楽園の天使は終末を告げる~虐げられた少女は役立たずと思われた異能『根源』で救世主となり、世界を超える~
ケロ王
第1話 『根源』という名の異能
「あっち行けよ、ゴミが!」
選ばれた人間が吐き捨てるように、私に罵倒を浴びせる。酷い話だと思うが、こんなことは日常茶飯事だ。現に、周りにも選ばれた人間に罵倒されている人間がたくさんいた。
「まあ、罵声だけならマシかな……」
そんな救いようのない言葉をつぶやく。酷い言葉ではあるが、言われただけだ。他の人のように、殴られたり、玩具のように弄ばれたり、食料を奪われたりしていない。
「これっぽちだけど、食べられないよりはマシね」
頑なったパンをちぎって口に放り込む。パンは急速に口の中の唾液を吸い取っていき、喉が渇くが贅沢は言ってられない。異能を持たぬ者、そして私のように異能があっても役に立たない者には、生きる権利すら認められなくなってしまったのだから。
「あれが現れてから、世界は壊れてしまった……」
空に浮かびあがった巨大な魔法陣。それは生命の樹と呼ばれるものを象ったものだ。そこから現れた十体の大天使。それによって一瞬にして世界は蹂躙された。それと同時に人類にもたらされた異能という力。
異能と大天使の力が拮抗することで、世界は束の間の平穏を取り戻していた。だが、異能という強すぎる力は、残酷にも持つ者と持たざる者をふるいにかける。持つ者は傲慢となり、持たざる者を虐げる。かと言って、持たざる者は持つ者に抗うこともできない。その先には大天使という脅威があることも考えれば、抗って滅ぶことよりも虐げられて今日を生きることを選択するしかなかった。
「お前が『
突然、後ろから名前で呼び止められる。名前自体、呼ばれたのはいつぶりだろう。持たざる者となってからは、『ゴミ』としか呼ばれなかったせいか、ひどく懐かしい気がした。
「誰?」
振り返り、見たものに驚いて声が詰まる。そこには身長が二メートルくらいの女性が立っていた。女性にしては背が高いが、私が驚いたのは背の高さが理由ではなかった。
「羽……。天使……?」
輝くシルクのような衣を身にまとい、背中から羽を生やした存在。持たざる者にとっての絶対的な脅威である天使という存在。そんなものがそこにいた。
「そんな、何で……?」
「ふむ、名乗る必要はないが、はなむけに名乗ってやろう。我は大天使サンダルフォン。第十の大天使である」
「大……天使!? なんで、こんなところに……」
第十の大天使であるサンダルフォンは、かつて日本を蹂躙した存在。多くの異能者を犠牲にして、かろうじて拮抗を保っている絶対者である。もっとも、最近は直接動くことはほとんどなく、配下の天使と異能者がぶつかりあっているだけと聞いていた。
「ふむ、『理由』を聞いているのか? それならば簡単なことだ。お前の異能『
「何を言って……。私の異能は、何の力もない無能……」
大天使という存在が脅威と認めても、私がこれまで言われてきた呪いの言葉が心を縛り、素直に受け入れられないでいた。そんな私の言葉から、様々なものを読み取ったのだろう。大天使に相応しくない笑い声を上げる。
「くはははは。しょせんは人類というところか。おのれの物差しでしか測れないものしか認めることができぬとは。だが、それは我々にとっては都合がいい。いずれにしても、お前は排除せねばならぬからな」
振り上げた右手に光輝く槍を生み出す。その圧倒的な力の前に、私は何も成す術が――。
『助けて……』
絶体絶命の状況にあるせいか、助けを求める声が聞こえたような気がした。気のせいだろう。
『助けて……。私はここにいます……』
気のせいではなかった。その声は大天使の中から聞こえてくるように感じられた。その声に意識を向けると、それの中に一人の少女がうずくまって、虚空に手を伸ばしているのが視えた。
「な、何を……。ま、まさか!」
私の様子が一変したことに思う所があるのか、焦りの声をあげながら槍を放とうとする。一方、私は関係ないとばかりに、少女へと向かって一歩ずつ進んでいく。
「ち、近寄るな! 死ねッ! ……バカな。身体が動かない!」
大天使は私を退けるべく槍を放とうとするも、何かに縛られたようにピクリとも動かなくなっていた。私の目には大天使の姿ではなく、助けを求める少女の姿しか映っていない。
「助けて、あげる……」
少女に向けて伸ばした手。それは大天使の身体にあっさりと呑み込まれた。そして、その奥の少女の手を掴む。
「バカな。我の根源に触れられるとは……。主の命を果たさねば……ならぬというのに……」
掴んだ少女の手を介して、私の力が少女に流れていくように感じられた。私の力を得た少女は光輝き、大天使という殻を破ろうとする。
「うぐぐ、ぐああああ!」
必死の抵抗もむなしく、大天使の身体にひびが入って粉々に砕け散った。その中から現れたのは光輝く少女の姿。それは私に向かって優しく微笑みかける。
「助けてくれてありがとうございます。私は――」
少女の口から洩れる感謝の言葉。だが、それを聞き終える前に私の意識は深い闇の中へと沈んでいった。
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