第17話

「お腹は空いているけれど、それより、そろそろ出て行ってくれない?」



 自分で話しながら、間違いが二つあることに気づいた。


 そろそろ、がいらないこと。


 出て行け、でいいこと。


 相手に頼む言い方になっているのはなぜなのか。



「鍋作ったからさぁ、一緒に食べよう。


 オリオンビールも冷やしたから飲もうかぁ?」



 デブはテレビを見たままだ。



「鍋って?」



 あぁ、こっちから質問してはいけなかったのに。



「さっき、できたばかりだよ。


 豚肉と島豆腐の豆乳鍋にしたんだぁ。


 豚肉は沖縄県産のにしたんだよ。


 そういうの、好きでしょ?」



「まぁ」と返事をする自分がむかつく。


 それより、なんで私がリビングの隅に突っ立っていて、デブが中央に座って寛いでいる? 


 デブがテーブルに両手をついた。


 よっこらしょ、と尻を床から持ち上げ、スローモーションのように立ち上がり、キッチンへ入っていく。


 この、まるで自分の家にいるかのような、おばちゃん的な動きはなんだ。



「手ぇ洗って着替えてきなぁ。用意しとくさぁ」



 おばあだ、完全に。


 確かにデブは性別を超えるものがある、と考えながら、リビングを出て洗面台へむかった。


 おかしい。


 おかしいけれど、どうすれば解決できるのかわからない。

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