魔王と冒険するのは楽じゃない!?【完結済】

しーなもん

第1話『転生したら妖精だった件』

 通り魔に襲われて異世界転生とか、コンビニを出ると異世界転生とか、過労死で異世界転生とか、ラノベというやつはどれもありふれた設定しかないなと常日頃より思っていた。


 ただ、実際自分の身にそれが起こると、既にチュートリアルを終えたゲームのごとく、状況把握に苦しむ手間が省け、瞬時に事を理解することができたため、結局回りくどい設定が一番面倒臭いのではと思ってしまう。


 僕は、死んだ。

 トラックに轢かれるという、赤面しそうなくらいのベタな展開で。

 そして気が付いたら森にいて、いつの間にか着ていた服装は変わっていた。


「なんだこの服?」


 今日は就活をしてリクルートスーツを着ていたはずなのに、いつの間にかボヘミアンのような服に、鮮やかなモモンガパンツを履いている。


 いったいなぜ……。

 いや、考えても分からない。

 どうせこの世界は、そういった細かな説明はない。

 だってそうでしょ?

 ラノベみたいな展開で転生したんだよ?

 ラノベなんて世界が違うくせに日本語が通用するような、安易な世界ばかりじゃん。

 細かいこと気にするだけバカらしい。

 どうせすぐに、向こうからなぜか日本語で僕に話しかけてくるんでしょ?


「おい、そこの妖精族」


 ほら、やっぱり。

 日本国内でさえ、色んな方言がある。

 実際はちょっと東北の方に行くだけで、同じ日本人の僕でさえ会話に苦労するんだ。

 ところが、国どころか世界が違うというのに、同じ言語という親切さ。いや、安直さ。

 ここは、ラノベの異世界で間違いない。

 

 しかし、妖精族というのは僕のことか?

 たしかに、そう言われても納得できる変わった格好をしているわけだが。


 僕は声のした左方向に体を向けた。

 すると木の影から40くらいの小太りな中年のオジサンが体を現し、こちらに歩き出した。


 「おぬし、すまぬが何か食べる物を分けてくれんか?」


 何だ?

 いきなり盗賊か何か悪い奴にエンカウントしたのか?

 見た目そんなに強くなさそうなオジサンだけど、いきなり戦うとか怖すぎるから、話が怪しくなったらすぐに逃げよう……。


「ごめん、何も持ってないや。僕、さっきここに転生したばっかだから」


 そう言うと、オジサンは目を開かせて驚いたように声のトーンを上げた。


「何、転生者じゃと!? ならばおぬし、体がスライムで出来ておるとか、もしくは蜘蛛でできておるとか、死んでもタイムリープしてやり直せるとか、破滅フラグしかない悪役令嬢になっておるとか……」


「転生アニメ好きすぎだろ!」


 つい、突っ込んでしまった。

 そして直後、後悔した。

 僕は今完全に突っ込みを間違えた。

 オジサンが転生アニメを好きとか、どうでもいい。

 違うんだ。そうじゃない!

 異世界のオジサンがなぜ転生アニメを知っているのかということを突っ込まねばいけないところだったのに!

 何なんだ、この人は?

 なぜ、転生アニメを知っている?


「オジサン、何者なの?」


 そう聞くと、オジサンは少し目を細めて言った。


「ワシか? ワシは、魔王じゃ」


 ……ん?

 何か、聞き間違えたか?


