第30話 解決編
月の出ない夜。新月の晩。
きっとそれは人を殺すには良い夜。闇夜に身を隠す狼にとって、絶好の狩り場となる夜なのだろう。
「…………」
夜のスラム街を一人の男が歩いている。
鎧と兜に身を包み、腰には立派な
手に持ったカンテラの明かりによって映し出された姿……それは町を守る憲兵の姿である。
どうやら、その男はパトロール中の憲兵のようだ。
連日の殺人事件を受けて、新たな被害者が出ないようにスラム街を見回っているのだろう……少なくとも、そんなふうに見える。
「品定めか。ここに娼婦はいないぞ」
「!」
そんな憲兵の男に声が投げかけられる。
弾かれたように振り返ると、そこには黒衣の少年……銭形一鉄が立っていた。
「王都憲兵隊第二中隊隊長……リュオーン・ベースだな」
「お前は……あの時の?」
一鉄に話しかけられて、憲兵が警戒した様子で剣の柄を握りしめる。
その憲兵はかつて、トミー少年の殺害現場で顔を合わせた年配の憲兵だった。
「トミー少年を殺したのは無駄だったな。いや、いっそ逆効果だったと言えるだろう。彼が拾っていたネームタグを回収することもできず、疑念だけを残してしまったんだから。やらない方がずっとマシだった」
言いながら、一鉄が憲兵の足元に何かを放る。
チャリンと金属音を鳴らしながら地面を転がったのは、トミー少年の部屋で発見した金属のプレートだった。
「これは……!」
「それ、憲兵隊のネームタグだろう? それを拾ったから、トミー少年は殺されることになったんだ」
「…………」
憲兵が……ネームタグに記されている人物、『リュオーン』が警戒を深めて、一鉄のことを睨みつける。
ここから先のことは一鉄の推理。ただの憶測である。
憲兵隊の隊長……リュオーンなる人物こそが異世界のジャック・ザ・リッパー『ナイトストーカー』の正体だった。
彼は夜な夜なスラムに繰り出して、娼婦を殺害していた。
『現場の周辺で怪しい人間は目撃されなかった』とのことだが、憲兵は怪しい人間には該当しない。
現場近くで目撃されていたとしても、『スラム街をパトロールしていた』と言い訳をすれば済まされる。
(スラムの人間は憲兵に近づこうとしない。姿を見かけたら、離れていく……だから目撃者もいない。証拠を残していなかったのも、憲兵隊の隊長という立場を利用して隠蔽したんだろうな)
憲兵隊がパトロールを始めてからも犯行が続いていたことにも説明がつく。
彼の立場ならば、他の隊員が見回りをするルートを把握、指示することだって可能だろう。
他の憲兵がいない時間と場所を狙って犯行を繰り返していたのである。
「今日は非番なんだよな? だから、一人で行動している。他の憲兵と顔を合わせちまったら、『事件が起きて居ても立っても居られずに見回りをしていた』とでも言えば良い。上手いやり方だよ」
しかし、彼は決定的な証拠を残してしまった。
犯行の際に憲兵隊のネームタグを落としてしまったのだ。
被害者の血液が付着したそれをリュオーンは必死に探したが、見つからなかった。
しかし……後日、一人の少年がそれを見つけて持っていくのを目にしてしまう。それがトミー少年立ったのである。
「……何の話をしている? 私は知らない」
「ああ、そうかい。だけど……いつまでも逃れられると思うなよ。こんな杜撰な殺人がいつまでも続きはしない。俺みたいなさして頭の良くないガキでもわかったんだ。仮にここを逃れたとしても、いずれは確実に捕まるだろう」
言いながら、一歩一歩近づいていく。
一鉄は武器を持っていない。どう見ても丸腰である。
うっすらと笑みを浮かべて、無警戒な様子でリュオーンの方に歩いていく。
「ッ……!」
そして……とうとう、間合いの内側に足を踏み入れた。
その瞬間、リュオーンが動く。握りしめていた剣を抜き放ち、一鉄めがけて斬りかかる。
「これで黒だ。わかりやすくて助かるよ」
「ガハッ……!?」
しかし……その瞬間、一鉄も動いていた。
丸腰のように見えた手の中から赤銅色の閃光が放たれ、リュオーンの顔面を痛撃したのである。
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