あたたかい部屋

@pyriteyellow

第1話 あたたかい部屋


「出来るだけ安く借りられる部屋はありませんか」


僕はとにかく金に困っていた。大学を卒業したはいいものの、就職に失敗しバイトをしながら生活をしている。

僕には、所謂趣味というものがない。1日中ゲームをしたり、毎晩お酒を飲んだり、わざわざ車を何時間も走らせて美味しい物を食べに行ったり、そういった「何かをやりたい。」という感情が人よりも薄いのではないかと思う。

だから、僕はあまりお金を使わない。必要最低限の生活用品と倒れない程度に栄養を摂取できる食品を買うだけだ。

しかし、いかんせんやる気が無いので、バイトは続かず転々としたり、多くても週3日のバイトで稼いだりするお金だけでは生活するのは厳しい。

学生時代の雀の涙ほどの貯金が尽きた頃、僕は引っ越しを決意した。もっと早く決断すれば良かったのだが、やはりやる気がないので貯金が尽きる今日まで伸びてしまった。

いつものように布団から起き上がり、コップ一杯の水を飲み、食パンに少しのマーガリンと砂糖をかけた物を食べる。もうこの味には慣れた、というかもはや味すら感じない。普通の人がガソリンを給油するような感覚で、毎日変わらない栄養補給を済ませる。

ハンガーにかかっている服を適当に取り、1着しかないコートを羽織って外に出る。1月だが例年より雪は少なく、視覚的にはそこまで寒くないように感じる。

学生時代にとにかく安いと噂を聞いたことがある不動産屋を目指す。不動産屋があるのは二駅先だが、電車賃も惜しいので1時間弱かけて歩いて向かった。

その不動産屋は、予想通りというに相応しすぎるくらいに廃れていた。明らかに数十年分の雨を吸い込んでいそうな看板には、「どんなお部屋もご用意いたします」と書いてある。汚れきった看板も相まって、周辺に怪しい雰囲気を漂わせている。

僕は、カラカラと硝子戸を開けて中へ入った。短いカウンターのようなテーブルに客用の椅子が2つと、壁には天井まで伸びる棚がそびえたっている。店の狭さもあって中々の閉塞感があるが、僕は変にガラス張りの小洒落た店よりもこういうお店の方が落ち着く。

「出来るだけ安く借りられる部屋はありませんか」

僕がそう言うと、店主は短髪の白髪をボリボリ掻きながらいくつかの棚を開け、テーブルの上に紙を並べていった。

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