「は?」


 あまりにも突飛な言葉に聞こえてしまい、少し失礼な態度で聞き返してしまった。

 しかし、そんな僕の態度に気にすることなく、オジサンは再度言った。


「魔王じゃ」


 どう見ても、そこら辺にいるただのオジサンにしか見えない。

 運動が苦手そうなぜい肉、いかにもビールでぽっこりしたような腹。

 顔の特徴をあげることが難しいほどの普通な顔、目つき。

 格好も、どこぞのスーパーで買ったかのような青いトレーナーに、シワシワのズボンを履いている。

 この姿で魔王とか、いくらこの世界がラノベの世界だといっても、無理すぎる。


「ああ、そう……。じゃあね」


 あまり関わらない方が良さそうだ。

 僕は踵を返し、逃げることにした。

 しかし、すぐに肩を掴まれた。


「待て。本当にワシは魔王なのじゃ」


 僕は溜め息を吐き、言った。


「じゃあ、オジサンが本当に魔王だとして、なぜこんな所にいるの?」


 魔王は神妙な顔で言った。


「勇者に負けたのじゃ。そして姿を変えられた」


 なんだそれ。

 つまりこの世界は既に勇者が魔王を倒して救われた世界だってことじゃん。


「ああ、もうエンディング後の魔王様でしたか」


 僕の言葉に、すかさず自称魔王が返す。


「エンディング後とか言うな」


 そして聞いてもいないのに、自伝を語り出した。


「ワシは勇者が憎い……。ワシは一人で相手したというのに、奴らは4人がかりでワシを攻めてきたのじゃ」


「ああ……。まあ、勇者が4人パーティーなのはお決まりだからなあ」


「そしてワシは勇者たちに負け、強くなれる理由を知った」


「まあ、向上心は大事だよな」


「死にそうになりながら走馬灯に酔ったワシは、奴らに復讐することを誓ったのじゃ」


「復讐は何も生まないっていうよ?」


「そう言うな。ワシは瀕死になり、震える手で掴みたいものがあったのじゃ」


 なんだこの魔王。

 たまたまかもしれないけど、突っ込まずにはいられなかった。


「あのー、ちょいちょい鬼滅のやつ入れてくるの止めてくれない?」


 いや、たまたまだろうけど。

 そんなはずないじゃん。

 だって異世界人だよ?

 元の世界とは違うんだよ?


 僕の言葉を聞いているのか、魔王は続けた。


「ワシがこんな姿になった理由は……それだけじゃ」


「もういいって!」


 こいつ、絶対に確信犯じゃん!

 

「頼む!ワシと一緒に世界を闇に覆う活動を手伝ってくれ!」


 はあ!?

 唐突に何を言ってるんだ、この自称魔王は。


「ヤダよ。何だよ、世界を闇に覆う活動って」


「そう言うな。転生者は何らかの強力なスキルを持っているのが世の常であろう?」


 それが狙いか!

 ってかこのオジサン、本当に転生アニメ好きだな!


「いやいや、僕人間だよ? なんで魔王とか自称する人に協力しなきゃいけないんだよ」


「何を言っておる。転生前がどうだったかは知らんが、今おぬしは人間ではない。妖精族じゃろう。つまりおぬしは、こっち側じゃ」


 妖精族は人間ではない?

 僕は人間じゃないのか?

 まあ、この人あまり信用できないし、例え僕が人間じゃないからといって、世界を闇に覆う活動を手伝う理由にはならない。


「こっち側って何だよ。オジサンこそ、見た目人間じゃないか」


 そう言うと、自称魔王は少し声を荒くした。


「見た目などどうでもいい! 変わっていけるのは自分自身だけじゃ!」


「もういいって鬼滅は!」


 こいつ……。

 これが言いたいだけなんじゃないか?

 そもそもなんでこのオジサンは鬼滅とか転生アニメを知ってるんだ?

 ここは異世界じゃないのか?


 僕の突っ込みが効いたのかどうか知らないが、自称魔王は顔をしかめて言った。


「おぬしが何て言おうが、ワシはおぬしに付いていくぞ!」


 なんかもう討論するのも面倒臭い。

 ここは適当に返事して、後で撒こう。


「もう勝手にしろ」


 僕がそう言うと、突然脳内に声が響いた。

 耳を通さずに脳内に直接語りかけてくるような声だ。

 天の声とでも言うのだろうか……。


「魔王が仲間に加わ──」


「おいヤメロ!」


 僕は天の声を遮った。

 まるで、このオジサンとの長い冒険が始まるみたいなフラグ立てないでくれ!


「絶対にそれ以上言うなよ!」


 天の声に抗議する僕を見て、自称魔王は不思議そうな顔をして言った。


「いったい誰に向かって言っておるのじゃ?」


 どうやら魔王には聞こえないらしい。


「何でもないよ」


 魔王はまだ不思議そうにこちらを見ていたが、仕切り直して言った。


「そうじゃ。おぬしの名前は何と言う?」


 本名を答えそうになったところで、思い止まった。

 ここは異世界だ。

 変な呪いをかけられても嫌だし、ここは偽名を使うのが正解だと思う。


「僕の名前はテュエだ」


 どうだろう?

 我ながら妖精っぽい名前じゃないだろうか?


「ほう。変わった名じゃな」


「まあ、転生者だしね」


「そうじゃったな。では、テュエよ、よろしくな」


 そう言って握手を求める自称魔王に、少しだけ躊躇う。


「……うん、よろしく」


 何かされそうになったらすぐさま逃げよう。

 そう心に誓いながら、僕は自称魔王と握手をした。




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