「骨人間」の成り上がり

富志悠季

1. 骨人間

 カルシムは鏡の中の自分をじっと見つめた。


 やせ細った体、浮き出たあばら骨、くぼんだ頬。

 淡い朝日が窓から差し込むと、骨ばった指の影が壁に映る。


「……骨人間、か」


 カルシムはずっとそう呼ばれ、笑われ続けてきた。

 痩せていて力もなく、教室ではいつも端の席に追いやられ、人の輪に入るのが怖くて俯いていた。


 けれど、今日は違う。今日は──スキル付与の儀式の日だ。


 この世界では15歳になる全ての人が、神官から「スキル」を授けられる。

 スキルはその人だけの「才能」であり、人生を大きく左右するもの。どんな身分でも平等に与えられるが、その内容までは平等ではない。

 つまり、運命を変えるようなスキルを得る人もいれば、生涯見向きもされないスキルを得る人もいるのだ。


 ある人は『炎を自在に操る力』を得て、誰もが憧れる一流の冒険者になった。

 ある人は『地面を隆起させる能力』で、魔物から街を守る強大なな城壁を築き上げた。

 ある人は『傷を癒す能力』を得て、誰もが信頼する大賢者として歴史に名を刻んだ。


 本の中で語られる英雄たちは、最上級のS級に分類されるスキルを持っていた。

 だが、その一方で……。


「おいおい、ママ! 今日も朝食はミルクだけかよ!」

「ごめんなさい、また間違って能力を使っちゃったのよ」

「全く、しょうがないな。ほら、牛肉に変えてやるよ!」


 『触れた食べ物を牛乳に変える能力』と、『飲んだ牛乳を牛肉に変えて吐き出す能力』。これがカルシムの両親のスキル。どちらもD級、最低ランクの能力だ。

 関連性のある能力を持つ二人が夫婦となったのは偶然ではなく、自分のスキルを受け入れてくれる相手を必死で探した結果だ。ろくなスキルが得られないと、このような苦労をすることになってしまう。


「おいカルシム! 今日は大事な日だろ、しっかり食っていけ!」

「う……うん。でも遅れるとまずいから、今日はこれで行くよ」


 そう言ってカルシムは牛乳を飲み干し、家を出た。

 どこかネジが抜けている母親と違い、さすがに父親の口から出たモノは食べたくない。……この食生活のせいで、こんな体型になってしまったのだが、カルシムは両親のことを全く恨んでいない。


「絶対に冒険者になって、父さんと母さんを楽にしてあげるぞ……!」


 恵まれないスキルを持ちながらも、不自由なく――食生活以外は――ここまで育て上げてくれた両親に対する感謝を胸に、神殿に向かう。

 もし役立つスキルを授かって、冒険者になることができれば。いじめられないだけじゃない、みんなに認められる存在になれる。

 人生を変えてやる。そんな希望を秘め、カルシムは胸を張って歩みを進めた。



 神殿へ向かう道は、朝露の匂いが漂う静かな小道だった。

 そこに、不意打ちのように響く声。


「よぉ、骨人間」


 カルシムが振り返ると、目に入ったのはいつもの3人。デイブ、ステーロ、そしてマダンが行く手をふさぎ、意地悪く笑っていた。


「どんなくだらねぇスキルがもらえるか楽しみだな、ええ?」


 デイブが一歩近づき、カルシムを見下ろす。


「お前のスキルを予言してやろうか? そうだなぁ……『骨折を予知できる』なんてどうだ?」

「いやいや、『骨をカタカタ鳴らせる』のほうがお似合いだろ?」


 ステーロとマダンがデイブの言葉に笑いながら応じる。


「……放っておいてよ」


 かすれた声で返したカルシムに、デイブが眉をクイッと上げた。


「おい、聞いたか? “放っておいてよ”だってさ」


 デイブはカルシムの肩を小突く。

 倒れそうになったカルシムの体を支えたのは、運よく木の柱だった。


「いいか、骨人間。俺たちゃ冒険者になるんだ。そんな俺たちが“お友達”でいてやってんだから、ちったぁ感謝しろよ?」


 3人はゲラゲラとまた笑い声をあげ、去って行った。

 3人とも、カルシムと同じ誕生日。これからスキルを授与されに行くのだ。

 カルシムはただ悔しさに唇を噛み締めながら、その背中を見つめていた。


 ──今に見ていろ。絶対に見返してやる。今日は、人生が変わる日なんだ!


 カルシムは拳を強く握りしめ、小刻みに震える足を動かして神殿へと歩みを進めた。

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