声劇フリー台本置き場
夜墨ネルカ
四人声劇「忘年会に燻る私は神様に出会う」
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登場人物
神様が見える主人公 サヨ
幼なじみA 女 アサミ
幼なじみB 男 マヒル
自分にしか見えない神様 ユウ (男女どちらでも)
所要時間 30分ほど
サヨN
私は神様にあったことがある。
ユウ:「ボクの名前はユウ。君の運命を変えに来た神様だよ」
中性的な声色で彼あるいは彼女は、唐突にそう言った。
サヨN
【12月30日。
サヨのアパートの一室。
幼なじみであるアサミとマヒルとプチ忘年会を開催中】
サヨ「えー、この度は私のプチ忘年会にお越しいただき誠にありがとうございます。みなさんが来てくれたことにより、こうして乾杯の
マヒル「待て待て待てぃ! 集まって開口一番がそれ!? 堅苦しすぎでしょ!」
アサミ「私たちの仲でしょ? もっとフランクな感じでいいんだよ」
サヨ「ご、ごめん。久々に集まるからしっかりした方がいいのかなって思って」
マヒル「ほんと、サヨって真面目だよな」
アサミ「うんうん。そういう所、昔から変わらないよね」
サヨ「あはは。まぁ、それが私だから。それじゃ、気持ちを切り替えて......、今年一年、本当にお疲れ様ー! また来年もよろしく!」
アサミ「うん!」
マヒル「いよっ! 大統領!」
サヨ「皆さん、グラスは用意したかな? それじゃ、乾杯!」
アサミ&マヒル:「カンパーイ!」
マヒル「ぷはーっ! うまいっ!」
アサミ「ふふ、そうだね」
サヨ「いやー、久々に飲む酒は格別だー!」
アサミ「久々なの? だったらもっと飲まないとね」
サヨ「うんうん。今日はそのつもり。冷蔵庫の中に沢山おつまみも用意してあるよ」
マヒル「おっ、いいねー。冷奴とかある?」
サヨ「もちろん!」
アサミ「さっすが、サヨちゃん!」
サヨ「ふふん、私は出来る女だからね。それより、ほら、グラタンみんなで分けて食べよ〜」
マヒル「え? 冷ややっこは?」
アサミ「あはは」
サヨ「来年もこんな感じで集まれたらいいな」
マヒル「ん? 何か言ったか?」
サヨ「ううん、なんでもないよ。それよりほら、沢山作ったんだから食べて食べて」
マヒル「冷ややっこ……」
サヨN
私は苦笑いを浮かべながら、テキパキとテーブルの上にあるグラタンを取り分けていった。
二人に伝えたいことがあるのに、これを言ったらからかわれないだろうかという不安が押し寄せ、言えずにいた。
私は二人にその話を切り出せないまま、ただただ時間だけが過ぎ去っていった。
***
サヨ「ん、あれ? いつの間にか寝ちゃってた?」
サヨN
目を覚まして眠たいまなこを擦りながら周囲を見回す。
机の上には突っ伏して寝るマヒル、
???「やぁやぁ、おはよう」
サヨ「え?」
サヨN
私は
目の前にいたその人は人並み以上の
雪のように白い柔らかな髪に、シルクのように白い
ユウ「ボクの名前はユウ。君の運命を変えに来た神様だよ」
中性的な声色で彼あるいは彼女は、唐突にそう言った。
サヨ「い、一体なんの冗談? どこから入ってきたの?」
ユウ「どこからって、そうだなぁ。
サヨ「馬鹿言わないで」
ユウ「そんなことよりさ。君、何か悩んでることがあるんだろう? ボクは相手の心を読める力と、少し先の未来が見える力を持っているんだ」
サヨ「それが、どうしたの?」
ユウ「このまま行くと、君は絶望した気分のままお正月を迎えてしまうんだ。そして、そのまま首を吊って......」
サヨ「うそ。そんなことあるわけない」
ユウ「神様の話は真剣に聞いた方がいいよ。でないと、バチが当たるかも?」
サヨ「か、神様なのに人間を脅すの......?」
ユウ「あはは。神様だからね。とまぁ、前置きはこれくらいにして。しばらく君に取り憑いているからよろしくね?」
サヨ「えっ? ちょっと!」
サヨN
神様は慌てる私を無視してふわりと宙に浮かび上がり、私の傍に舞い降りた。
彼が指を鳴らすと、同時に固着した時間が再び動き出したかのように、アサミが目を覚ます。
アサミ「あれ......、寝ちゃってた?」
