深まる仲、止められない想い

「やあ、アールセン嬢」

「まあ、ブレデローデ卿、ごきげんよう」

 リーフェはディルクがブレデローデ公爵城に来る度に話しかけられた。

 それにより、リーフェとディルクは軽く雑談する仲になっていた。

「そろそろそのブレデローデ卿という呼び方を変えてみないか? 俺の従兄弟いとこ達も全員ブレデローデだろう?」

 ディルクは悪戯っぽく笑う。

「言われてみれば、確かにそうですわね。ブレデローデ公爵家の令息達とはあまり話したことはありませんが」

 リーフェはクスッと笑う。

「ブレデローデ卿のことは何とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「では、気軽にディルクと呼んで欲しい」

 リーフェが控えめに聞いてみると、ディルクがそう答えた。

「……ディルク……卿?」

 リーフェは恐る恐るそう呼んでみた。

 すると、ディルクが白い歯を見せてニッと笑う。

「仰々しい敬称もいらないさ」

「……ディルク……様」

「ああ、それで良い。俺も、君のことをリーフェ嬢と呼ばせてもらっても良いだろうか?」

 ディルクは満足そうな表情になり、今度はリーフェにそう聞いた。

「ええ、構いませんわ」

「ありがとう、リーフェ嬢」

 ディルクは嬉しそにジェードの目を細めた。

 リーフェはその表情に思わずドキリとしてしまう。

「リーフェ嬢、その髪飾り、よく似合っている。いつも身に着けてくれてありがとう」

 ディルクはリーフェが着けている、ルビーが埋め込まれた菫の髪飾りを嬉しそうに見ていた。

 ディルクがプレゼントしたものである。

「いえ、こちらこそ、素敵な髪飾りをありがとうございます」

 リーフェは胸を高鳴らせながら答えた。ヘーゼルの目は、どこか嬉しそうである。

(ブレデローデ卿……ディルク様は、誠実でお優しくて律儀。やっぱり素敵な方だわ。私にはもったいないくらい)

 リーフェは視線を少し下に落とした。

「そうだ、リーフェ嬢。君が休みの日はあるかい?」

「お休みの日でございますか? 来週にお休みをいただいておりますが」

 リーフェはヘーゼルの目を左斜め上に向け、自身の予定を思い出す。

「それなら、来週の休みの日、ブレデローデ公爵領の街を二人で一緒に歩かないか? 領民に人気の店も結構あるんだ」

(ディルク様と二人で……!?)

 リーフェは予期せぬ誘いにときめきと困惑で胸がいっぱいになってしまう。

(だけど、確かに休日は本を読んだり勉強することが多かったわ。ブレデローデ公爵領の街はあまり行ったことがなかったかも)

「リーフェ嬢? どうだろうか?」

 黙ったままのリーフェに、ディルクはほんの少し不安の表情を滲ませる。

「ディルク様、お誘いありがとうございます。是非、よろしくお願いします」

 リーフェははにかみながらそう答えた。

「良かった。楽しみにしてる」

 ディルクはホッと肩を撫で下ろした。

「ええ。……そろそろ休憩時間が終わりますので、奥様のところに戻りますわ」

 リーフェはそのまま公爵夫人イェニフィルの元へ行くのであった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






「あら、リーフェ、どうしたの? 顔が赤いわよ」

 イェニフィルは戻って来たリーフェの様子を見てクスッと笑う。

「奥様……その……」

 リーフェは言い淀む。

「ディルクのことね?」

 ニヤリと悪戯っぽく笑うイェニフィル。

「奥様、どうしてそれを……!?」

 見事に言い当てられ、リーフェはヘーゼルの目を大きく見開いた。

「さっきリーフェがディルクと話しているところが見えたのよ。初々しくて可愛い反応ね、リーフェ」

 クスクスと優しく、それでいて楽しそうに笑うイェニフィル。

「その……ディルク様に……来週のお休みにブレデローデ公爵領にある街を歩かないかと誘われまして……」

 ほんのり頬を赤く染めるリーフェ。

「あら、デートね」

「デート……!? そういうことでは……!」

 リーフェはイェニフィルの言葉に慌てる。

「護衛や侍女がついてくるかもしれないけれど、若い男女が二人で街へ行く。十分じゅうぶんデートよ」

 イェニフィルは悪戯っぽい表情になる。

「ディルク様と……デート……」

 リーフェの脳はショート寸前だ。

「リーフェはディルクのことを好ましいと思っているようね」

「……はい」

 リーフェは素直に頷く。

「でも、私は歴史の浅い男爵家の娘なので、ブレデローデ公爵家と縁続きのディルク様とは釣り合いません」

 リーフェはヘーゼルの目を曇らせる。

「諦める理由を自分で作ってはいけないわ。リーフェが想いを寄せる相手がわたくしの息子達や上級貴族令息なら止めたわよ。上級貴族と下級貴族の結婚は許されていないのだから。でも、ディルクはブレデローデ子爵家長男。下級貴族になるわ。ブレデローデ公爵家と縁続きだとしても、何も問題ないのよ」

(確かに、奥様の仰る通りなのだけど……)

 リーフェは俯く。

「まあ、ディルクは真面目で誠実よ。人柄はわたくしが保証するわ。それに、ブレデローデ公爵領の街は流行りのお店や伝統的なお店、色々あるわ。一旦色々忘れてディルクと楽しんで来なさい」

 イェニフィルは優しげな表情だった。

「……はい。ありがとうございます」

 リーフェは頬を赤く染めたまま頷いた。

(どうしよう……。ディルク様のことを考え出すと、ドキドキが止まらなくなってしまう。多分、簡単に諦められなくなっているわ)

 リーフェの恋心は加速していた。

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