人生のハッピー・エンド
砂漠ありけり
第1話
ハッピーエンドさん。自殺掲示板にて幸福な結末を提供するという人物。本当に幸福な結末を提供してくれるのか、真相は不明。けれど、何ひとついいことがなかった人生。最後くらいはせめて幸せでありたい。
【第四月曜日 午前十時に駅の交番前のバス停に集合】
ハッピーエンドさんと連絡を取り、最初に送られてきたメール。詳細は当日、集合してから話すと言っていた。正直、胡散臭さしか感じない。掲示板内でもネタ、釣り、虚言野郎と散々罵られていた。
本当に自分の人生にハッピーエンドを齎してくれるのか不明だけど、騙されたとしても死ぬ運命。どうせならと淡い気持ちでここへ来た。
「…合言葉は?」
「…ハッピーエンド」
集合場所のバス停に着くと貸切と表示された夜行バスが停まっていた。変なバスだなと思って無視していると中から若い学生?のような人が出てきて合言葉を求められた。
当然、送られてきたメールには何も書かれていなくて、この人がハッピーエンドさんとも限らない。でも、雰囲気的にこの人がハッピーエンドさんだと思った。直感だけど、僕がこの時間に他の誰かから話しかけられる理由がない。
思い付きで合言葉を答えたけど、素敵な笑みを浮かべて中へと案内された。
「これで皆さん揃いましたね」
バスへ乗り込むと、中には僕以外に五人の乗客がいた。年齢性別共にバラバラ。思った以上に人がいるなと思った。あんなにネットで蔑まれ信憑性なんて皆無な筈なのに。この人たちも死ぬからどうでもいいと思っているのだろうか。
「改めましてこんにちは皆さん。私がハッピーエンドです。今日は皆さんに幸せな死「けつまつ」を提供するためにエデンからやってまいりました」
これから死ぬ乗客とは対照的に明るい雰囲気で振る舞う。
「さて、色々気になることがあるでしょうが、私たちがやることはひとつです。ハッピーエンド。つまり幸せな終わりです。私はどんな死に方にも応えます。普通に殺されるもの、飛行機から落ちて死ぬのも、貴方のハッピーエンドを叶えます。しかし、無償ではなくて、死ぬ前に私の要望を叶えていただきます」
ハッピーエンドさんの話が本当なら、この人は人を殺した経験があるってことだ。なのに罪悪感とかは感じられなくて、これから人を殺すのに楽しんでいるような気配がある。
「難しいことはありません。ただ死ぬ前に思い残り…つまり未練を晴らしていただきます。自分の心にある一番の未練。それを晴らす瞬間を拝むことがハッピーエンドの条件です」
「質問いいですか?」
自殺するとは思えなさそうな女子高校生が手を挙げる。
「どうぞ」
「私は未練なんてないですけど……」
「本当にないならないで構いませんよ?」
意味を含んだ言い方。女子高校生もそれを察したのかそれ以上は何も言わない。
「では早速参りましょうか。最初は君からでいいかな?」
ハッピーエンドさんが指名したのは、明らかに小学校低学年ぽい男の子。こんな子でも死のうなんて考えているんだな。
「……僕の未練は野球をやってみたいです」
「そっか。君のハッピーエンドは?」
「湖の中で死にたいです」
「了解。じゃあまずは野球からだね」
確認し終わると同時にバスが走り始めた。
「ナーイス」
「お兄ちゃん。ナイスホームラン」
「君の二刀流の方が凄いよ」
ハッピーエンドさんは相手チームとこっちの味方、審判と球場を既に用意していた。
野球なんてやったことなかったけど、
「身体は勝手に動くから安心してね」
と、不思議なことにこちらの身体能力すら用意されていた。そのおかげ?で同じバスに乗っていた老婆がホームランキャッチする始末。野球をしたいと言っていた少年は二刀流の活躍で、相手チームを翻弄していた。
計五試合。少年が満足するまで試合を続け「ありがとうございます」とハッピーエンドさんに伝えた。
「もういいの?」
「はい。もう未練はありません」
再びバスで移動し、山中の湖へ。
「注文はあるかい?」
「窒息死はしたくありません。湖に沈みながら空を見上げて死にたいです」
「了解。それじゃあ」
少年は湖の真ん中へボートで運ばれ、ハッピーエンドさんの手によって沈められる。
「さあ、次は貴方の番です」
次に指名されたのは老婆だった。
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