第2話
「真理、誕生日どっか行きたい所ある?」
デートの帰りだった。
佑都がそんなことを聞いてくるのは珍しい。俺様気質とまではいかないが、どちらかといえば「俺に着いてこい」タイプの男だからだ。
デートコースも大抵佑都が決める。真理自身それを不満に思ったことはなかったし、真理が優柔不断という訳でもない。佑都に任せておけば間違いないと思っていたし、そうすることで、佑都の気持ちが満たされることも真理はわかっていた。
毎年誕生日は、佑都が予約する素敵なレストランで食事をする。そして、佑都のサプライズ演出に毎回驚かされた。
だが、今の真理にはそれを素直に喜べる程の心の余裕はなかった。いっそのこと酒でも飲んで、腹を割って話したい気分だった。それほどに、切羽詰まっていた。
「たまには電車で出掛けようよ。佑君も飲みたいでしょ?」
「いや、俺は別に構わねえよ。お前の誕生日なんだからそんなこと気にすんな」
人混みが嫌いで電車があまり好きではない佑都とのデートは、いつも車移動だった。毎回自宅まで迎えに来てくれ、送り届けてくれる。真理からすれば有難いことだったが、当然運転がある佑都とは食事に行っても一緒に飲むことが出来ない。
「一緒に映画観た後、いつもみたいなワインが似合うお洒落な店じゃなくて、個室のある居酒屋で、佑君とビールで乾杯したい」
その提案が意外だったのか、佑都は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに頷き「お前がそうしたいんなら」と口元を緩めた。
車を停め「次はいつ?」と佑都が尋ねた。
「来週の土日は友達と約束があるから……誕生日まで会えないかな」
「そうか……」
真理と同時に佑都もシートベルトを外した。
佑都の顔が近付き唇が触れる。一旦離して見つめ合い、もう一度唇を重ねた。今日はいつもより佑都の熱が伝わる。首筋に絡みつく腕が、離したくないと言っているようだ。
車から降りた真理が「またね」と手を振りエントランスに入ると、佑都は車を発進させた。
本当は友達との約束なんてなかった。それは、適度な距離感を保つために真理が定期的につく嘘だった。
こんなふうになったのはいつからだろう。
佑都への気持ちが大きくなるにつれて、真理の不安は募っていった。もう何年も前からだ。
誕生日に懸けようと思っていた。
今年の誕生日はちょうど土曜日に当たるため、互いに仕事も休みで翌日のことを気にせずに過ごすことが出来る。真理は綿密な計画を立ててデートに臨むつもりでいた。最終はアルコールの力を借りて、それでももし佑都から結婚の言葉が出なければ、別れ話を切り出す覚悟でいた。
真理は祈るような気持ちでその日を待った。
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