マヒル「んー、むにゃむにゃ、かーちゃん、そんな食えねぇよぉ〜」
サヨ「マヒルはまだ夢の中っぽいねぇ」
アサミ「だねぇ。あ、そうだサヨちゃん!」
サヨ「ん? どうしたの?」
アサミ「明日さ、三人で山に行かない?」
サヨ「へ? 山?」
アサミ「そうそう! せっかく三人こうして集まったんだから、近くの山登って初日の出、見に行こうよ。確か近くに神社もあったはずだからそこで
ユウ「お、いいね。行ってみてもいいんじゃないかな。彼女は純粋な気持ちで君を誘ってるみたいだし」
サヨ「早速私の幼なじみの心を覗くのやめてよ神様」
ユウ「神様よりユウって呼んで欲しいな」
サヨ「友達感覚の神様ってどうなの?」
アサミ「えーっと、サヨ、ちゃん?」
サヨ「ん?」
アサミ「誰と話してるの?」
サヨN
アサミの言葉に私は固まり、私は隣にいるユウを睨みつけた。
ユウ「あ、そうそう。ボクの存在は君しか見えないし聴こえないよ。言うの忘れてた。ごめんごめん」
サヨ「〜〜〜〜!」
アサミ「そこに誰かいるの?」
サヨ「ええっとね、自称神様の変な人がいる」
アサミ「神様!?」
マヒル「ん〜、誰か俺の事呼んだー?」
サヨ「呼んでない。マヒル、おはよう」
マヒル「んー、おはよう〜。んで、神様って一体何の話?」
サヨ「あー、えっとね。今、私の隣に神様がいてね」
マヒル「なるほど、把握」
ユウ「お? 意外とバカっぽそうに見えて霊感ある感じなのかな」
マヒル「サヨも寝ぼけてるんだなってことがわかった」
ユウ「あ、ただのバカだった」
サヨ「信じられないかもしれないけど、本当なんだってばぁ!」
ユウ「そうだそうだ。ボクはここにいるんだぞ」
サヨ「ユウは静かにして」
ユウ「はぁい」
マヒル「わぁったよ、信じるよ。んで、その神様とやらはなんつってるんだ?」
サヨ「ええっとね、アサミの提案にいいんじゃないかって肯定してくれてた」
マヒル「提案?」
アサミ「うん。三人で初日の出見に行こーって話してたんだ」
マヒル「へぇ、いいじゃんいいじゃん! 初日の出つったら明日の早朝に山登ることになるけど、何時にする?」
アサミ「それこそ、神様に聞いてみるのがいいんじゃないかな。いい時間教えてくれそう」
サヨ「ふむ、ユウ。どの時間に山の
ユウ「そうだね、だいたい3時頃がいいんじゃないかな。そこから先は霊気が安定してくから」
サヨ「3時頃がいいんだって」
アサミ「ふむふむ。じゃあ、その時間で!」
マヒル「了解!」
***
サヨN
現在、午前三時。私たち三人――いやユウも入れると四人か――は初日の出を見に、山を登っていた。
マヒル「ふあぁ、ねみぃ」
アサミ「ね、私もまだ寝たりないよ」
マヒル「うんうん。俺も俺も。サヨは?」
サヨ「私も同じだよ、すごくねむい……」
マヒル「だよなあ」
サヨ「けど寒いからそのおかげで、少し目が覚めてきたかも」
アサミ「だね」
サヨN
寝たりない身体に
まだまだ辺りは暗い夜が広がり、懐中電灯を照らしながら歩んでいく。
マヒル「なあ、そこの草むらでちょっと寝っ転がってもいいか?」
アサミ「いいけど、置いてけぼりにするよ」
マヒル「
アサミ「それとも引きずって連れて行こうか?」
マヒル「優しくお願いします」
アサミ「あはは、でも確かに疲れたね」
サヨ「もう少し歩いた先にベンチのある広場があるからそこで休憩しようか」
マヒル「りょうかーい」
サヨN
そうして少し先にある広場にたどり着いた私たちは、各々ベンチに座り込み一息ついた。
朝の肌寒い空気に、吐く息が白く色づく。
アサミ「初日の出、楽しみだね!」
マヒル「だな。俺ちゃっかり一眼レフも持ってきちゃったんだよね」
サヨ「わあ、すごい! これ高かったんじゃないの?」
マヒル「だって綺麗に撮りたいじゃん! 今年の思い出の一つにしたいし」
アサミ「なるほど、いいね」
マヒル「二人は初詣に何を願うんだ? 俺は、今年こそ! いろんな意味ででっかくなれますように! かな」
アサミ「ふふっ、マヒルらしいや。私はそうだなー、私の周りの人たちが今年も健康でいられますように、かな。サヨちゃんは?」
サヨ「私は……」
サヨN
私はこのタイミングで、二人に話したいことをいうか否か、迷っていた。
