第19話

「あんたってデブらしくないデブだよね、って言われない?」



 首を振るデブ。


 口に食べ物が入っているときは絶対に口を開けない。



「いつからデブなの? なんでデブなの?」



 口を閉じたまま微笑むデブ。


 私は席を立った。


 冷蔵庫へビールを取りに行く。


 幸せそうなデブの顔を真正面から見ていられない。


 食器棚から未使用のグラスを出し、ビールを注いでカウンター越しにデブを観察する。


 デブは、どうすればここからいなくなるのだろう。


 デブがうちに来てから今日で3日目。


 3日間、デブはうちにいる。


 私がいないときに自分の家に帰り必要な物を取りに行き、夕飯の買い物をし、うちに帰ってくる。


 朝や昼は何を食べているのか。


 デブは朝から牛丼説を聞いたことがある。


 私は頼んだことはないが、やはりつゆだくで? 


 デブ、か……。



 私が一番太っていたのは大学の時だった。


 成人式の写真は顔がまん丸で着物が似合っていなくてアルバムを開く気にもならない。


 それからダイエットしたわけではないのに、自然と痩せ、体重はここ十年変わっていない。


 父、母、姉と背が高く、痩せ型ではないが太ってはいない。


 太る要素がなければ太らない。


 逆に、太る原因があるから太る。



「あんたも、もう一本、飲む?」

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