水たまり

若葉有紗

第1話 因果応報

「颯太くん! 遊ぼう!」


「し……ずく……なんで……」


「遊ぼうよ! ね?」


 そう言って微笑んでいる。五歳ぐらいの少女。俺が、ガキだった頃に亡くなった妹の雫に瓜二つだった。


 その顔を見て、深く後悔していることを思い出す。それは、俺がまだガキだった頃。あれは、むせかえる暑さでここ近年でも特に気温が高かった日だった。


 俺の妹はいつも、無口で何を考えているのか兄である俺も理解できなかった。いつも、ちょろちょろと後ろを着いてくる一つ下の妹がウザかった。


 だから、少し嫌がらせをするつもりだった。ほんと、軽いイタズラのつもりだった。田舎のじいちゃん、ばあちゃんの家に遊びに行って二階に上がった。


 そしたら、俺に着いてきたのだ。そのため、俺は駆け足で登り階段からの視覚に隠れてあいつがきたとこでわあ! と驚かすつもりだった。


 だって、あいつ……いつも何も言わないで俺の後を着いてきてたから正直気味が悪かった。でも、あんなことになるなんて思いもしなかった。


「お兄ちゃん……どこ?」


「わあ!」


「えっ……きゃあああ!」


 俺が驚かしたら、あいつは……妹の雫は、階段を踏み外してしまってあっという間に落ちてしまった。


 俺は階段の下でまだ、息が絶えずに苦しんでいる雫を見下ろして茫然と立ち尽くしてしまった。


 何が起きたのか……。なんで、こんなことになってしまったのか……。全部、自分のせいだというのは頭では分かっていた。


 でも、理解したくなかった……。自分の安直な考えのせいで、妹の雫が死んでしまったなんて……。


「……えっ……なん……で」


 それからのことは、あまり覚えていない。しかし、雫の周りに赤色の水たまりができている光景だけは今でも鮮明に覚えている。


 それから、水たまりを見る度に吐き気や頭痛が酷くなった。それから、十年近くもの間あの家には近づいていない。


 だが、先月に父親が一昨日に母親が不運な事故で亡くなったため、仕方なく高校生の俺は再びあの家に行くことになった。


 今思えば、きっと不慮や不幸な事故ではなくこの世のものではないものが引き起こしたものだったのだろう。


 ――――全部は俺自身が招いたことである。きっと、これが因果応報である。


 おばあちゃんもおじいちゃんも、優しくて落ち込んでいる俺を励ましてくれた。


 優しくてかっこよくて、いつも心配してくれた両親はもういない。自分自身の力で、これからは生きていかなければならない。


「颯太。大丈夫かい? 顔色が悪いようだけど」


「おばあちゃん。大丈夫だよ。昔のことを思い出すと少し気分が悪くなるんだよね」


「……そうかい。何かあったら、遠慮なく言うんだよ」


「うん。ありがと」


 無事に両親の葬式が終わり、二階がどうしても気になっていたら雫にそっくりな少女に声をかけられたということだ。


「君は、一体」


「私は、雫だよ。お兄ちゃん」


 そう言って微笑む雫ちゃんは、どことなく不気味に感じたが一人で考えていてもろくなことにならないため話し相手になってもらうことにした。


 いつも決まって、俺が一人でいるときに来ては明るくて優しくてどことなくミステリアスな表情を浮かべていた。


 それからというもの、雫ちゃんは俺が決まって一人でいる時にひょっこりと現れては話し相手になってくれた。


 最初は怖い印象を受けたが、今となっては可愛くて妹の雫にできなかったことを雫ちゃんにできることが嬉しかった。


 話せば話すほど、妹の雫とは違って明るくて可愛くてこんな子が妹ならあんなバカな真似しなかったのにと思った。


 だが何故か、彼女がどこから来ているのか? ここにいる理由も分からずにいたが怖くて聞くことが出来なかった。


 彼女と話していると、なぜか幸せな気持ちになれる。俺は、気になっていることを楽しそうに微笑む彼女に聞いた。


「雫ちゃんは、いつも。どこからきているの?」


「知っているだろ」


「つっ……」


 俺が疑問に思っていることを聞くと、今までとは打って変わって不気味な表情でそう言い放った。


 怖かったのもあるが、それ以上に俺は何かとても大事なことを忘れているようなそんな気がした。


 そして、その次の日。おじいちゃんが亡くなった。買い物に出かけた時に、居眠り運転の車にはねられたらしい。


 運転手の話では、全然眠くなかったのに急に眠気が襲ってきたと言っているらしい。俺は、悲しいと思えなかった自分がいた。


 それよりも怖いという感情しか、浮かんでこなかった。なぜだが、言いようのない恐怖が俺の心を支配してきた。


 おじいちゃんの、葬式の日。おばあちゃんの様子が何やら、いつもと違っていた。いつも、優しくて何があっても笑っているそんな印象だった。


 その時は、無理もないだろう。俺が見てた感じ、おしどり夫婦って感じで喧嘩をしている様子もなかった。


 だから、ただ単に悲しくて苦しいのだと我ながら冷めた感想を持っていた。俺は、たった一人になってしまった身内であるおばあちゃんに寄り添った。


「おばあちゃん、その……大丈夫だよ。俺がいるし」


「……れのせいで」


「えっ?」


「誰のせいでこうなったと思うんだ‼︎」

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