私が願うことそれは、アサミとマヒルがずっと私のそばにいてくれること。
私のそばで芸能活動を応援してくれること。
実を言うと私は、とある芸能オーディションに合格していて、来年からその事務所で本格的に活動することになっているのだ。
ユウ「それくらいだったら言ってもいいんじゃないか? 何を言いよどんでいるんだい?」
サヨN
私はユウの言葉に何も言えずにいた。
空を見上げると、私の心と同じような灰色のどんよりとした雲が広がっていた。
少しの間だけ、天気が荒れそうだな。なんとなく、そう感じた。
サヨ「私は、まだ決めてないや!」
アサミ「そかそか。まあついたらゆっくり考えればいいよ」
マヒル「よーっし、休憩終わり。いこいこ。なんか曇ってきたし、早めに向かった方がいいよね」
サヨ「そうだね、急ごうか」
***
サヨN
ほどなくして山の
たどり着いたと同時に、うっぷんが溜まっているかのような灰色の空をユウが見上げる。
ユウ「あと少しで天気が崩れるね。急いで」
サヨ「もうすぐで雨降るって! ユウが」
アサミ「わかった。って、わあ、ほんとに降り始めてきた!」
マヒル「そこの休憩所まで走れー!」
サヨN
私たちは大急ぎで休憩所に駆け込み、戸を閉める。ぴしゃんといい音が鳴ったと同時にバケツをひっくり返したかのような大粒の雨が降り出した。
マヒル「あっぶな! 間一髪だったな。二人とも大丈夫か?」
アサミ「うん。私は平気。サヨちゃんは?」
サヨ「私も平気だ……、くしゅんっ!」
アサミ「あーもー、冷えてるじゃん身体。ほら、タオルタオル。ファンヒーターもつけとかないとね」
サヨN
アサミはそういって近くにあったタオルを渡し、甲斐甲斐しく周囲の環境を整え始めた。
サヨ「ありがとうー」
マヒル「自販機であったかい缶コーヒー買ってくるね。そこで待ってて」
サヨ「そこまでしてくれなくていいのに」
マヒル「俺がしたいからそうしてるだけ。っていうか忘年会の時、いっぱい料理ふるまってくれたじゃん。そのお返しみたいなもんだよ。気にしないでゆっくりやすんで」
サヨN
マヒルもまたそう言うと近くの自動販売機へ向かう。そんな二人を見てユウが柔らかく笑う。
ユウ「ふふ、大切にされてるじゃないか」
サヨ「うん。本当にありがたいなって思ってるよ」
ユウ「あの二人になら、話せるんじゃないか? 君の夢について」
サヨN
ユウの言葉に私は固まる。構わずユウは私のそばに近づき話を続ける。
ユウ「オーディションに受かって嬉しい反面、今までのような立ち位置で交流ができなくなってしまうのではという不安があるってことだよね」
サヨ「……」
サヨN
ユウの声が頭の中でこだまする。
ユウ「信頼してる相手だからこそ、話を切り出すのが怖いのはわかる。不安になる気持ちもくみ取れる。でもね、口に出して言わないと分からないよ。二人は僕みたいに君の気持ちを読み取れるわけじゃないんだ」
サヨ「でも、私、すごく不安なんだ……」
サヨN
うじうじとなかなか話を切り出せないでいる私にしびれを切らしたのか、ユウはそっと手を伸ばす。
ユウ「よかったら、君のその
サヨN
ユウはふわりと浮かび上がり、私の後ろに移動した。左手を私の肩に置きつつ、右手で私の目もとを隠す。
同時に、ぱきんというガラスが割れるような音がしたのを最後にすべての音が消えた。
動揺する私をよそに、ユウは口を開く。
ユウ「今、一時的に君を僕の神域に入れさせてもらった。この空間には僕と君しかいない。思う存分泣いていいし、愚痴を吐いてもいい。さあ、君のすべてをここにさらけ出して」
サヨ「ユウ……」
サヨN
私はユウの夕焼けのようなあたたかな感情に触れて、こらえきれず泣き出した。
サヨ「私、私ね。親友だと思っていた子たちに裏切られたことがあるんだ」
ユウ「うん……」
サヨ「その日は大事な劇の発表会でね。その時期の私は、青春をすべてそこに捧げていたの。その頃、好きな男の子がいて、その子と親友には発表会のことを話していたんだ」
ユウ「けれど、当日、二人は君の晴れ舞台には来なかった。それどころか、二人はその裏で付き合い始めていた、と」
サヨ「なんでわかるの」
