神にも救いの手は差し伸べられますか?

三椏咲

第1話 別れと始まりと

———コツンッ、コツンッ……。


光る星々で煌々と煌めく静かな廊下に足音が響き渡る。


ここは神々が住まう星の1つ「グリエド」にある城の中。

神々が住まう星々はいくつもあり、常に星間での戦争が絶えない。

それを面倒で仕方がないと思ったこの惑星に住まう神々は愚かなことに、神を殺すためだけの兵器を自らの力を贄として造り上げた。


———それがこの私。神々につけられた名はスティア……神を殺すことに神生の全てを捧げる存在。


『本当にそれでよろしいのですか?』


私の唯一無二で最も信頼のおける存在、この惑星の意志である『グリエド』が私の脳内に語り掛けてくる。


『スティア、貴方は早く私を殺して自由に生きるべきです』

「それはできないわグリエド。何度も言っているでしょう?貴方を壊すなんてことは私、絶対にしたくないの」

『ならばどうやって全ての神を殺すというのです?』

「全部は殺さない。とりあえず一部の神には消えてもらうけど、他の神々が集まってくる前に貴方から出て行くわ」

「そしたら必ず奴らは追ってきます。それでは本当の意味で自由になれたとは言えない……』

「貴方を壊すことになるよりはよっぽどいいわ、グリエド」


無駄に長い廊下を歩いていくと無駄に大きな扉の前に到着する。

彼らにとってこの無駄は恐らく、自らの権力の象徴なのだろう。


………………くだらない。


私はその大扉を開け、扉の先の広間にいる神々と対峙する。

部屋の奥にいるやたらと偉そうな神が、さげすむような眼で私を見下ろす。


「今宵も星を一つ滅ぼしたか。よくやった」


私を造った神の一柱であるジジイが、感謝の気持ちなんて微塵もこもっていない言葉で私をねぎらう。


「ありがとうございます」


私も憎悪といら立ちを込めて、相手にそれが伝わらないように礼を述べる。


その気になればこんなジジイ一瞬でねじ伏せられる。しかし神に死という概念は存在しないから、普通に殺したとしてもすぐに復活してしまう。

こいつら神は神たる者の攻撃でしか死なない。この星に住まう神を全て相手にするのは私でも難しい。故に一度で屠る必要があるが、それを成す為には星そのものを壊す程の火力でないと意味をなさない。


そんなことはしたくない。ここは私の故郷で、私に優しくしてくれたから大好きな星なのだから……。


「あの星の神々は弱くて目障りだったのだ。弱い神は淘汰されなければならない」

「左様でございますか」


そんなくだらない理由で私に神を殺させる……。神というものはどこまで行っても愚かな存在だ。


「そういえば最近、他所の惑星に移り住んだ弟が力をつけてきていてな」

「それはおめでたいことで……」


愚かな存在であっても、自身の子を褒めるくらいの常識はあるのか……。


「だから今のうちに弟を殺してほしいのだ」


…………………………………………クソが。


「しかし、あなた様の弟様は他の神々からも慕われております。さすがに早計ではないでしょうか」

「私の言うことに逆らうのか?ただの兵器でしかないお前が、随分と偉くなったものだな。私に造られた恩を忘れたか?」


自分たちで勝手に創造したくせに、お前ら神々に対して私が恩なんてものを感じるわけが無い。

こいつらの一言一言が激情へと駆り立てるから、これ以上こいつの御託を聞きたくないと私の本能が訴える。


「お前はただ私の言うことを黙って聞き入れろ。それがお前の使命で義務だ」


……ふざけるな。

そんな生、私は受け入れない。


生きたいように生きる。それが私の『自由』だ。


「その命令は受け入れません」

「何?」


私の言葉が男神の癇に障ったのか、自身の神気を荒げさせる。その余波で城の壁に罅が入るが、私にはそよ風程度にしか感じない……涼しくて気持がちいいが、埃が飛んでくるからやめて欲しい。


