神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

悲劇の人生が終焉、そして俺は幸せになりたい。

悲劇は突然に

「ほら、ひろ君。飛び出さないの」


 信号が青になり、いち早く動き出した三歳の息子。

 その手を取るため、妻も飛び出す。


 そう信号は青になり、横の車も動き出していた。

 だが、その車達を蹴散らし、一台の車が横切ってきた。


 それは一瞬だった。

 横にいた人たちも、一緒にはね飛んでいく。


 おれは、飛び出し…… 数メートルも飛んでいった妻と子どもに駆け寄る。

 だが、色んな所の形は変わり、頭の中が見えていた……


「うわあああぁ」

 俺は止まった車に駆けより、運転手の若者を殴り倒した。

 彼は、日本語が分からないようで何かを叫ぶ。


 ひとしきり殴った所で、救急車を呼ぼうとスマホを取り出す。


 妻達の所へ向かいながら、電話を開始。

「はい、119番消防署です。火事ですか? 救急ですか?」

「救急です」

「救急車が必要ですか?」

「早く、妻と息子が撥ねられて…… あっ……」

 その瞬間に、俺の視界が回転をした。


 そうさっき殴った相手、そいつはあろうことか車に乗り込み、俺に向かってアクセルを踏み込んだ。


 周囲では叫び声が上がったようだが、俺の耳にはもう聞こえなかった。





「―― もしもーし。聞こえる?」

 なぜか、見たことのない女の人に抱っこされていた。

 意識は覚醒をしたが、手足の感覚がない。

 そもそも、景色は見えるが、目で見ている感じでもない。


「あなた何したの? 次元の狭間でバラバラになっていたわよ」

 次元の狭間? バラバラ…… 俺は死んだのか?


「集めるのに苦労をしたんだからね。感謝をして。あそこで彷徨っていたならフリーでしょうから私の資源。好きにさせて貰うけれど、どこの世界から来た魂かしら? まあ良いわ。何か望みはある?」

 口はないから、願うことにする。


『今度こそ…… 幸せになりたい。それと、車に轢かれても平気な体が欲しい』

 そう願うと、きょとんとした顔をされる。


「うんまあ、わかったわ。幸せと、丈夫な体ね」

 だがこの女神、車を知らなかった。


 丈夫…… じょうぶ、ねえ。

 彼女は、自分の管理する世界を思い出す。


 まあ、ドラゴン辺りにふまれても、平気にすれば良いかしら?

 それと幸せねぇ、そんな物、人それぞれだし…… 他人から好まれるようにして、一単位くらい生きれば、幸せも見つかるかしら。


 一単位と言うのは、神の世界においての査定期間。

 およそ千年。


 たまたま彼女の世界において、ひと種が多かったので、人種を選択。

 長命種としては、エルフなども居たが、あちらは精霊種のため魂の形が少し合わなかった。


 そうして彼は、その世界初のハイヒューマンとして体を創られ、地上に降ろされた。


 そう、ドラゴンに踏まれても平気で、幸せを掴むために、多種多様な能力を詰め込まれて、千年を生る化け物が、今この世界。

 エリザヴェータコスチュトキナ、主星ゲラーシモヴナに生誕した……



「行ってらっしゃい」

 そうして、十六歳くらいの体で、森の中に送り込まれた。

 一応、服は着せられたようだ。


「地上のことはたまに見ているから、あれで大丈夫なはず」

 良い事をしたと、彼女はご機嫌で自分の居場所。

 管理世界の管制室に座り込む。


 彼女は暇つぶしに、色々な所をみていた。

 そう、よその宇宙。


 その途中で妙な波動を感じると、魂が一つ、次元の狭間で消えていこうとしていた。

 なぜ彼が、あんな所にいたのかは不明。

 ただ元の世界、輪廻からははじかれて、あぶれていたのは確か。


 寿命が尽きる予定ではないのに、少し目を離した隙に死んでしまった手違いを、地球側の担当者が隠蔽でもしたくらいしか、原因としてはないが……

「まさかそんな事、しないわよねぇ」



 バッテリーから繋がるターミナルは、周りの車を突っ切ったときに切断されていた。

 だが、ケースがぼろで漏電。

 起動しないはずの車が起動をして、走ってしまった。

 全てはあり得ない不幸の連鎖。


「やっべぇ、査定が近いのに」

 輪廻を巡る、魂の数はカウントされている。

 多くても少なくとも原因究明、調査が必要となる。


 新神の彼は、輪の中から、それを見つけてつまむと、ぽいっと廃棄した。

 そのおかげで、異世界転生をする羽目になってしまった彼。

 それは彼にとって幸せか、不幸か、それはまだ判らない。


 その世界において、規格ハズレな人間は、幸せになれるのか?


 彼の希望は、亡くなったおじいさんのように、親族に見送られ悔やまれながら亡くなり、悲しみの中で見送られたその光景。

 中学校くらいだったが、その光景になぜか憧れた。

 おじいさんは、大きな事はしなかった。だがいい人で、皆に見送られた平凡な人生。


 ただこれから、彼を待ち受ける人生が、幸せになるかどうかを覗こうではないか。


 ただねぇ、寿命の違いは結構な辛さを伴うのだが……

 いつまでも、年を取らないとか、ひたすら愛するものを見送る人生。


 恐怖だよねぇ……


 さてさて、どうなることか。

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