ユウ「最初に言ったでしょ? 僕は心を見通す力と少し先の未来を見る力があるんだって。だから、君がこれから言わんとしていることも分かるってわけだ」
サヨ「そういえば、そうだったね」
ユウ「君はその事実を知ったとき、目の前が真っ暗になった。積み上げてきたものががらがらと崩れ落ちた気がした。その一件があってからというもの、君は大事な人に大切なお知らせをするときは慎重に事を運ぶようになった、そういうことだね」
サヨ「うん。だから、怖いんだ。不安で不安で仕方がないんだよ。マヒルとアサミには大事な時にそばにいてほしいと思っちゃう。自分の出演するライブに全部来てほしい。握手会もサイン会もすべてに。けれど、そんな貪欲な自分が、嫌で嫌で仕方がないんだよ!」
ユウ「……なるほど。君にそういう過去があって、なかなか話を切り出せないことはよくわかった。君の気持ちも不安もなにもかも。けれど、あの二人なら大丈夫」
サヨ「ほんとうに?」
ユウ「ああ、本当さ。その証拠に。ほら、見てごらんよ」
サヨN
ユウはスッと私の目もとから手をのけた。すると、視界が明るくなり、音が徐々に聞こえ始める。いつの間にか外の雨は小雨になっていた。
視界の先には狭い休憩所内で、ばたばたとした足音とがさがさとした音が響き渡る。アサミとマヒルが私を探しているのだ。
アサミ「サヨちゃーん! どこにいったのー?」
マヒル「遅くなってごめーん! 色んな種類の缶コーヒーあるから迷っちゃってさー!」
アサミ「どこにいるのー? いるなら返事してー!」
マヒル「扉が開く音はしなかったから、外には出てないはずなんだけど……。おーい、サヨー。何処いったー? 隠れてないで、でておいでー!」
サヨN
二人は休憩所内のありとあらゆる場所を探してくれていた。大きめのごみ箱の中や、ロッカー内やスタッフのみ入室可能な扉の向こう側など、人が入れそうな場所をくまなく探してくれていた。
ユウ「こうやって二人が心配してくれているじゃないか? そんな二人の気持ちにこたえてあげたくはないのかい?」
サヨ「……」
サヨN
私は拳を握り締め決心する。私は二人が好きだ。
彼らと過ごす時間がとても好きだ。これからも大切にしていきたいし、大切にされたい。
その為にも、私はこんなところで立ち止まってちゃいけない。
ユウ「ようやく決心したようだね。さあ、いってらっしゃい」
サヨN
ユウは私の肩から手を離した。すると、ふっと身体が重くなり、がたんと近くにあった椅子にぶつかる。その音にアサミとマヒルが気づいてこちらに駆け寄った。
マヒル「サヨ!」
アサミ「サヨちゃん! どこに行ってたの! ほんとに心配したんだからね!」
サヨ「ご、ごめん。その話はおいおいするから、今は二人に聞いてほしい話があるんだ」
マヒル「聞いてほしい話?」
サヨ「うん。笑わないで聞いてほしいんだけど」
サヨN
私は意を決して口火を切った。
私の想い、言い出せなかった理由、すべてすべての想いを二人にぶつけた。
そして、私の話を聞いた二人はしばらくシンと静まり返った。
しばらくして、マヒルがむすっとした顔でこういった。
マヒル「俺さ、そんな辛辣な男だと思われてたの? 悲しいんだけど」
サヨ「へ?」
マヒル「俺は俺なりにサヨのこと見てきたし、支えてきたつもりだし、今後もそうしていこうと思っているよ。けど、サヨはそんな俺のことを信じてくれなかったってことだよね」
アサミ「こらっ、マヒルくん。言いすぎだよ。サヨちゃんにも話し出せないつらい過去があったんだよ?」
マヒル「うん。でもさ、もしサヨのことが嫌いだったら忘年会に付き合ってないし、サヨのそばに神様がいるってことも信じてないし、こうして話も聞いてないよ」
アサミ「それは、まあ、確かにそうかもだけどさ……」
マヒル「ずっとそばにいられる保証はどこにもないから、約束まではできない。けれど、たとえサヨが遠い場所にいったって、俺はずっと心の底から応援してる。任せてほしい。アサミだってそうだろ?」
アサミ「そんなの、当たり前じゃん! 私、サヨちゃんのことずっとずっと応援してるよ!」
マヒル「だよな。過去になにがあろうと、俺たちはずっとサヨの味方だ。俺たちのこと、もっと信じて頼ってほしい」
