ep.1 骨を拾う

 東京で社会人になって二年が経つが、秋山あきやま逸人はやとは毎週末、紫邑しむらがくのアパートを訪れることを欠かせないでいた。

 紫邑のマンションは学生時代から変わることなく八王子にある。

 秋山は社会人になると同時に引っ越して荻窪に住むようになったが、週末は中央線で八王子まで下る。


 紫邑は大学時代からの友人である。

 大学三年の秋から引きこもってしまい、休学したまま今に至る。

 月に一度は、宵田メンタルクリニックに引き摺っていくのも秋山である。


「お前もう社会人だろ?

 忙しいんだし、放っといてくれたらいいのに」


 玄関先でそんなことを言う紫邑の面倒を秋山が見る義務はない。

 両親がいない紫邑には、誰かが側にいてやる必要があると思っているし、紫邑がこうなった理由を知っているのは秋山だけだから来ている。


「いい加減、死なせてほしい」


 痩せて骨と皮になってしまった、紫邑は言う。


「気持ちは分からなくもないけど、オレが悲しくなるから生きててくれよ」


 と秋山は答える。


「死にたい」


 万年床に座った紫邑は、秋山に背を向け肩を震わせ嗚咽する。

 秋山は黙って一週間で散らかった部屋の片付けをした。






 紫邑には蓮見はすみ菜月なつきという恋人がいた。

 大学三年生になった春、蓮見が妊娠したらしい、というのは紫邑から聞いた。

 嬉しそうに顔を綻ばせて


「近々入籍すると思うから、祝ってよ」


 と言った。


「よかったな!もちろんだよ」


 と笑顔で答えながら、秋山は落胆した。

 というのも、秋山も蓮見のことが好きだったからだ。

「蓮見は紫邑のものになるんだな」と思った。

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