第6話 スケッチブックに隠された地図
真と吉岡は、雛森奏音が以前使っていたアトリエに向かった。その場所は町の郊外にある古い木造の建物で、彼女が一人で絵を描くために借りていたという。建物の扉には簡易な鍵が掛けられていたが、吉岡が雛森奏音から預かっていたスペアキーで中に入ることができた。
中に入ると、長らく使われていない空間特有の埃っぽい匂いが漂っていた。真は懐中電灯で辺りを照らしながら、壁に掛けられたスケッチや未完成のキャンバスを見回した。そして、部屋の中央に置かれたテーブルの上に、問題のスケッチブックを発見した。
吉岡がそれを手に取り、最後のページをめくる。そこには、美咲が言っていた通り、地図のような絵が描かれていた。
「これは……どこかの場所を示しているのか?」真が呟いた。
地図には、川のような曲線や小さな丸が複数描かれていた。その横には「灯台」という言葉が書かれており、さらに矢印が一つの場所を指していた。
「この町に灯台なんてあったか?」吉岡が疑問を投げかける。
「正確には、もう廃墟になった灯台があるはずだ。」真は思い出すように言った。「町の南端にある岬の先、今では誰も近づかない場所だ。」
その地図が灯台を指していることは間違いなさそうだった。雛森奏音がなぜその場所を描いたのか、そこに何が隠されているのかを確かめるため、二人は灯台へ向かうことを決めた。
深夜の灯台は、不気味なほど静かだった。波が岩に打ち付ける音だけが響く中、真と吉岡は懐中電灯を片手に進んでいった。灯台の外観はひどく崩れており、長年放置されてきたことが一目でわかる。
入口は朽ちた木製の扉で塞がれていたが、簡単に開けることができた。中は暗闇に包まれており、壁にはカビが生え、階段は錆びついていた。
「ここに奏音さんが来ていたのか……?」吉岡が不安げに呟く。
「ここが最終地点だ。」真は冷静に答えた。「絵の一部か、奏音さんの残した手がかりがここにあるはずだ。」
二人は灯台の中を慎重に探索した。やがて、塔の最上階に到達すると、そこに一枚のキャンバスが立てかけられているのを発見した。その絵は完成していなかったが、中心に大きな赤い円が描かれており、その周囲には町の権力者たちと思われる人々の姿が並んでいた。
「これは……50年前の真実と、今の現実を重ねている?」真はその絵を見て直感的にそう感じた。
しかし、その時、背後で何かが動く音がした。
振り返ると、そこには吉田隆二が立っていた。彼の背後には数人の屈強な男たちが控えている。
「ここにいると思ったよ。」吉田は冷笑を浮かべた。「奏音はこの絵に命を懸けていた。だが、それが表に出るわけにはいかない。」
「奏音さんはどこだ?」真が問い詰めた。
「知りたいか?」吉田は一歩前に進みながら言った。「彼女はまだ生きている……だが、この絵が完成することを阻止するためには、永遠に静かにしてもらう必要がある。」
「そんなことをさせるわけにはいかない!」吉岡が声を荒げたが、吉田の仲間たちが動き出し、真と吉岡に向かって襲いかかろうとした。
真は咄嗟に塔の中を見渡し、瓦礫の一部を掴んで応戦し始めた。狭い空間の中で、暗闇と混乱が入り乱れる。
やがて、真はとっさにキャンバスを手に取り、それを灯台の外へ持ち出す決断をした。「吉岡、脱出するぞ!」
混乱の中、二人はなんとか塔の外へ逃げ出し、追っ手を振り切るために全力で駆け出した。
灯台を抜け出した真と吉岡は、一旦安全な場所へ絵を移すことに成功した。しかし、雛森奏音の行方は依然として不明のままだ。吉田の言葉が気になるものの、雛森奏音がまだどこかで生きている可能性に賭け、真は新たな計画を練る。
「次に目指すべき場所は、奏音さんが最後に何を描こうとしたかだ。」真は言った。「この絵を完成させることで、全ての真実が明らかになる。」
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