問:陰キャラが行き付けの距離感バグっている元気な看板娘へ社交辞令で毎回愛していると告っていたらどうなる?答:全校生徒の前で凄いキスしてきた
神達万丞(かんだちばんしょう)
第1話「陰キャラぼっちと接客上手な看板娘」
五月十日
俺は一杯の珈琲を楽しみながら飲んでいた。相変わらず美味い。
雑賀武流(さいがたける)。高校男子ながら珈琲と喫茶店をこよなく愛す孤高の珈琲ジャンキーだ。
ラノベを読み、珈琲を啜るのがマイスタイル。無論ブラック派。
最近お気に入りの喫茶店自慢、『タヌキブレンド』尾を引くマスター渾身の珈琲。なのでブレンドのおかわりを注文する。
個人喫茶店の良し悪しはブレンドで分かる。店主のこだわりが強い程研究熱心で飲みやすい一杯に仕上るのだ。
しかしここの場合、マスターというより居酒屋の大将だろうな。それもそのはず。居酒屋カフェ『招きタヌキ』。この店は喫茶店兼居酒屋なのだ。喫茶店は半分趣味らしい。
「はい! タヌキブレンドおまたせしました!」
「ども」
太陽のような眩しい笑顔、ハキハキと耳に残る通った声、陰キャラぼっちの俺ではキャパオーバーで灰になりそうだ。
ここの看板娘で、大きめな胸にあるネームプレートに阿知賀千歳(あちがちとせ)と書かれていた。
大人びているので大学生ぐらいだろうか。綺麗なお姉さんだ。
「雨止まないですよねぇ」
「まあね、でも読書は捗るから割と好きかも」
「うち、居酒屋もやっているから夜になると賑やかですけどね〜」
とりとめのない会話。でもそれがいい。気楽だ。
★
六月二十二日
今日は日曜だからバイクで遠出して、田舎の隠れ喫茶店を発掘。趣味が喫茶店めぐりなので気に入ったお店はブログに載せて紹介。
なのだけど、タヌキだけは例外。近場なので身バレしたくないのとあんまり人が来てほしくないのが正直な気持ち。
ここのアイドルが大変になるから。
「いつものタヌキブレンドでーす! おまたせしましたぁ!」
「ども」
ほぼ毎日の日課、タヌキブレンドを香りから楽しむ。
洋風の綺麗な店内、居酒屋なのに喫茶店としても居心地いいので何時間でもいられる。ただ夜は酔っ払いが増えるので騒がしい。孤高を愛する俺には難易度が上がるけど居座る価値がある。それは何かと答えると——
「今日は来るの遅かったですね」
「ツーリングですよ」
「へえ、バイク乗りなんですね。いいなぁ」
「趣味の田舎喫茶店捜索がてら各地の風景を満喫してますよ」
「行くのは自由だけど乗り換えないでくださいよね♪」
無論女の子と正攻法で話せること。たとえ普通のやり取り、ただのリップサービスだろうと、学校で全く女子と話したことがないから堪能しない手はない。
特に阿知賀さんは話しやすいのだ。流石は接客のプロ、お客さんの心を掴むことに長けている。大将の娘さんだから幼少からお店を手伝っていたとか。
★
六月三十日
「おまたせしましたぁ!」
「どもです」
「いつも何読んでいるんですか?」
「ラノベ。珈琲飲みながら溜まったストレスを発散しているんです」
「私も読んでますよ。ワールドエンドワールド」
ワルワルか……あれは国民的アニメみて私オタクと告げているようなもの。
『はははっ! またね、ちとせちゃん愛しているー!』
『山田さん私もだよ! また来てね!』
阿知賀さんがお客さんへオーバーアクション気味に両手を振る。
アットホームな居酒屋ではよくみかける風景らしいけど距離感近いなぁ。
これは酔っ払いのおっさんとか爺さんだから許される。もし俺だったらドン引きされて次から鼻で笑われるかもしれない。
なので俺は俺。我関せずを貫く。
「そうだ、雑賀さんも言ってみてよ。ストレス溜まっているんでしょ? 少しは気持ちが晴れやかになるかもよ!」
「陰キャラには難易度高いですよ」
「駄目かなぁ?」
「その、……あい……して……る? どう?」
「零点! 全然まったくときめきません! 次回に期待!」
「なんだと!」
阿知賀さんはにひひ! とイタズラっ子のように笑う。
やられた……どうやら一杯食わされたようだ。
★
七月十一日
梅雨明け宣言と共に衝撃的事実が夏休み前の教室で判明。
『ねえねえ、喫茶店の娘として千歳の感想は?』
『私もあそこのケーキ好きだよ!』
『だよねー』
遠巻きに観察しているとクラスカースト上位グループに見知った顔を発見。
明るめのショートカット、夏服が似合う抜群のスタイル、笑顔が似合う——阿知賀さんだ。
まじか、クラスメイトだったのか。外界シャットダウンして接点ないから全く気づかなかったよ。
幸い阿知賀さんの反応はない。俺、陰キャラだから忍者の如く静かだし、まー眼鏡かけているからバレないか。
ならば当面避けることにする。
もし俺がカースト最下位の陰キャラぼっちだと知られたら、今後の対応が変わってしまうかもしれない。そうなるとタヌキに居づらくなる。
——午後
「なんか今日はよそよそしいですね」
「そんなことないですよ」
流石プロ、なんとなく避けているのを察知できるとは……。
「ならなら、敬語使うのやめませんか? もっと話しやすくなりますよ」
「無理」
「うちのお店のモットーは自宅のようなアットホームな喫茶店なので、もっと気楽でいいんですよ〜」
「ならばお互いやめましょう。それならいいです」
「オッケー! 雑賀さんいや雑賀君でいいかな?」
「うん」
こうしてまた阿知賀さんとの距離が一歩近くなった。
でもテンション高めにからかって愛しているを強要するのは未だに慣れない。ぼっちには羞恥プレイ過ぎるわ。
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