06. 仕事を終えたら社長の手料理、とくと召し上がれ♪
カランカラーン。
「ただいま戻りました」
カリンだ。
先の豹変した細田から逃げてきたのだろう、少し息を切らしている様子である。ミントとクミンがお揃いで、窓口へと続くドアから顔を覗かせた。
「お疲れさま」「お疲れー」
二人はカリンの戻りを快く歓迎した。カリンが冷蔵庫の前へと歩き、落ち込んだ表情で事の顛末についてこう話す。
「大変申し訳ありません。依頼者に連絡先を求められたので、マニュアル通り教える事なくレンタル期間を終えてすぐに一礼したのですが、相手が急に怒り出して後を追いかけてきまして…」
「あぁ、バンブーから話は聞いてる。災難だったな」
「公私混同せず、言われた通りに仕事ができてるなら大丈夫! 何の落ち度もないからね」
と、二人してカリンを慰めた。カリンは申し訳なさそうに「ありがとうございます」と感謝の言葉を返し、次にミントが冷蔵庫へと手を伸ばしてこういった。
「手料理、持って帰るだろう? 上から二番目の、黄色いレジ袋がそうだから。後で帰った後にでも、デートの様子を含めてレポートを提出してくれ」
「はい!」
するとミントの話を聞いてすぐ、元気を取り戻したカリンが冷蔵庫を開け、その中から黄色いレジ袋を取り出した。
レジ袋の中には紙製食器が上下重なる様に置かれていて、それぞれ中に依頼者から受け取った手料理が移し入れられている。カリンはそれらを快く受け取った。
「では、お先に失礼します」
そういって、カリンは今度こそ事務所を後にした。
夜。こうして再び二人だけとなり、社内は店じまいの雰囲気に。
ふと、冷蔵庫の中からチラッと見えたもので気になる食材があったので、ミントがそれを手に取り、こう呟いた。
「この卵、そろそろ使わないと悪くなるな。どうするか」
「お? 今夜はなに作るの!?」
「そうだなぁ。シンプルに、だし巻き卵にするよ」
と、顎をしゃくるミント。
そう。冷蔵庫に入れられるものは依頼者からの手料理だけでなく、自分達スタッフ用の飲食物も含まれているのだ。その殆どは調理される前の素材、肉や魚、野菜、果物、そして漬物といったところ。
その瞬間、クミンが飛び跳ねる様にミントの横につき、彼がこれから作る料理を待ち遠しそうに眺めた。ちなみに、彼女が取り扱う機材等は全てシャットダウンし、片づいている。
使う材料は、生卵三つ、白だし、水、そして卵焼き機に敷くための油。たったこれだけ。
ボウルに卵を全て割っていれ、そこに白だし小さじ二杯と水大さじ二杯を加え、よく溶きほぐす。溶いた卵はザルでこして別のボウルに移す事で、焼いた時に白身がダマみたいにならない様にするのだ。
熱した卵焼き機にはキッチンペーパーに染み込ませた油を伸ばし、そこに先程の溶き卵を少量流す。中火で半熟になるまで温めたら、奥から手前へと卵を巻いていき、巻いた卵を奥へ移動させ、再び空いた所に油を伸ばし、残りの溶き卵を少量流す。この繰り返しだ。
「わー、おいしそう!」
こうして僅か十分足らずで完成しただし巻き卵は、ミントの手慣れた切り分けと皿の盛りつけで、それぞれ自分達用にテーブル上へと並べられた。
既に炊かれている白飯をお椀に盛り、冷蔵庫にあった柴漬け、そしてお湯を入れるだけで出来る即席トマトスープも用意し、二人向かい合って椅子に腰かける。
焦げ一切ない、綺麗な黄色のだし巻き卵から漂ってくる香りが、クミンの食欲をそそった。
(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます