所要時間:30分 四人声劇「伽藍堂の中で僕は星を探す」

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主人公 テン

星瞬き人の弟 アル

星瞬き人の少女 ベガ

星瞬き人の青年 デネ




テンN:夏の大三角形を知っているだろうか。夏の夜空に浮かぶ、アルタイル、ベガ、デネブの三つを繋いだ星々のことだ。

暑い季節になると、人々は星々に癒しと安らぎを求める。

ひときわ輝く星々を眺め、人々は希望を胸に夜明けを迎えていく。

私たちの国には、それらの星々に力を与え、よりいっそう星を輝かせる能力を与える存在がいる。

そのような力を持つ者を星瞬き人(ほしまたたきびと)と呼ぶ。

これは、そんな星瞬き人たちの物語である。


テンN:そうだ、自己紹介がまだだったね。私の名前はテン。私には、アルという星瞬き人の弟がいる。私は小さいときから弟のアルをささえるために、働いていた。


テン「アル。いってくるね」


テンN:今日もまた売り物を片手に、ベッドの上で気持ちよさそうに寝ているアルに、そっと声をかけて外に出る。すると、お手紙が届いているのが見えた。


テン「もう明日が観測祭かあ。えっと、今年の場所は、っと……」


テンN:その手紙は、国から弟に宛てられたもの。中には日付と集合場所が記された地図が同封されている。この国では毎年夏に、星瞬き人が自身の能力を使って、夜空に輝く星をより一層目立たせる、観測祭が行われる。その期間だけ、本来王族のみが入れる敷地内に、星瞬き人は入ることが許されている。これはその通知だった。

基本的には星瞬き人のみが入れるのだが、アルが虚弱体質ということもあり、私も毎年アルに付き添っている。


テン「あの二人も、元気にしてるかな」


テンN:星瞬き人はアルだけでなく、ベガちゃん、デネくんがいる。

ベガちゃんは私の家の真向かいに住む愛らしい少女だ。アルよりも一つ下で、幼い頃からよく一緒に遊んでいた。私も彼女のことを妹のようにかわいがっている。

デネくんは口が悪く、自分に自信がない年上の青年。星瞬き人の中で唯一、観測祭の時に鳥に変化する存在だ。しかし、そのことは一般的には知られていないため、賞賛を浴びることはない。

デネくんは毎年アルとベガちゃんを背中に乗せ、夜空に飛び立つ。特定の星々まで彼らを導くその姿は神秘的で美しく、観測祭の定番でもある。毎年、デネさんが星空へ飛び立つ姿に人々は希望を抱いて眠りにつくのだ。


テン「いっけない、そろそろ行かないと」


テンN:腕時計に目を落とし、私は急いで町へと繰り出した。


(商店街のがやがや音)


ベガ「テンさん!」

テン「ベガちゃん、おはよう。いよいよだね」

ベガ「はい。毎年この時期になると、今年もうまく輝かせられるかしら……って心配になるのだけれど、年に一度のお祭りだし、がんばらなくちゃって」

テン「ふふ、いいね。ベガちゃんのそういう健気なところ、好きだよ」

ベガ「うふふ、嬉しいです。ありがとうございます」

テン「……ところで、ベガちゃん」

ベガ「はい。なんでしょう?」

テン「このあと、ちょっと時間いいかな」

ベガ「えっ、私に、ですか?」

テン「うん。これはベガちゃんにしか相談できないことかも」

ベガ「なるほど」

テン「また、お昼休憩になったときに相談しにいくね」

ベガ「わかりました。お待ちしておりますね」

テン「ありがとう!あっ、お客さん、お目が高い。そのお品物はですね……(フェードアウト)」


***


テン「ベガちゃんおまたせ」

ベガ「いえ、大丈夫ですよ。それでご相談とは?」

テン「うん。ここ最近、アルが落ち込んでいてね。うなされているというか」

ベガ「うなされている、ですか」

テン「うん。お医者さんにも見てもらったんだけど、持病以外特におかしなところはないって言われて、星瞬き人としての力が関係しているのかもしれない、っておっしゃっていたから。私が聞いても『別に、姉さんには関係ないだろ』の一点張りで。ベガちゃんなら何か聞き出せるかなって思って」

ベガ「なるほど。そういうことだったんですね。たしかに、不安になる気持ちもわかります。特にアルくんが担当する星は三つの星の中で、一番強く輝かせなければならない星、アルタイル。その分、責任感というのか、自分に課せられた使命が、重く感じてしまうことも、あるのではないでしょうか?」

テン「うーん、そう、なのかな……」

ベガ「毎年アルくんは顔色を青くさせながら、懸命にがんばっていますから……」

テン「うーん、でも今回はそういう感じじゃない気がするんだ。デネくんにも相談したかったのだけれど、彼がどこに住んでいるのか、私知らなくて」

ベガ「あらあら、そうだったんですね。ですが、残念ながら、私も彼の住んでいる場所は知らず……。すみません、お力になれなくて」

テン「大丈夫だよー。あっ、そろそろ行かないと。……ベガちゃん、アルをよろしくね」

ベガ「はい、わかりました」


***


ドアを開ける音SE


ベガ「アルくん、こんにちは」

アル「えっ、ベガちゃん……?」

ベガ「テンさんから、アルくんが最近落ち込んでるって聞いたから……」

アル「落ち込んでる……。ははっ、流石姉さん。よく見てるなぁ……。毎年思うんだ。なんで、神様は姉さんじゃなくて僕を選んだんだだろう……、って」

ベガ「ふむふむ?」

アル「姉さんの方が活発的で優しくて健康体で、今も僕のために懸命に働いてくれてる。生まれたときから病弱の僕なんかよりも星瞬き人に適しているよ」

ベガ「……そんなことないわよ。アルくんもそうやってテンさんを気遣えるやさしさがあるのだから。それに、星瞬き人の仕事だって毎年精一杯頑張ってる。そんな自分をほめてあげて」

アル「……それが出来たら苦労していないよ。それに、最近は別件で、もやもやすることがあって」

ベガ「別件、というと?」

アル「……デネさんのことで」

ベガ「デネさん? 何かあったの?」

アル「嫌われてるんじゃないかなって思ってて……」

ベガ「あら、それはどうして?」

アル「昨年度の観測祭が終わった後に、去り際にデネさんから『お前調子乗ってんじゃねーぞ』って言われちゃって」

ベガ「あら……」

アル「あんまりにも唐突だったものだから、驚いちゃって。今までずっと忘れていたんだけれど、観測祭が近づくにつれて、そのことを思い出して具合が悪くなっちゃって……」

ベガ「そうだったのね」

アル「姉さんに相談したら、仕事に手がつかなくなっちゃうかなって思って、相談できなかったんだ」

ベガ「テンさんを気遣えてて、アルくんは偉いわ」

アル「ベガちゃん……」

ベガ「どうしてデネさんがそんなこと言ったのか、私にデネさんの気持ちはわからないけれど、私はアルくんが好きよ。アルくんはいいところたくさんあるのだから、もっと自信をもっていいのよ」

ベガ「あっそうだ。アルくん、お腹すいてない? よかったら私作ってあげる」

アル「いやいや、大丈夫だよ」

ベガ「遠慮しなくていいのよ。私がアルくんのために作りたいだけだから」

アル「……それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

ベガ「ふふ、任せて。今何が食べたい気分かしら?」

アル「……オムライス」

ベガ「オムライス、承りました。それじゃあ少し待っていてね」


***


デネN:キラキラしたものが嫌いだ。明るいものが嫌いだ。ドロドロとした感情を常に持ち合わせた俺の心を、あぶりだしてしまいそうな眩しすぎる光は嫌いだ。

俺は星瞬き人として、毎年鳥になる。それも俺の大嫌いな白鳥になって、星のようにキラキラと輝く二人を背に飛び立たないといけない。

こんなにも苦しいのに、努力しているのに、俺の存在はみんなには知られない。

ゆえに、俺の苦しみは俺の中で消化しないといけない。

むしゃくしゃしていた。気が付けば、俺は顔に傷のある男たち囲まれてしまっていた。

もうどうにでもなれ、と男たちのうちの一人が俺の胸倉をつかもうと手を伸ばしたその時だった。


テン「デネくん!?」


デネN:突如として横から声が響いたかと思うと、俺と男たちの間に割って入った女性がいた。アルの姉、テンさんだ。目を見開きどうすることもできない俺は、彼女の小さな背中を見つめていた。


テン「ちょっと、何してるんですか!?」

デネ「……えっ? はっ? テンさん?」

テン「何があったか知りませんが、複数人でひとりの子を囲うなんてサイテーだと思います! いこ、デネくん!」

デネ「え、ちょっ……!」


デネN:彼女は俺の腕を掴み、急いでその場を離れていく。後ろから男たちの罵声が聞こえるが、その声も徐々に遠ざかっていった。自分の身に何が起こったのか分からず、ただ気が付けばテンさんと一緒に駆けだしていた。


テン「はぁ、はぁ、ここまでくれば大丈夫かな……?」

デネ「はぁ、はぁ……」

テン「さっきは、なにがあったの?」

デネ「てめぇには関係ねえだろ……」

テン「関係なくないよ」

デネ「うぜぇ、アンタの、アンタらのそういうとこ、大嫌いだ!」


デネN:そう言い放った後、俺はハッとした。違う。こういうことを言いたいわけじゃないんだ。感謝の言葉を伝えないといけないのに、真反対の言葉が口から出てくる。


デネ「……すまねぇ、言いすぎた」

テン「大丈夫。明日の観測祭で、色々考えこんじゃってるんだよね。なにかあったの?」

デネ「一年前のことを思い出して。後悔してるんだ」

テン「一年前?」

デネ「……アルに大人げねえことをいっちまった。アルは一年前の観測祭で、過去一、綺麗に一等星を輝かせていたんだ。周りに絶賛されているアルを見て、嫉妬しちまったんだ……」

テン「ふんふん……」

デネ「アルやベガを星の近くまで連れて行ってあげてるのは俺なのに、なんで俺には賞賛の声がないんだ、って思っちまって。悔しくて妬ましくて、その気持ちが抑えられなくて、気づいたらぽろっと口走っていたんだ……」


デネN:俺は額に手を当てて、蹲った。なぜあんなことをいってしまったのか。ずっとずっと悔いている。大人げないことをしてしまった。俺にもっと余裕があったら、もっと強い人間だったら、こんなことにはならなかったのに。


デネ「……アンタって、なんでそんなに、強いんだ?」

テン「……そういう環境だったから、そうならざるを得なかっただけで、強くなんかないよ」

デネ「…………」

テン「自分でやれることなら自分でやる。ちゃんと言いたいことがあるなら、はっきりと言う。でも、自分一人じゃどうにもならないことだったり、考えがうまくまとまらなかったりするときもあると思う。そんな時は、一旦周りに頼ってもいいと思っているからさ。デネくんは、他の人にはない魅力を持ってるの、私知ってるよ。毎年しっかりと二人を目的の星の近くまで運んであげているんだから。それはデネくんにしかできないことだよ。大丈夫、みんなが知らなくても、私は知っているから」

デネ「テンさん……」

テン「明日、観測祭。去年みたいに、一緒にがんばろう、ね?」

デネ「……ああ、わかった」


デネN:俺は星空を見上げた。明日はあの星々の中に紛れる夏の大三角形のもとへ二人を連れていく。今度はきっとできるはずだ。俺はゆっくりと立ち上がった。


***


アルN:次の日の夜、町中が祭りに向け少しにぎわい始めた頃、テン姉さんが押す車いすに乗りながら僕は、海へと向かっていた。


アル「緊張する……、うまくできるかなあ」

テン「大丈夫、大丈夫。今回もうまくいくよ」

ベガ「そうそう。アルくんならできるできる。やれるやれる。私も一緒に頑張るから」


足音SE


デネ「……アル」

アル「は、はいっ!」

デネ「去年は、すまなかった。周りから認められて、賞賛されてるアンタが羨ましく感じちまって」

アル「デネさん……」

デネ「同じ星瞬き人なのに、どうして、って思っちまった。なんで世間は俺を認めてくれねえんだってな」

アル「……」

デネ「けど、違った。アンタだって体が弱い中、一生懸命頑張ってるんだよな。すまなかった」

アル「……いいんです。ありがとうございます。教えてくださって」

デネ「……」

アル「観測祭ももうすぐ始まります。今年も僕とベガちゃんを星のもとへ連れて行ってくれますか?」

デネ「ああ、勿論。俺に任せてくれ」


魔法のきらきらSE or 翼系のSE


デネ「ほら、俺の背中に乗れよ」

アル「落とさないでくださいよ」

デネ「さてな?」

ベガ「もう、デネさんたら、またそうやって」

テン「ほらほら、もういかないと。観客の皆、待ってるよ」

デネ「へいへい。わかりましたよっと」


アルN:白鳥になったデネさんは僕とベガちゃんを乗せて、そのまま夏の大三角形のある夜空に向かって飛び立った。


デネ「今宵は宴。清らかなる魂よ、穢れなき星々の欠片よ、デネブの名のもと、同名の星に繊細で仄かな光を与えたまへ」


アルN:デネさんが大きく首を動かし、一層強く羽を羽ばたかせた。すると、羽からキラキラとした光が放たれ、その先にあった星、デネブがほんのりと淡い光を輝き始めた。続けて、僕の隣にいるベガちゃんが祈りをささげる。


ベガ「今宵は宴。清らかなる魂よ、穢れなき星々の欠片よ、ベガの名のもと、同名の星に淡く柔らかな光を与えたまへ」


アルN:ベガの星がデネブよりも強く輝く。そうして、僕もまた二人と同じように夜空に祈りを捧げる。


アル「今宵は宴。清らかなる魂よ、穢れなき星々の欠片よ、アルタイルの名のもと、同名の星に強く優しい光を与えたまへ」


アルN:唱えたと同時に一気に力が抜けていくのを感じる。意識が飛びそうになる直前にベガちゃんが僕を支えてくれた。


ベガ「アルくん大丈夫?」

アル「なんとか……、ありがとうね」


アルN:三つの星々を輝かせた僕たちは元の場所へと戻っていく。地上に近づくにつれて、僕たちが輝かせた星々を見上げ、同じように煌々と目を輝かせる人々が見えた。元の海辺にデネさんは着地すると同時に、テン姉さんが僕たちに駆け寄った。


テン「三人とも、お疲れ様っ! 今年もとってもきれいに輝かせてくれて、ありがとう! ほら見てみて!」


アルN:姉さんが興奮気味に上を指差す。その先には、満天の星空の中でひときわ輝いて見える夏の大三角形があった。


テン「ね、今年もすごく綺麗だよ!」

アル「ほんとだ……」


アルN:僕は思わず息を呑む。一夜限りの煌めきでも、ここまで人を魅了させる力を持つのか、と。


テン「今年もみんなのおかげでとっても素敵な夏の大三角形が見れたよ。ありがとう」

ベガ「へへ、嬉しいです」

デネ「まっ、俺のおかげだよな?」

テン「そうだねぇ、よっ、大統領!」

デネ「なっ、そこまで褒めろなんていってないだろ?」

テン「そうは言っても嬉しいくせにこのこの~」

デネ「はっ、うっぜぇ」


アルN: 人間というものはもろい生き物だ。伽藍堂の心をどこかに抱えていて、そこは永久に満たされない。何が正しくて、何が正しくないのかわからなくなってしまう。正しい答えなんて永久に見つけられないのかもしれない。 それでも、今僕を求めてくれている人がいる。僕の活躍を期待してくれる人がいる。だから、がんばれる。分からないことだらけな世界でも、一人でも肯定してくれる人がいれば、僕は僕らしくいられる。今はそれが分かっていればそれでいい。


ベガ「アルくん、さっきから無言だけど大丈夫かしら……」

テン「大丈夫? 具合悪い……?」

アル「えっ、ううん。大丈夫だよ。色々物思いにふけってた」

テン「そっか。よし。それじゃあ戻ろっか。まだまだ祭りは始まったばかりだから、楽しまないとね!」

アル「うん!」


アルN:僕たちは星瞬き人。星を輝かせる役目を背負った存在。たとえ、一方的なものだったとしても、その祈りや想いは星に届く。今夜もまた、たくさんの人の想いを込めた星々が夜空の上を瞬いている。


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