第51話 対抗戦のルールと帝王の名
「対抗戦の第二ステージについて、改めて詳しく説明する」
エレオノーレがそう言うと、教室全体の空気がどこかピシッと引き締まった感じがした。
もちろん、この中には第二ステージに参加できない生徒たちも半数くらいいるのだが、参加する生徒が醸し出す緊張感に釣られるかのように、全体がピリついた雰囲気になる。
「第二ステージに参加する生徒たちは、これから午前中の時間を使って会場となる王都北方の森へと移動する。到着は昼の十二時頃を予定。そこから準備をして、三十分後には楽しい楽しい殺し合いの始まりだ」
「……」
「だから冗談だって言ってんだろ。殺しは絶対にアウトだ。人間同士の殺しは、な」
エレオノーレがあえて“人間同士”としたのは、この対抗戦の第二ステージに、人間以外の生物の要素も入ってくるからだ。
魔獣である。
対抗戦のルールは、少し複雑。
まず生徒たちは、王都フェルンハイムの北方にある森へと移動する。
ここには魔獣がそこそこの数いるが、まあそこまでやばい強さの個体はいないため、Sクラスに合格できる生徒なら十分に対応できるレベルだ。
そして生徒たちは、生徒同士のバトルロワイヤルを行いつつ、魔獣討伐も並行して行う。
魔獣を討伐、もしくは他の生徒たちを倒した場合、そのコンビにはポイントが付与される。
そして、時間の経過とともに脱落者が発生していき、最後まで立っていたコンビが優勝となるわけだ。
脱落の条件は二つ。
生徒同士、もしくは魔獣との戦いで戦闘不能になるか、一定の時間ごとに定められた基準のポイントに到達できなかった場合だ。
要は、戦えなくなったらその時点でゲームオーバー。
一時間で十ポイントを稼ぐみたいな基準に到達できなくてもゲームオーバーということ。
ずっと隠れて戦いを避けながら生き延びるという手段は使えず、全員が戦いの渦の中に飛び込んでいかなくてはならない。
「第一ステージを突破できなかった生徒たちには、午前中の移動の間、学校に残って授業を受けてもらう。まあこれも、自分の弱点を分析できる特別なカリキュラムになってっから、しっかりやれ。そして対抗戦が始まったら、リアルタイムでその様子が中継されっから、しっかり見て学ぶように。あー、説明はそんなところだな」
ひとまず魔獣討伐でポイントを稼ぎに行くのか、はたまたいきなり他のコンビに喧嘩をふっかけるのか。
ここにそれぞれの戦略、性格が出るところだ。
それに、バトルロワイヤルとは言いつつも、一時的に他のコンビと手を組むようなことは禁止されていない。
この辺りが、対抗戦第二ステージの鍵になってくる。
「あー、そうだ。言い忘れてた。第二ステージの最中、フィールドには教員が複数名いるからな。基本的に手出しはしねえが、まじで危ない時は止めに入る。だからまあ、安全面はそんなに心配するな。それと、フィールドには結界が張られるから、脱落するかギブアップするかしねえと出られないから気をつけろよ。それじゃ、移動する奴は準備しやがれ」
エレオノーレの一言で、第二ステージに参加する生徒たちが動き始める。
学校に残る生徒たちは、頑張れよと声をかける者から、少し不服そうな者まで、反応は様々だ。
――想定していた以上に、不確定要素が多すぎるな。
エミーリアとビアンカというコンビの結成から始まり、魔国ブフードの介入に至るまで。
少し不安になりかける俺だったが、頭を振ってその思考を追い出す。
――いや、何があろうと、全てをぶっ壊すだけだ。
※ ※ ※ ※
時を同じくして、王都フェルンハイムの暗部である地下帝国。
諜報部隊の本部となっている建物の中で、エルザとイレーネ、ヒルデの三人が顔を合わせていた。
「早速、ヴァルエ王立魔法学校でひと騒動あったみたいね」
イレーネの言葉に頷いて、エルザはさらに続ける。
「アルガはあんまり目立つようなことはしなかったみたい。ヴィムとかいうのは助かったらしいけど、まだ懸念事項があるって言ってたよ」
「魔国ブフードが相手だもの。一筋縄では行かないわ」
「そりゃそうだ」
半ばめんどくさそうに言って、ため息とともに頭の後ろで手を組むエルザ。
しかし数秒後、ふと思いついたように前のめりになって言う。
「ちょっと思ったんだけどさー。王都でそういう良からぬことが起きたわけでしょ? 魔国ブフードもそうだけど、何だっけ……帝王? とかいうその悪の元締めが絡んでる可能性はないの?」
「それはないわ。断言できる」
エルザの問いかけに、イレーネはきっぱりと答えた。
隣では、ヒルデも相変わらずの無表情で頷いている。
「帝王と魔国ブフードは、敵対的な関係にある。万に一つも、彼らが協力して何かをするなんてことはないわ」
「ふーん。まあそりゃ、悪者同士でもいろいろあるか」
「でも逆に言えば、帝王が自分の縄張りで魔国ブフードに好き勝手されるのを許すとも思えないわ。何かしらのアクションは起こしてくるかも」
「ふむふむ。いやー、なんかすごい初歩的な質問なんだけどね?」
数秒の間をおいて、エルザは頭をかきながら尋ねる。
「結局、帝王って誰なの?」
「あら? 知らなかったの?」
「前にアルガが名前を言いかけたんだけど、邪魔が入って聞きそびれちゃってねー」
「そうだったのね。うーん……エルザは諜報部隊のリーダーなわけだし、知っておいた方がいいかも。でもこの名前は、私とヒルデ、アルガ以外の前では絶対に口にしてはいけないわよ」
「大丈夫だってー。私、口堅いから」
「王都フェルンハイムの地下帝国を統べる悪の帝王。彼の名前は……」
イレーネは、やはり少しためらうような仕草を見せた後、意を決して低く小さな声で言う。
その聞き覚えのある名前に、エルザは思わず目を見開き、「うわーお」と声を上げた。
「悪の帝王の名前はバーデン。表の顔は、ヴァルエ王立魔法学校の学校長にして、この国の魔法省の大臣よ」
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