第10話 バトル
『お前の記憶力をフル活用させろ……そして今晩のおかずにするんすよ!!』『サイッテー!まじでほんとにサイテーですね、あなた……!!この女の敵めっ!!』『いや男ならみんなフツーでしょ!日々おかずを探して彷徨いし
俺の中の悪魔と天使が大喧嘩を繰り広げる中、雪姫はチュートリアルを進めていく。生い茂る密林を行く雪姫のキャラクター、ウサギ。
「木とか草もリアルですね」
「そだねぇ……あ、ほらあそこに小動物がいるよ」
「ほんとだ!あれは……カエル?可愛いです」
「ね」
「はいっ」
不安な気持ちはもう消えて、ゲームを楽しんでいるのが声色からもわかった。もうさっきみたいな失敗はしない。全力で雪姫を楽しませろ、私!!
「ちなみにあのカエルはね、マイルームで飼うことができるんだよ」
「マイルーム?」
「うん。あ、そか……まあ、それは後々」
「はい、後々に!」
アクションの説明を聞き、動きを学んでいく雪姫。ぱちくりと瞬き、揺れ動く長い睫毛が美しい。
天使『なっ……い、いやらしい!えっちです!!』
いやそれは別にいいだろ!どこがえっちなんだよ!過剰な反応を示す天使にツッコミを入れつつ、脳内会話に入ってこない悪魔がふと気になった。どうしんだと不思議に思い、やつの姿を探すと、モザイクをかけなければ写せない血みどろの肉塊と化していた……あ、悪魔あああーーー!!!……って、いやフツーに好都合か。てか強えな、俺の天使様……。
血飛沫で頬を染めモーニングスターを抱きかかえる天使に戦慄する。
「きゃ」
「!」
雪姫が小さな悲鳴をあげた。その原因は乱入してきた巨大なトカゲの魔物、チュートリアルを締めくくるボスだった。プレイヤーキャラクター、ウサギの数倍はあろうかという黄色い鱗に包まれた巨体。
「ボスモンスターだよ、雪姫さん。こいつを倒せばチュートリアルクリアだ」
「クリアですか」
「うん、そう。今までやってきたようにやれれば倒せるはずだから、頑張って……!」
「はい、頑張りまひゅ!」
緊張してきたのだろうか華麗に噛む雪姫。唇を食いしばり、眉間にしわが寄る。これはたぶん……羞恥心に堪えてるな。その恥ずかしさを誤魔化すように大きな剣を背中から抜き取り走り出す。
今までやってきたようにやれれば倒せるはずとは言ったが、あれは嘘だ。その気にさせるためのフォロー。雑魚にあれだけ時間をかけてしまっていた雪姫はおよそプレイヤーとしては下手の部類にはいる。このボスモンスターがいくらチュートリアルの優しめなモンスターだとしてもかなりの苦戦を強いられるだろう。なんどか負けてしまうかもしれない……けど、最後まで頑張ってもらう。なぜならこのゲームは苦戦しつつも強い魔物に打ち勝つこと、そこにこそ達成感という喜びがあるのだから!
ボスモンスター戦になりわずかに前のめりになっていく雪姫。視界に胸の谷間が入っていたが見えないふりをする。
天使『!!』
――ブンッッ!!
「……きゃ!」
振り抜かれたボスモンスターの尻尾攻撃。それがウサギの体をスレスレ当たらなかったように、天使がモーニングスターを振り回した死線のスレスレを俺は横切った。ぶねえ。
しかしボスモンスターの攻撃はこれだけでは終わらない。こんどは突進してくる。それをウサギは転がり回避しようとするが、間に合わずにぶっ飛ばされた。ウサギの体力ゲージがぐんと縮まってしまう。
「……っ、ん……ふっ」
また、艶のある声が。目を光らせ、武器を振り回している天使。てかあれにあたったらどうなんの私……死ぬの?