サヨ「うん……。わかった。ありがとう、二人とも」
サヨN
私が深呼吸をすると、マヒルはふぅっと息を吐き、ぽんぽんと頭を撫でた。
マヒル「ほらほら。いつまでもうじうじしてんじゃねーぞ? これで元気出せって」
サヨ「うん、ありがとうマヒル」
アサミ「私もサヨちゃんぎゅってする!」
サヨ「アサミもありがと」
サヨN
なんてあたたかい二人なんだろう。ほっこりとした気分になっていると、ちらりと窓の外から小さな光が差し込まれた。
アサミ「あ、ねえねえ見て! 綺麗な初日の出!!」
マヒル「え? あ、ほんとだ!! めっちゃ綺麗!!!!」
サヨN
いつの間にか外の雨は止んでいて、綺麗な朝焼けが遠くから顔を出し始めていた。
それはまるで、これからの私たちを歓迎してくれているかのようだった。
マヒル「外出てカメラ設置しないと」
ユウ「そんな焦らずとも残り数時間はあのままだから大丈夫だよ」
サヨ「ユウいわく、しばらく雨とかは降らないみたいだよ」
マヒル「そういうんじゃないの! 今の景色を記録したいんだ俺は! ちょっと行ってくる!」
サヨN
マヒルはウキウキした様子で素早くカメラの入ったカバンを掴んで休憩所を出ていった。相変わらずの行動力に尊敬を覚えつつ、私はアサミ、そして私に取り憑いているユウと一緒にゆっくりと休憩所を後にする。
改めて、夜明けの
アサミ「やっぱり、いいところだよねここ」
サヨ「そうだねえ」
サヨN
石造りの鳥居を潜り抜けた右側には手を清める場所、左側には絵馬がまばらにぶら下がっている
マヒル「よし設置おっけー!」
アサミ「写真は後で撮ろっか。人がたくさん来る前に参拝しといた方がいいだろうし」
サヨ「そうだね」
サヨN
私たちは賽銭箱の前に並んで、手を合わせる。
私たちの願いはそれぞれ違うことだろう。思い思いの願いを頭の中で思い描いて神様に祈る。
ユウは賽銭箱の上に座ってこちらを見下ろしている。
ユウ「いいね。君たち三人の純粋な願いが、僕の心に流れてきている。僕はね、こういう人間の純粋な心が大好きなんだ。だから、こうして神様をやっているところもあるのかもしれないな」
サヨN
ユウはそういってフッと笑ったかと思うと、賽銭箱から降りて微笑む。
ユウ「それじゃあ、この辺で失礼するよ。僕の役目はもう終わったことだしね」
サヨ「ユウ、待って!」
ユウ「ん? なんだい?」
サヨ「最後にさ、一緒に写真撮らないかなと思って」
ユウ「えっ!?」
サヨ「ユウは映らないかもしれないけれど、霊感ある人が見たらもしかしたらユウの姿も見えるかもしれないしさ」
ユウ「……いいのかい?」
サヨ「もちろんだよ。さっきのお礼もかねて。お願い」
ユウ「わかった。君がそういうのなら」
サヨ「ありがとう!」
アサミ「なになに? 神様も撮ってくれるの? なんか縁起よさそうだね」
マヒル「だな、願い事も叶いそう!!」
サヨ「ふふ、だね!」
サヨN
私はアサミとマヒル、そしてユウを引き連れて、初日の出を背景にカメラの前に立つ。
マヒル「それじゃ、撮るよー!」
サヨN
マヒルがカメラのタイマーをセットして戻ってくる途中、ぬかるみに足をとられて転んだ。
マヒル「うわああっ!!」
サヨ「んふふ、あははっ! 元旦からついてないねえ」
アサミ「ほんとほんと!」
マヒル「くっそ、こういう時こそ神様が助けてくれるんじゃねえの!?」
ユウ「なんでも神様だよりにされちゃ困るなあ」
サヨ「ふふ、だねえ」
マヒル「ちくしょー!!」
ユウN
写真を撮ったのち、彼女たちは各々絵馬を買ってそれぞれの願いを記入したそれを掛けどころにひっかけた。
カランと小気味の良い音が響く。
各々の願いを、想いを、神様に祈願する日。それが元旦だ。
それぞれの思いや形は違うかもしれないけれど、彼女たちなら大丈夫。これからもずっと。
心の底から応援してくれる存在がいるだけで、人間は再び歩み出すことができる。
そうしてまた人間たちは、明日へ、未来へ、踏み出していくのだ。
声劇フリー台本置き場 夜墨ネルカ @neruka_yosumi
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