「私の命令を拒むというのか?」

「はい」

「調子に乗るなよ、ただの兵器が!!!」


事態の深刻さを察知したのか、別の階にいたであろう神々まで集まって「どうした、どうした」と、現場は騒がしくなる。恐らくこの星に住まう神が大半が集まって来てくれていた。


———よかった……これなら面倒な戦闘は回避できそうだ。


「私は兵器である前に一つの生命です。自由に生きる資格がある」

「はっ、笑わせるな!!兵器であるお前に命の何が分かるというのだ?そもそもお前は、私たちにとってただの道具でしかないのだ!!」

「ふざけるな!!私はお前たちの道具なんかじゃないっ……私はただのスティアだ!!」


他の星に神を殺しに行ったとき、見逃してくれと懇願してきた神は多くいた。

でも私は知っている。こいつらは命を平気で弄ぶ存在だということを。

だから私は見逃したことなんて一度もないし、そのことに対して後悔なんてものはしたこともない。


「私はたくさんの命を奪ってきた。だから私は命の軽さと重さを知っているし、命の在り方と尊さも理解している。お前たちには一生理解できないだろうけどな!!」

「それが何だというのだ!!」

「命の価値を知らないお前たちが簡単に命を弄ぶな外道が!!私はお前たち神々が憎くてしょうがない、だから死ね!!私の前から消え失せろ!!」


私は飛び上がり、城の天井をぶち破る。呆気に取られる神々を見下ろし、爆発した憎悪を力に変え、私は広場に集まった神を一掃できる威力の砲撃を城に向かって打ち下ろす。

神々は私の攻撃を防ごうと慌てて防ごうとするが間に合わない。


———当然だ。

お前らがのんびりと過ごしている間に、私がどれほど神を殺してきたと思っている。

神を殺すことに関しては、私はどの存在よりも優れている。


「滅べ、愚神ども」


私の砲撃が神々に直撃し、爆発地点からたくさんの悲鳴が上がる。

罪悪感は無い……。むしろ清々しい気持ちで満たされる。しかしそれと同時に、私の中に一滴の復讐心が生まれる。


完全にこいつらを消滅させればこの復讐心も晴れるはずだ。そのためにはこの星を壊さなければならない。


———私が産まれた星を自らの手で。


悲しい時、苦しい時、いつも私のそばで語りかけてくれたこの星を壊す。


「———そんなこと、出来るわけがありません……」


どれだけ神々を恨んでいようとも、それだけは絶対にしてはならない。


『そのまま私毎撃ち抜いてくれてもよろしかったのに……』


私のその考えを見透かしたのか、『グリエド』が少し寂しそうに言う。


「もう、ふざけたこと言わないの……」

『私はいつだって真剣ですよ』


私は復讐の水滴を振り落とし、城から目を背けてこの星から出ていくために神力を練り上げる。

目的地は『地球』という、神と共にありとあらゆる神秘が滅んだ星。簡単にではあるが、事前にその星のことは調べてあるのできっと大丈夫なはずだ。


『お別れですね、スティア』

「ええ……ありがとうねグリエド。私に愛と優しさをたくさんくれて」

『そんなことしか、私にはできませんでしたから」

「それが私にとっては何よりも嬉しかったわ。私を暗闇から救い出してくれたのは、いつも貴方だった」

『もったいなきお言葉です』


神力を練り終え、出発の準備が整う。

そこまで長い移動にはならないだろうが、『グリエド』とは永遠のお別れだ。


「そろそろ行くわ……」

『お気をつけてスティア。貴方に多くの幸せと希望があらんことを」

「ふふっ、ありがとうグリエド。私の産まれた星があなたで良かったわ……」


最後の別れを告げ、私が最も愛した存在から飛び立つ。速度は一瞬にして最高速度に到達して、光輝く軌道を描く……。


「本当に………ありがとうっ………」


私は自ら描く軌道を涙で濡らしながら進む。未知が待つ未来に向かって……。



『———私も貴方に出会えて幸せだった……ありがとうスティア』









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