こどくな趣味
平中なごん
一 ペットショップ
仕事帰り、私は途中下車すると馴染みのペットショップへと向かった。
裏路地でひっそりとやっている小さなところだが、爬虫類や両生類は珍しい種類のものも豊富に扱っている、なかなか品揃えの良い店である。
賑やかな駅前の大通りとは対照的に、街灯もほとんどない真っ暗な狭い路地を、いつものように独り黙々と進んでゆく……。
それでも怪しげなハーブ取り扱い店か、タトゥーを彫る店しか入っていなさそうな雑居ビルの入口を潜り、煤けたコンクリ吹きっぱなしの階段を登ってスモークガラスの扉を開ける。
「ああ、いらっしゃい。今夜辺り来ると思ってましたよ」
店に足を踏み入れると、私を見た若い店主が気さくに笑顔を浮かべて声をかけてくる。
彼もモヒカン頭にピアスをいっぱいくっ付けたイカつい
「やあ……では、例の新入荷のカエルを見せてもらおうか」
早くそのカエルが見たくて、挨拶もそこそこに私は彼に催促をする。
「ほんと好きっすねえ……まあ、釈迦に説法、言わずもがなですが、今度のはマジに猛毒なんで扱いには充分気をつけてくださいね」
若き店主はニヤニヤと笑みを浮かべ、そう言いながら手持ちのプラスチック製虫籠をカウンターの上に置いた。虫籠といっても本当の籠ではなく、全面透明になっている長方形の箱型のものだ。
「おお、なんともいい色をしているな……」
ネオンのように怪しげに輝く蒼白い蛍光灯の光の下、その中に閉じ籠められた黄色い小さなカエルに私は感嘆の声を漏らす。
それはキイロフキヤガエル。別名モウドクフキヤガエルとも呼ばれる、猛毒のフキヤガエルの中でも最も強い毒を持つ種類である。
といっても別に違法なものではない。我が国では普通にペットとして購入できるものだ。
この珍しいカエルが入荷されるという情報を店からの広告メールで知り、今夜はさっそくそれを買い求めに来たのである。
興味のない者には特異で気色の悪い行動に映るかも知れないが、こうした有毒生物を育てることは私の趣味の一環である。
他にもいくつかの有毒生物を家で飼っているのだが、故郷を離れ、都会で独り暮らしをしている私には迷惑をかけるような家族もいない。
それに恋人も友人もいないため、家に遊びに来るほどの関係性を持つ者も皆無であり、そうした危険生物を飼うことにもなんら障害はないのである。
まあ、孤独な男の風変わりな趣味と、笑いたい者は笑うがいい。別に他人に理解してもらわなくとも、私は私が満足できれば一向に構わないのである。
「……うん。元気そうで状態も良い。それではこれをいただいていこう」
鮮やかな黄色をしたそのカエルが一目で気に入り、一応、隅々まで観察して健康状態をチェックした後、私はすぐさまその購入を決めた。
「まいどありぃ」
ピアスだらけの顔に似合わず、にっこり微笑むパンクな店主に虫籠ごと梱包してもらうと、それを持って私は店を後にする。
そして、下車した駅から再び電車に乗り込むと、寄り道は一切せず、真っ直ぐ家へと暗い夜道を急いで帰った。
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