第5話:雨と小さな傘の距離

週明け、午後の講義を終えて教室を出た美咲は、窓の外を見て立ち止まった。

「…雨?」

空はどんよりと曇り、ぽつぽつと降り出した雨が徐々に本格的になっている。


「困ったな…傘持ってきてないし。」

美咲がぼやきながらカバンを確認していると、後ろから元気な声が飛び込んできた。


「美咲ちゃん!お疲れー!」

振り返ると、紗月が小走りで近づいてきた。今日も紗月は元気いっぱいで、美咲を見上げるように笑顔を向けてくる。


「…お疲れ。紗月ちゃんも講義終わったの?」

「うん、さっき終わったばっか!でも、これじゃ帰れないよねぇ。」

紗月も窓の外を見て、困った顔をした。


「私も傘持ってなくて…」

「私も。予報では雨なんて言ってなかったし。」

二人してため息をついていると、紗月が何かを思いついたようにカバンを開けた。


「じゃじゃーん!実は折りたたみ傘、持ってました!」

「…持ってるんじゃん。」

美咲が呆れたように言うと、紗月は照れ笑いを浮かべた。


「でも一人用の小さいやつだから、美咲ちゃんも入るには…ちょっと厳しいかも。」

「そりゃそうだよね…私、結構背が高いし。」

美咲は苦笑いしながら、身長差を改めて意識した。


「でも、これで帰らないとずぶ濡れになっちゃうし…二人で入ってみる?」

「えっ…二人で?大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!私がこうやって傘を持てば…ほら!」

紗月が傘を広げ、美咲の隣にぴったり寄り添うようにして構える。


キャンパスを出て、二人で一つの小さな傘の中に入る。

紗月は背が低い分、少し背伸びをして傘を持っているが、さすがに高さが足りず、美咲が少し前かがみにならないと頭が出てしまう。


「やっぱり狭いね…無理があるかも。」

「でも楽しいでしょ?こういうの!」

紗月は小さな体で一生懸命傘を持ち、美咲を濡らさないように気を遣っている。


「紗月ちゃん、疲れるでしょ?私が持つよ。」

「えー?でも美咲ちゃんが持つと、私の頭が濡れちゃうじゃん!」

「そんなに私、背が高いかな…」

「高いよ!見てよ、この身長差!」

紗月は美咲の横に並び、自分の頭が美咲の肩あたりにしか届かないことを強調するようにしてみせる。


「…確かに、こうして並ぶとすごい差だね。」

「でしょ!だから、傘は私に任せて!」

紗月は得意げに宣言し、美咲はその姿に思わず笑ってしまった。


途中、雨脚が強くなり、二人とも傘からはみ出して少し濡れてしまう。

「うわぁ、結構降ってきたね。」

「ホントだね…でもまぁ、こういうのもたまにはいいか。」

美咲がつぶやくと、紗月が不思議そうな顔をした。


「どういうこと?」

「んー、こうして一緒に雨の中を歩くのって、なんか特別な感じがするから。」

「特別って…それってもしかして、デートっぽいってこと?」

「えっ、いや、そういう意味じゃなくて…!」

美咲が慌てて否定すると、紗月は「ふふっ」と楽しそうに笑った。


「でもさ、美咲ちゃんといると、普通のこともなんか楽しいんだよね。」

その言葉に、美咲は少し驚きつつ、照れくさそうに目をそらした。


「…紗月ちゃんが楽しそうだから、そう思えるのかもね。」

「それって褒めてる?」

「うん、たぶん。」

「やったー!じゃあ、これからも楽しい時間いっぱい作ろうね!」


そんな会話をしながら、二人は雨の中を歩き続ける。


雨は二人の距離を縮めるきっかけとなり、小さな傘の中には、ほんのり甘い空気が漂っていた――。

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