第11話:心が近づく瞬間

翌週の月曜日。

紗月と美咲は講義を終え、いつものように並んで学食へ向かっていた。


「ねぇ、美咲ちゃん。」

紗月が急に口を開く。


「なに?」

「この前の土曜日、すごく楽しかったね。」

「うん、楽しかった。」

「じゃあ、今週末もまたどっか行こうよ!」

紗月の無邪気な誘いに、美咲は少しだけ考え込む。


「…いいけど、紗月ちゃん、たまには一人で落ち着く時間とか必要なんじゃない?」

「えー?一人なんて寂しいだけじゃん!」

「そうかな。私はたまに一人で静かに過ごす時間も大事だと思うけど。」


紗月はふくれっ面をしながら、美咲の顔をじっと見つめた。

「じゃあさ、美咲ちゃんは私といると落ち着けないってこと?」

「そういう意味じゃないけど…。」


美咲が慌てて否定すると、紗月は安心したように笑みを浮かべた。

「ならいいの!だって私、美咲ちゃんといると楽しいし、落ち着くんだもん!」


その言葉に、美咲の胸が少しだけざわつく。

紗月の明るい笑顔を見ながら、なぜか心がほんのりと温かくなるのを感じていた。


昼食を終え、二人がサークルの部室に向かう途中。

キャンパスの中庭で、紗月が突然足を止めた。


「どうしたの?」

美咲が不思議そうに尋ねると、紗月は少し照れくさそうに頬を掻きながら答えた。


「あのさ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど…。」

「頼みたいこと?」

「うん。実は私、今度のサークルの新歓で弾き語りをやろうと思ってるんだけど…練習付き合ってほしいんだ。」


紗月がどこか不安そうに視線を泳がせているのを見て、美咲は小さく微笑んだ。

「もちろんいいよ。いつ練習する?」

「えっ、本当!?じゃあ今日でもいいかな!」


夕方、軽音サークルの部室にて。

紗月がギターを手に取り、美咲はその前で椅子に座る。


「じゃあ、いくよ。」

紗月はギターを軽く鳴らしながら歌い始めた。


歌声はまだ少し不安定だったが、紗月の一生懸命さが伝わる演奏だった。

美咲は黙って聞いていたが、演奏が終わると優しい口調でアドバイスを始めた。


「うん、いい感じ。けど、サビの部分はもう少し抑揚をつけた方がいいかも。」

「抑揚かぁ…難しいね。」

「でも、紗月ちゃんの声はすごく可愛いし、ちゃんと気持ちが伝わるから、あとは細かい部分を練習すれば大丈夫だよ。」


美咲の真剣なアドバイスに、紗月は少し照れながらも嬉しそうに頷いた。

「ありがと、美咲ちゃん。こうやってちゃんと教えてくれるの、なんか嬉しいな。」


その言葉に、美咲は一瞬だけ視線を泳がせる。

「そ、そう?まあ、私は音楽得意ってわけじゃないけど…。」


「ううん、美咲ちゃんって頼りになるなって思ってるよ!」

紗月が屈託のない笑顔を見せるたび、美咲の胸の中で何かが静かに揺れ動く。


練習が終わり、二人は部室を出て夜道を歩いていた。

静かな街の明かりに照らされながら、紗月がぽつりとつぶやく。


「ねぇ、美咲ちゃん。」

「なに?」

「私、美咲ちゃんとこうやって一緒にいると、すごく安心するんだ。」


その言葉に、美咲は立ち止まり、紗月の顔を見つめた。

「安心…?」

「うん。美咲ちゃんって、私にとって特別な存在なんだよね。まだどういう特別なのかは分からないけど…。」


紗月の真剣な瞳を見つめ返しながら、美咲は静かに息を飲んだ。

「紗月ちゃん…。」


しかし、その続きをどう言えばいいのか分からず、美咲はそっと目をそらした。

「…ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しい。」


それだけを言葉にして、二人はまた歩き出す。

心の中で互いの存在が少しずつ大きくなっていくのを感じながら――。

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