魔王を封じた隻眼の魔導士、今度は古文書の謎を解き明かすようです。
江良 双
第1話 いざ聖都へ!
魔王を封印し、帝都でヴェラの療養に一週間ほど滞在したデリルたち。一時は高熱にうなされヒヤリとする場面もあったが、デリルが取ってきた「竜の熱冷まし」によって高熱は治まり、容態は安定した。
「気分はどう?」
デリルはベッドに横たわったヴェラに尋ねた。
「うむ、お前が取ってきてくれた熱冷ましで随分楽になった。改めて礼を言う」
ヴェラが身体を起こしてデリルに頭を下げる。
「やめてよ、水くさい。私たちは仲間じゃない」
デリルが照れ臭そうに両手を振りながら顔を背ける。
「お前も手伝ってくれたらしいな、手間を掛けさせた」
ヴェラはエリザにも礼を述べた。
「いつも背中に乗せて貰ってるからな、あれくらいどうってこと無いさ」
エリザも照れ臭そうに鼻の頭を掻く。
「この調子なら飛べるようになるのも時間の問題じゃ。翼も尾もおそらく生え変わったじゃろう」
ヴェラが肩やお尻を触りながら言う。「竜の姿に戻ってみんとはっきりとは分からんが、な」
「良かった。死んじゃうんじゃないかと心配したんだから!」
デリルは魔王にバッサリと切られたヴェラを思い出してブルッと震える。その上あの高熱騒ぎである。傷を癒す為にかなりのエネルギーを使ったのだろう。
「アルはどこへ行ったんじゃ?」
ヴェラが辺りを見回す。
「アイツ、やけにペディと気が合っちまって、帝宮にもちょくちょく遊びに行ってるみたいだぞ」
エリザがちょっと寂しそうに言う。ペディとは帝都の若き皇帝、ペディウスの愛称である。今回の魔王騒ぎでデリルたちは一躍時の人となり、『皇帝の客人』という身分を与えられている。
「良いではないか。いつもいつも熟女ばかりを相手するより年の近い者と付き合う方が学びも多いじゃろう」
ヴェラはそう言ってふと寂しげな目をする。「わらわの歳に近い者などほとんどおらんが、の」
「今日はネロくんも一緒に行ったみたいよ」
そう言ってふと辺りを見る。「そう言えばアストラとシルヴィアもいないわね」
「シルヴィアはお前に仕えるとか言ってなかったか?」
エリザが不思議そうに言う。デリルの家臣ならデリルに付いているのが本来の姿である。以前のクライアントであるアストラに随行するのは不自然だ。
「まぁその辺はわりとユルユルなのよ」
デリルもシルヴィアを仲間に加えるとは言ったものの、アストラとの契約期間もまだ残っているようだし、1日いくらで雇えば良いのか相場も分からない。日払いなのか月払いなのか、そういった具体的な話は全然できていないのだ。
「アストラはこれからどうするつもりなんだ?」
エリザが尋ねるとデリルは困った顔をして、
「アイツが何を考えてるのかなんて分かる訳ないでしょ」
そう言って小首を傾げた。「おとなしく私たちと一緒に行動するタマでもないし……」
きっと次の算段が着いたら別れを告げていなくなるだろう、デリルはそう思っていた。ところがその夜アストラに聞かされたのは予想外の台詞だった。
「聖都に行きたいですって?」
夕食の途中、ふいに言い出したアストラにデリルは
「うむ、帝都立図書館の書物も
運ばれてきた食後のコーヒーを飲みながらアストラは続ける。「何しろハイエルフの住む街だ。さぞかし珍しい書物があるに違いない」
「確かに珍しい書物はあるでしょうけど……」
デリルは言葉を濁す。言いたくはないが
「悪人面の私では聖都に歓迎されんだろう」
アストラはデリルの心配を見透かしたように言う。どうやら自覚はあるらしい。
「分かっているなら……」
デリルがやんわりと諦めさせようとする。
「そこでお前だ」
アストラがニヤリと笑う。「聖都に出入りしているデリルが一緒なら……」
「勘弁してよ、私まで出入り禁止にされちゃうじゃない」
デリルは別に聖都に大歓迎されている訳ではないのだ。オータムは仲良くしてくれているが大聖堂に行く度に謁見室前で必ず揉めるのだ。アストラなんぞ連れていったら大混乱である。
「しばらく滞在して書物を読ませてもらいたいだけなんだがなぁ……」
アストラはがっかりした様子で言った。
「先生、どうしても駄目なんですか?」
ネロはなんだか見た目だけで邪険に扱われるアストラが可哀想になってデリルに尋ねる。
「駄目って訳じゃないけど……」
デリルは悩んだ末に、「交渉を自分でするなら取りあえず聖都に入るのは何とかするわ」
と言って深いため息を吐いた。
翌日、デリルたちは帝宮に出向いて帝都を離れることを告げた。
「大丈夫なの、ヴェラ?」
アルが心配そうに言う。
「うーむ、一度戻ってみんと分からんが……」
ヴェラは覚束ない足取りで帝都広場に立つ。カッと閃光を発し、
「困ったわね、こんなに大人数じゃ、私だけでは運びきれないわ」
デリルが一同を見回す。ネロはもちろん
「仕方ないな。シルヴィア、大きめの絨毯を買ってきてくれ」
アストラが言うとシルヴィアは文句も言わずアストラから金を受け取って姿を消した。「昔ながらの空飛ぶ絨毯で行こうじゃないか」
よく知られる空飛ぶ絨毯は絨毯そのものに魔力が込められており、魔力のない者でも飛ぶことができる便利グッズだが、アストラやデリルは魔力で飛ぶので絨毯はどんな物でも構わない。デリルの箒もどこにでもある市販の代物だ。
ほどなくしてシルヴィアがいかにも魔法の絨毯という見た目のオリエンタルな模様の赤い絨毯を持って戻ってきた。
「おい、こんなので本当に飛べるのか?」
絨毯を広げるアストラにエリザが尋ねる。
「……お前、よくデリルの箒に乗るだろ? どうしてあんなので飛べると思うんだ?」
アストラはあきれ顔でエリザに言う。
「そりゃ実際に何度も飛ぶところを見てるからな、信頼と実績だ」
「そうか、じゃあ見てろ」
アストラは絨毯に座って集中する。アストラを乗せた絨毯はふわりと浮かび上がった。「その辺を飛んで来ようか?」
「いや、充分だ。疑って悪かったよ」
エリザは膝辺りまで浮かんだ絨毯の上に乗る。全く不安を感じさせない安定感がある。
「さぁ、他の者も乗りなさい」
アストラが言うと他の者たちも絨毯に乗る。
「人の力で飛ぶのは初めてじゃ」
ヴェラは少し不安そうに絨毯に乗った。実際には
「こちらはいつでも良いぞ」
アストラに促され、デリルは後ろにネロを乗せて箒で浮上する。
「行くわよ、それっ!」
デリルがいつもの掛け声で元気に飛び始める。アストラも絨毯を浮上させ、デリルの後を追う。
「便利なもんじゃな」
最初は不安そうだったヴェラもすっかりくつろいでしばしの空の旅を楽しむのだった。
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