第22話

「お母さん、いつ来たの?」



「お昼過ぎだったかしら。ねえ、仲本さん」



 そうですねぇ、とデブが答えた。


 デブは仲本という名前だったか。



「お父さんと何かあったの? ていうか、今日はうちに泊まるの?」



「そのつもりだったけれど、どう」



 気にしないで、と母の言葉を遮った。



「この人、お世話になっている同僚の友達で預かっているだけだから。


 恋人でもないし、友達でもない。ただの知り合い」



「理紗がただの知り合いを家にいさせる訳がないじゃない」



 だからよぉ、とあやうく言いそうになったが飲み込む。



「仲本さんは、沖縄のことをいろいろ教えてくれたのよ。


 食べ物のことや、たくさんある沖縄独自の行事のこととか」



 口調は柔らかいが、母の目は笑っていない。



「お母さん、泊まっていって。


 デ、えっと仲本さんの実家は近いから帰ってもらう」



「失礼でしょ。今日は私がホテルに泊まります。


 リゾートホテルでゆっくりします」



 昔から母は、表情と話している内容が一致しないときがあった。


 母の友人の家で、私や姉が悪ふざけをしたら、その場ではにこにこして優しく注意するが、退出するやいなや、鬼のような形相で怒られたことが何度もあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る