崖っぷち魔法使いの学園無双〜臭い魔法が最強でした〜

🔨大木 げん

第1話 俺氏、魔法使いになる

「くっせぇ〜!!」

「なんじゃこらぁ」


 あちこちから悲鳴があがる。


 国立箱根魔法はこねまほう学園


 通称箱根魔法学園はまがく


 その高等部校舎から少し離れた、第1研究棟の1室が吐き気をもよおす匂いの元のようだ。


 水色の髪と瞳が印象的な美少女、一年生筆頭の水上 真凛みずかみ まりんは、幼馴染でもある、同じく一年生の新発田しばた あきらに、ハンカチで口元を覆いながら詰め寄った。

 

「ちょっと! あきら君! 今度は何をしでかしたのよ!」


「え? 俺また何かやっちゃいました?」


「思いっきり悪臭をただよわせているじゃない!! 自分でわかってるでしょ!」


「いや〜、まさかこんな事になるとは……」


「この間の君が開発した、鑑定魔法を付与したメガネ型魔道具の実証実験の時にも問題を起こしたんだからね! いい加減にしないと変なあだ名だけじゃなくて、いじめられちゃうかもしれないんだから!」


「あれは魔道具自体は大成功だったんだ。つい調子に乗って会う人すべてに『フッ戦闘力たったの5か、ゴミめ』とか、つぶやいちゃったのがまずかった」


「当たり前でしょ!」


「おかげで、『ゴミ太』なんて呼ばれるようになってしまった。新発田しばたは田んぼのなのに・・・」


「自業自得です。で、今度はなんでこんなに臭いの?」

 

「よくぞ聞いてくれました! ついに俺は人類の夢だった『アイテムボックス』の開発に成功したんだ!」


「アイテムボックス? ゲームとかラノベでよく出てくるあのアイテムボックス?」


「そうだ! そのアイテムボックスだよ!」


「凄いじゃない! それが本当なら15才にして『ノーベル魔法学賞』の受賞は間違いないわ!」


「だからホントだってば!」


「アイテムボックスの開発なのになんでこんなに臭いのよ?」


「それはな……」



 

 ◇◇◇

 


 2020年


 日本近海の無人島に外宇宙より飛来した小隕石しょういんせきが落下した。


 その隕石いんせきは日本の研究機関に引き取られたが、研究開始以降、原因不明の熱病が発生し次々と感染者を増やしていった。


 後にその感染源となる未知のウイルス、通称エックスウイルスが発見された。

 

 子供が重症化することはめったに無いのだが、まれに高熱を出す者もおり、熱が引くと特徴ある変化をおこす者も出てきた。


 髪や目の色が変化し、いわゆる超能力のような特殊な力を発現したのだ。その幅広い能力の種類から、その現象は『魔法』とよばれ、それを操る者は『魔法使い』とよばれた。


 不思議なことに魔法使いとなる者は15才以上には現れなかったため、魔法使いを一箇所に集めて特別教育する事が国により急遽きゅうきょ決定された。


 


 2025年 1月


 日本トップクラスの発明家、新発田 開しばた かいの自宅兼研究所内、新発田家地下ラボシバラボにて。


「しっかし、あきら。お前はぜんぜん魔法使いにならねえなぁ」


「そもそも俺は風邪なんかひいたことないんだから、魔法使いになれるわけねえだろ! いいんだよ、俺は父さんみたいな発明家になるんだから!」


「お隣の真凛まりんちゃんなんて、10才で能力を発現して『ファーストチルドレン』なんて呼ばれて世界一有名な女の子になったっていうのに」


「だからいいんだって! そもそも魔法使いになったら全寮制の箱根魔法学園はまがくにいかなきゃなんねえんだろ? それよりもここで父さんの仕事手伝いながら経験つんだほうがいいんだよ!」


「おまえももうすぐ15才になるしな、こりゃ魔法使いは無理か。ん!? そこの組み合わせ間違ってるぞ。さっきからどうした?」


 かいあきらの額に手を当てる。


「おまえ……熱があるぞ、かなり高そうだ。今日はもういいから部屋に戻って寝てこい」


「わかったよ」


「馬鹿は風邪ひかないって言うけど、お前は馬鹿じゃなかったんだな」


「うるせぇ!」



 

 ―― 3日後 ――


  

「すっかり熱もひいたなあきら。お前は髪の色もそのままだし、やっぱり魔法使いにはなれなかったみたいだな」


「それがな、父さん。なんか変なんだよ」


「心配するな、もとからだ」


「そうじゃねーよ! そうじゃなくてだな、何かこうイメージがわいてくるんだよ。自分の力の可能性というか……」


「なんだ、もうすぐ中学生は終わりだというのに、もう1年、中二をやり直すのか?」


「だから違うって! 真面目に聞いてくれよ!」


「わかったわかった、それって魔法使いの初期症状じゃないのか?」


「えっ!? そうなの?」


「そうらしいぞ、『BOX』庁からの発表で、4年前はけっこうニュースで大騒ぎになっていた」


「『bionic』(生体工学)•『ordeal』(厳しい試練)•『Xvirus』(エックスウイルス)』でB•O•Xだっけ?」


「さすがにそれぐらいは知ってるか。初期症状の話真凛まりんちゃんから聞いたことないのか?」


「真凛は4年前からは箱根魔法学園はまがくの初等部に転校しちゃったし、あまり話したがらなかったから聞いてないよ」


「そうか、まぁいい。元気なら明日BOX庁に行って詳しく調べてもらうぞ。本当に魔法使いになってたら今までの傾向から詳しく自分の系統を教えてもらえるらしいからな」



 

 翌日、BOX庁能力鑑定課にてあきらの系統は『無属性』、能力は全魔法使い中初の『魔法開発』だという事が判明した。


 そして4月からは、全寮制の国立箱根魔法学園はこねまほうがくえんの高等部へと入学する事が決まった。

 

 


「それにしても『魔法開発』魔法か。正直うらやましいぞ。研究者からすれば一番良い魔法なんじゃないか? 夢が広がるな。地味だけど」


「地味って言うな! どんな魔法が開発できるのか、俺も今から楽しみだな。魔法の開発がはかどるように、まずは鑑定魔法から始めたいんだよな」


「まぁ、それはお前が好きにすればいいさ。その後はどうするんだ? 『魔法開発』の名前の響きからしたら何でも出来そうな気もするけど、便利な生産系を目指すのか? それとも最強系を目指すのか?」


「どっちもに決まってるだろ。俺も男だ、最強の魔法の開発なんてロマンがひろがる!」


「ならここはやはり、時空間魔法じゃないか? ディ○様みたいに時間を止めて『無駄無駄無駄〜!』って俺がやりたい!」


「完全に父さんの趣味じゃねえか! でも良いな、時空間魔法。そうだな、鑑定魔法の次はロマンを求めて時空間魔法の開発をしてみるか」

 

 

 

  

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