ふとソファーがギシギシと揺れていることに気がついた。雪姫が敵の攻撃を避けようとして体が動いていたのだ。よくレースゲームでコーナーを曲がる時に体が斜めになる人がいるが、アクションゲームで動くのは初めてみた。
ゆらゆらと上半身が揺れている雪姫。大きく動いた時には隣の私の肩にも触れるくらい。
「ご、ごめんなさい!」
「や、大丈夫!気にしないでいいよ!」
気にしないでいいとは言ったものの、VRゲームでもしてんのかよってくらい動く雪姫。逆に言えば回りが見えないほどの集中力でもある。
「……はぁ、んん……は」
――心を無にしろ。
「ん、ぁ……っ、ん〜〜、はあ」
――そう、私は空気……生物ではなく、人でもない。
「あっ、あ……ん、ぅ……いっ、くぅ……!」
――なんでだよ!!その台詞はおかしいだろ!!
焦り空気と化していた存在を戻し画面をみる。するとそこにはギリギリの体力で回避しまくるウサギの姿が。いくって逝くってことだったのか!
てか、すげえな。私がみてない間に(いや見ろよ)ボスモンスターの体力もそこそこ削れている。さすがネコに次ぐ秀才の雪姫。学習能力の高さがゲームにも活かされているのかもな。
器用に回避して一発ずつ地道に刃をボスモンスターの体へ撃ち込む。かなり慎重に攻めているので、おそろしくスローペース……だが確実に敵の体力は減ってはいた。あとわずかで半分になる。
と、その時。ボスモンスターが天高く飛び上がった。大技のボディプレス。雪姫はそれを避けようとして大きく私の肩にぶつかってきた。
「あ」
どん、と柔らかな感触。そして雪姫の花のような香りが鼻腔をくすぐり、
――ゴッ!!!
その次の瞬間、途轍もない衝撃と共に鉄の臭いでいっぱいになった。
「きゃああっ!?だ、大丈夫ですか、アリスさん!!」
ポタポタと鼻から垂れる血。そう、雪姫はボスモンスターの攻撃を回避したいあまりリアルで思いっきり体を真横に反らせ俺の顔面へと頭突きをかましたのだ。
「だ、大丈夫……ちょっと、ティッシュかりるね」
「ごめんなさい、ごめんなさい……私、どうしよう……ほんとに、すみません」
「大丈夫、私頑丈だから。これくらい……」
「で、でも、お洋服が……」
鼻栓作らないと……って、げっ。スカートに血がついとる……!
「べ、弁償します……」
「いやいや、大丈夫。これもう結構つかってて捨てようと思ってたから。気にしないで」
まあ嘘なんすけどね。お気に入りのスカートでした。けどまあ、雪姫を邪な目でみた罰だな。仕方ない……てか、マジで事故だし雪姫のせいじゃない。
「あ、それよりほら、ボスモンスター惜しかったよ。もう一回チャレンジしよう」
「……」
泣き出しそうになっている雪姫。まあ、気持ちはわかる。こんな状況になった以上、気にせず楽しくゲーム再開とはいかないか。
だが、しかし……このまま終わらせるわけにはいかない。
こんなこと友達同士ならあるあるだ。今後私以外の友達が雪姫にできたとして、こういう場面でいちいちこんな風に落ち込んでいたら彼女の身が持たない。てか友達も困るだろう。
だから耐性をつけさせる。
「……なんかさぁ」
「はい」
私は鼻に詰めたティッシュを指さす。
「前の雪姫さんみたいじゃない?これ」
「……」
おそらくティッシュの鼻栓により私の鼻の穴は大きくなっていて、面白い顔になっているはず。てか、あの日の雪姫は面白かった。だから、
「ね、どう……似合うかな、これ」
可愛い子の鼻に詰め物。面白くないはずはない。笑え、笑うんだ雪姫……って、お?
その時、ぴくりとわずかに口角があがった気がした。
「……ふ……」
トドメだくらえ。口の横に指をひっかけ伸ばす。渾身の変顔をくらえ!
「……っ、ぷ、あは……あはは、だめ、そんなの……」
堪えきれず、ついにけたけたと笑う雪姫。やっぱ可愛いな、笑うと。
「おそろいだね、雪姫さんと」
「わ、私……そんな、変なかおしてな……ふふ」
「そんな変な顔?どんな?」
更に変顔をして笑かす。
「だ、だめ、お腹が痛いよ、あはは」
雪姫は腹を抱え、身を捩り笑っていた。聞いたことのない明るい声で、涙を流して。
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