放課後図書室
第12話 一緒に勉強
そして放課後、僕と火夏星さんは図書室へと向かった。僕はあまり図書室に言ってなかったのでなんだか新鮮な気分だ。
図書室は、1階の結構端の方にあり、人気が少ない。僕達は図書室の中の少し奥の窓際の席に座った。
「本当、ありがとう。じゃあ、先生! よろしくお願いします」
「お願いしますと言うか…… 僕、そんな大したこと教えれないよ? 」
「私がわからないところあったら教えてくれるだけで大丈夫だから」
「了解」
そして僕達は数学の問題集を開いた。
なんと、驚いたことに4月の終わりにはもう定期テストがあるという、変な日程になっている。その範囲に、こないだ火夏星さんが困っていた数列の範囲が入るのでそこを重点的にやろうと話していた。
静かな図書室にシャープペンが紙の上を滑る音が響き渡る。そして遠くから、体育館から運動部のらしき声がかすかに聞こえてくる。顔を上げると、あの日…… 書道パフォーマンスのときに一目惚れした、あの姿がある。
茶色い髪は窓から入ってくる夕日に照らされて余計に茶色く、そして輝いて見えた。後ろでしっかいりと束ねられている髪は本当に綺麗だった。
「ねえ、ここどうやればいいの? 」
「ここはね…… 」
と、階差数列の解き方、考え方を教えてあげる。あの騒がしい亮一もいない、静かで平和な時間が過ぎていった。
◇◆◇
6時00分のチャイムが鳴る。僕達は帰ることにした。
「ん〜 疲れた。甘いもの食べたい! 」
「甘いものって…… 」
「ねえ、おすすめの場所あるから付いてきてくれない? 」
「いいよ」
「よし! じゃあ、今日はあれ、食べちゃうぞ! 」
「あれって? 」
「まあ、まあ、着いてからのお楽しみ」
ということで僕らは学校の外に出た。
駅の方に向かい、いつもは通らない明成川の橋を渡って、対岸に行く。もう少しで日没。橋の上から水平線に沈む夕日が水面に反射して綺麗だった。
「綺麗だね…… 」
「でしょ! 私よくここ通るんだけど、この景色が一番好きなんだ〜 ここが私のお気に入り」
「そうなんだ」
「でも、なんで夕日って赤く見えるんだろうね〜 」
「それはね、太陽の高度が低くなると、僕達の目に届くまでの距離が遠くなって、より多くの空気の分子に光の粒が衝突しちゃうんだ。 すると、波長が短い、振動数が多い青系の光は散乱しちゃって、分子に当たりにくい、波長が長い赤系の色がより多く僕達の目に届くんだよ」
と、一気に話し終わると、火夏星さんは驚いた表情で立っていた。
「あっ…… ごめん…… 」
「ふふふっ、よくわかんなかったけど、要するに、日が沈むと太陽が赤く見えるってことね。本当に夏日星くん、化学大好きなんだね! 」
「これは化学じゃなくて物理なんだけど…… 」
「まあ、細かいことはいいのもう少しで着くよ! 」
火夏星さんのおすすめの場所というのは、小さなカフェだった。
「ここだよ。私たまに一人で来るんだ。自分へのご褒美に」
僕達は川が見える窓側の席に案内された。メニューを取り出してみてみる。ケーキとか、パフェとかがたくさん並んでいる。内装も結構おしゃれで綺麗だ。でも、どれも値段は500円くらいと、結構安い値段で飲み物とのセットもあった。
「私ね、期間限定の桜のシフォンケーキセットにする! 」
「じゃあ、僕は…… 」
僕は慣れないカフェで何を頼んだらいいかわからず悩んでいた。とりあえず、紅茶と何かのセットにしようと思いメニューを眺めていた。
「そうだ、ここはね、チーズケーキがオススメだよ」
「そうなの? じゃあ僕はチーズケーキと紅茶のセットにしようと」
「いいね、すみませ〜ん! 」
そして一人ずつ注文をして、結構すぐケーキたちがやってきた。机の上に綺麗に鎮座している2つのケーキは本当に美味しそうだった。
「「いただきます」」
火夏星さんおすすめのチーズケーキを食べてみる。チーズの香りがしっかりとしていて、甘すぎず美味しい。紅茶も、ティーパックにお湯で作る家の紅茶よりもスッキリとしていて美味しかった。
「う〜ん美味しい! やっぱり勉強のあとは甘いものだよね! 」
そう言う火夏星さんはすごい笑顔で思わずドキッとしてしまった。また少し心臓の鼓動が早くなる。僕は意識しないように紅茶をまた一口飲んだ。
窓から見える明成川に夕日の残り火が煌めいている。そしてその光が火夏星さんの顔に反射して、余計綺麗に…… 可愛く見えた。思わず顔が赤くなってしまうような気がする。
大丈夫。僕から見て火夏星さんの顔が赤く見えるってことは、あっちから見ても普通に夕日で赤く見えるはずだ。
そして、日も落ちた頃ケーキも食べ終わり僕達は帰路についた。橋を渡っていると、少しひんやりとした川風が吹いてきた。
僕達はそのままもうすぐのテストの話をしたり、次の勉強会は何をするかとかを話して、駅で別れた。
電車に乗っている途中、僕はさっきまで我慢していた緊張とかいろいろな感情が押し寄せてきて、動けないでいた。またあの感情だ。心臓の鼓動が早くなって、顔や耳までが熱く感じる。
僕はそのまま、いつも読んでいる英語の単語帳も開かぬまま家に着いてしまった。
◇◆◇
一方、その頃。
「もう、緊張していたのは私だけみたいじゃない」
夏日星くんと別れた帰り道一人で私、彩夏はそう呟いた。
「私が好きなカフェ気に入ってくれたみたいで嬉しかったなぁ…… 」
電車の窓から見えるまん丸の満月が私の心も照らしてくれる。
「水の地球 すこしはなれて 春の月」
ふと、頭に俳句が思い浮かんできた。春の月ってなんでこんなにきれいなのかな。明日はこの俳句をかな書道で書いてみようっと。
明日への楽しみが一つ増えた。毎日。明日の楽しみを見つけ出せたらこの世界はどんなに良い世界になるのかな。
こんなに綺麗な満月を見ても夏日星くんと見たあの夕日が頭から離れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます