復讐こそ我が理想
藍条森也
第1話 決意表明
殺される!
幼い頃、何度、そう思ったかわからない。
幼稚園に行かないという理由で母親は半狂乱。毎日のように立てなくなるまで説教され、線香の火を押しつけられ、物置に閉じ込められ(これは好きだった。物置のなかなら誰からも責められない)、布団蒸しにされた。
そのたびに思った。
殺される!
必死に抵抗し、泣き叫んだ。
そんな日々。
そもそも、なぜ、幼稚園に行かなかったのかと言うと、実際には『行かなかった』わけではない。『行けなかった』のだ。
恐らくは、だが、私は一般人に比べて精神の成長が遅い。だいたい、実年齢の半分ぐらい。当然、幼稚園の頃など中身はまだまだ赤ん坊同然。歳相応の精神をもつ他の子どもたちと一緒に行動するなどできるはずがなかったのだ。
毎日まいにち幼稚園で糞小便を垂れ流し、担任が洗っている間、下半身丸出しでトイレに籠もりっぱなし。そこへ、クラスの子どもたちがのぞきにやってくる。トイレのドアを開けようとする。それを中から必死に押さえる。
それでもなにしろ時代が時代。『学校に行かない権利』など影も形もない時代。親はもちろん、周囲もとにかく幼稚園、そして、学校に行かせることしか頭にない。
母親との一番、古い記憶は正座させられて説教されているところ。
父親とのそれは幼稚園の制服を着せられ、足をひっぱたかれているところ。
母親は半狂乱となり、父親は腕を引っ張って無理やり連れて行こうとする。学校の教師はよけいなお節介の極みとしてクラスの連中をわざわざ家によこした。おかげで、そいつらからも敵視される始末。なんで、関係のない連中からも敵視されなければならんのか。おれが学校に行かないことで、こいつらの人生にどんな不都合があると言うのか。
小学校卒業のとき、担任教師が言った。
「(おれ)の存在も忘れないように。クラスの仲間なのだから」
それを聞いた瞬間、心に思った。
――誰が頼んだ、そんなこと!
おれはただ放っておいてほしかっただけだ。それを勝手に親切ぶって関わってきたのはそっちだろうが。おれにとっては迷惑でしかなかった。口に出してはっきり言ってやればよかった。
ともかく『学校に行かない』という理由で親の体罰にさらされる日々。だからと言って、従ってたまるか。殴られて言うことを聞いていれば一生、殴られる。おれはおれの未来を守るために絶対に従うわけには行かなかった。
――殴るならなぐれ。いくら殴っても無駄だと教えてやる。
そう思いつづけた。
――いつか、おれが殴る側になる。
そう思って、耐えつづけた。
――まちがっているのはおれじゃない。抵抗できない子どもを殴りつける方がまちがっているんだ。いつか、そのことを証明してやる。いつか、おれが殴る側になってやる、。
そう思って、生きてきた。
学校にはほとんど行かなかったが独学で学びつづけた。
そのなかでひとつの目的をもった。
新しい世界をデザインする。
自分の気に入らないものを滅ぼす最良の方法は対象を攻撃することではない。より良いものを作りあげること。
デジタルカメラの登場がフィルム産業を滅ぼしたように、
DVDの登場がビデオデッキを駆逐したように、
より良い世界をデザインし、広めることでいまの世界を滅ぼす。
おれを踏みにじった世界を、今度はおれが踏みにじる。
『あの時代はまちがっていた』のだと、人類の歴史がつづく限り炎の文字で記させる。
それが、生涯の目的となった。
そのために、物語を作りはじめた。
物語のなかで自分のデザインした世界を語り、広めるために。
物語という形で残しておけば、自分の死後も可能性は残る。いつか、どこかで、誰かが、その物語を読んで共感し、実現してくれるかも知れない。ジュール・ヴェルヌの書いた『月世界旅行』がひとりのロケット少年を生みだし、アポロ計画を実現させたように。
新しい世界のデザインはすでにできている。そのデザインは『文明ハッカーズ』、『トゥナの手作りの国』、それに『ラブコメ集』に収められている各作品のなかで語っている。
あとは広めるだけだ。
新しい世界が広まり、いまの世界が滅び去り、人類史のなかでの『まちがっていた時代』として記憶される。
それが、成された日。
その日こそが、我が人生の理想の一日。
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