第26話 学校祭2日目

 次の日、朝7時。僕はいつもより結構早い時間に学校についた。なんてったって、今日は学校祭の一般公開日1日目。ここからが学校祭の本番だ。


 教室へ向かう亮一と別れて、僕は化学室に行った。


 もちろん鍵は閉まって…… おらず、ドアに手をかけるといつも通り開いた。dめお、この時間、本当だったらドアは閉まっているはずだ。


 恐る恐る中に入ってみるが、そこには誰もいなかった。


「なんで鍵が空いているんだ? 」


 化学準備室の方を覗いてみるが、誰もいない。ただ黒板前の供託に鍵がぽんと置いてあるだけだ。 


「おかしいな。昨日はちゃんと鍵閉まってたのに…… 」


「誰だ、わらわの眠りを妨げるのは」


「え? 」


 声がする方…… 机の下を見ると、死体のように横たわっている雛先輩がいた。


「うわわわ! 」


「なんだ。昴くんか。おはよう」


「おはよう…… ございます? 先輩、どうしたんですか? いつからいたんですか? 」


 雛先輩は白衣を纏った華奢な体をボキボキ言わせながら起き上がった。


「えっと…… いや、今何時? 」


「今7時15分ですよ」


「じゃあ2時間か〜 」


「ということは5時には来ていたんですか? 」


「うん、なんだか眠れなくて、3時くらいに起きちゃって、じゃあ化学室に行こうってなって…… ねえ、なるでしょ? 昴くんも」


「いや、なりませんよ」


「で、24時間営業のスーパーまで行ってチョコとか買ってきて、4時位に学校についたんだけど、ドアが開いてなくて…… 」


「そりゃ、4時にはまだ学校のドアは開きませんよ」


「で、とりあえずここのバルコニーに登ってきて、」


 ん? バルコニー? ああ、窓の前にある空間ね。


「で、窓のサッシのところに輪ゴムをピンセットで入れて、針金入れて、窓開けて、そうして入ったってわけ」


「いや、なんでそんなことできるんですか? 」


「いや、非常用の鉄パイプのはしごあるでしょ」


 いや、答えになってない…… 


「じゃあ、化学室のこの鍵はどうしたんですか? 」


「え? 普通に職員室のロック解除して中に入ったよ? 」


「え? 」


「え? 」


 一体、何をしているんだ? この人は。


「職員室のロックのパスワードなんて生徒知ってたら大問題ですよ」


「別に、私テスト用に盗むとか、改ざんするとかしてないし…… 」


「もう、悪い用法出てるじゃないですか。というか、どうやって知ったんですか? 」


「え? 普通にパスワード当てただけだよ。去年から、何回か面白そうだからチャレンジしてたら、10回目くらいで当てたんだよね〜 」


 本当に化け物だ。この人。


「まあ、そんな事はいいや」


「いや、良くないです」


「まあ、仕事お願いね〜 」


「いや、速く来てるならやっておいてくださいよ」


 なんとも不思議な先輩だ。で、仕事というのは、昨日売れたストラップの利益計算だ。個数がしっかり帳簿と合っているかどうか数える。


 そして8時になると、自分の教室へと戻る。


「あれ? 雛先輩は行かないんですか? 」


「どこに? 」


「自分の教室に…… 」


「いや、シフトのときだけ行くよ。あとは私の城にいるから」


 化学室を自分の城だなんて…… まあ、確かに、雛先輩はここの城主だもんな。


「わかりました」


「お疲れ〜 」


「お疲れ様です」


 一体どんな生活をしているんだか……


◇◆◇


 教室に着くと、もうみんな来ていて、結構準備が終わっていた。


 教室は昨日よりもきれいになっていて、準備は満タンだ。そして阿部先生がやって来てホームルームが始まった。


 まあ、連絡は特に無く、頑張ろう! 楽しもう! ってことだった。


 そして午前8時30分。一般公開が開始する。窓から玄関の方を覗いてみると、長蛇の列ができていた。本当に学校祭ってすごい。


 気温は25℃、これからもっと上がってくる予報だ。かき氷がたくさん売れそうだ! 氷を溶かさないように注意したい。


 僕のシフトは今日も一番始めで、昨日と同じく、火夏星さんと喜多川さんと調理をする。


 そして10分後、最初のお客さんが来た。なんだか接客担当の両親らしい。はじめの方は家族が来ることが多い。まあ、これも学校最特有なことだろう。


 僕の両親は亮一のところと来るらしい。まあ…… そんなに気にすることでもないだろう。


 僕達はそれから淡々と作業をこなしていった。


 かき氷にまんじゅうに抹茶に麦茶に…… 3人で慌ただしく動き回る。でも、昨日よりも連携がうまくなってきて、ちょこちょこやってた注文間違いや、重複などがほぼなかった。


 そして2時間ぶっとうしで働き続け、やっとシフト交代の時間になった。で、僕はそのまま化学部のシフトが入っている。全く、休む暇もない。


「じゃあ、交代ね」


「ありがとう」


 シフトを交代し、化学室へと向かう。


 すると、化学室の中は昨日と比べ物にならないくらい混んでいた。


「おい、昴。いいところに来た。ちょっと手伝ってくれ! 」


 篤人先輩が悲鳴を上げている。何やらたくさんの小学生くらいの人達に取り囲まれている。多分、信号反応が面白いのだろう。こういう実験は家や小中学校ではなかなかできない。


 もちろん、そのストラップも結構売れていく。これは売上が期待できる。


 そうして篤人先輩を救出して、小学生たちの生贄にされて、休むまもなく働き続けた。


 仕事してこそ、学校祭…… だよね……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る