦めることをせず、理論をもって魔法を支配下に置いた。完璧に、完全に、完成させよ。エレノアの口癖であるそれを忠実に実行し、彼女の成長はステラに追いつかんとする勢いを見せる。
努力を紐解き再現性を作り出した秀才は駆け抜ける。
唯一、ステラと競える存在がエレノアという女の子だ。
対して俺は──
「……何にも変わってない」
模倣魔法を自分のものと出来ていない。
2人のように分かりやすい変化がいつまでも来ない。
俺だけが置いていかれている。
前世からの付き合いである焦燥感は心を埋めていく。
お前は凡人なんだ。
どうしようもないほどにその事実が胸を締め付けてきた。
「レグル?」
「レグルくん?」
2人の心配する声が耳朶に触れる。
やばい、センチメンタルな気分に浸りすぎていた。
俺が笑顔を取り繕うよりも、ステラが俺を押し倒す方が早かった。
ズドンッ、と勢いよく背中から落ちたものだから、痛みが身体中を駆け巡る。そんな痛みに悶える俺を気にせず、ステラは俺に跨る。
「いったぁ!」
「レグル!」
「な、なに?痛かったんだけど……」
「私が見ているよ!!」
「えっ?そりゃあ、こんだけ顔が近ければそうだろ」
「むー!!」
「い、いたっ、地味に痛い!?」
返答が気に入らなかったのか、ステラは俺の胸を叩いてくる。何が悪かったかわからない俺としてはこの攻撃を止める手段はなく、ただただ我慢することしか出来なかった。
若干、涙目になってきたところで、エレノアが俺の右手を握る。ひんやりとした体温が伝わってくる。
「わたしはステラちゃんのように直球に伝えられませんけど……」
「エレノア?」
「レグルくんはもっと自分のことを見てあげてください」
「……え?」
「お願いです」
泣きそうな顔でお願いだと言うエレノアに、俺は言葉を失ってしまう。
2人して何を伝えたいのかがわからない。
……けれど、それを言うことを何だか憚られて、俺は殴られることを、手を握られることを、受け入れることしか出来なかった。
♦♦♦♦
「えーっ、マザー城下町に行くのー!?ずるいっ、私も行きたい!!」
ステラのけたたましい大声が孤児院に響く。
そんな大声を一身に受ける淡い緑髪の女性は困ったように笑った。
「本当は、みんなを連れていきたいんですけれど、最近は何かと物騒ですので。連れて行ってあげることは出来ないのです」
「むー!」
「ほら、代わりにお土産もめいいっぱい買ってきますから。ね?」
優しく諭しられ、頭を撫でられているステラはまだ諦めきれないのか、唸り声をあげ続けている。
……しょうがないか。
「ステラ」
「なに?レグル」
「今日は鬼ごっこをしようか」
俺の一言によって、ステラの動きがピタリと止まった。それから、俺の方へと振り向く。
「本当?」
「本当」
「本気?」
「本気」
少しの問答を繰り返して、ステラはマザーに顔を見せる。その表情はさっきまでとは打って変わって満面な笑顔で彩っていた。
「マザー!いい子で待ってるね!!」
「はい、お願いしますね」
変わり身の早いステラの言葉に、マザーは淑やかな笑顔で答えた。
そうして、ステラの我儘がひと段落着いたところで、マザーが俺の方へ視線を向ける。
「レグル、ありがとう」
「いえ、俺は別に何も」
「ふふっ、そうですか」
柔らかな言葉を置いて、マザーは俺の頭を撫でてくる。ゆっくりと相手が不思議と落ち着く優しい手つきで。……ちょっぴり恥ずかしいけれど、俺はこの人に撫でられるのが嫌いじゃなかった。
マザー──改め、リンフィア=エルリード。
淡い緑色の髪を後頭部でお団子にするシニヨンヘアに束ね、髪と同色の瞳には慈愛の情を垣間見ることが出来る。このエルリード孤児院を1人で切り盛りする偉大なマザー。……年齢は何となく怖くて聞けてないから誰も知らない。
というより、年齢に限らず、マザーは自分のことをあまり話さない。ので、魔法はおろか今まで何をしてきたのかという部分もわからない。まぁ、愛されているという自覚はあるし、マザーも何か理由があって話せないと薄々察してはいるので、無闇に聞き出そうとは思わない。それは他の2人も同じようで特に知らなくても問題なく過ごせている。
ちなみに、俺たち3人の家名にエルリードがついているのは、マザーの方針である。血が繋がらずとも名で繋がっている。俺たちは家族であるという証明に……と。だから、俺は、俺たちはこのエルリードという名が好きなんだ。そこには溢れんばかりの愛情が込められているから。
「レグルくん、嬉しそうですね。わたしも撫でてさしあげましょうか?」
「いや、いいよ。……というより、マザーももう頭撫でないでください。恥ずかしいです」
「あら」
ひとしきり撫でられていたら、エレノアに茶化されてしまったので、ここで終わらせておく。
俺が恥ずかしがっている事が可笑しいのか、エレノアとマザーは揃って顔を見合せ、くすくすと笑った。……顔が熱いなぁ。
「それでは、そろそろ出発しますね」
そう言って、マザーは俺たち3人の顔を視界に収めていく。
「いつも言っていることですが、危ないことはしちゃいけません」
「うん!」
ステラが答えて、
「それから、何か困ったことがあれば、1人で抱え込まずに3人で助け合うこと」
「はい」
エレノアが返事をして、
「なるべく早く帰るようにしますから、それまでの間は
「任せて」
そして俺が頷いて、
「はい、いい返答を頂けたので、これで心置きなく出発することが出来ます。ステラ、エレノア、レグル──行ってきます」
「行ってらっしゃーい!」
「どうぞお気をつけてください」
「行ってらっしゃい」
マザーは満足そうに笑った後、外に出かけにいった。
ぱたん、と静かに扉が閉じる音が広がって、
「じゃあ、さっそく鬼ごっこしようか!」
ステラがそう宣言した。
「いいよ。約束したし」
「では、わたしも混ざりますね」
「……いいのか?」
「もしかして、仲間はずれにするのですか?」
「いやしないけどさ」
「ならいいじゃないですか。2人よりも3人でやった方が楽しさは倍増しますよ。ね、ステラちゃん?」
「おー、エレノアも参加するの?いいじゃん、いいじゃん。楽しくなってきたよ!」
「ほら、ステラちゃんもこう言ってますしね」
「……まぁ、俺が断るのも変だし。そうだな、3人で鬼ごっこをしようか」
そういうことで、いつもの面子で遊ぶことになった。
これから遊ぶのは、ただの鬼ごっこではない。
この世界……というより、俺たちの鬼ごっこ。前世の記憶とは乖離しすぎて比べようがない、大人ですら逃げ出したくなるほどにハードな遊び。難易度調整ミスっているとしか思えない。
そんな鬼ごっこを思い起こしながら、俺とエレノアはステラに手を引かれながら広場へ向かうのだった。
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