第6話 東堂美咲(とうどう みさき)

凛を失った一行は、荒野を抜けて山岳地帯へ向かっていた。険しい岩肌と冷たい風が、彼らの体力と精神を削っていく。


「この先に『真理の神殿』があるらしい。そこが次の試練の地だ。」

千景が地図を見ながら淡々と言う。だが、翼はその声に微かな違和感を覚えていた。


「俺たちが減るたびに道が開く。次は誰が消えるんだ……?」

翼が小さく呟くと、美咲が不安そうに答えた。

「そんなの……考えたくないよ。」


「真理の神殿」は巨大な岩山の中に建てられていた。外壁には無数の古代文字が刻まれ、神々しい雰囲気を放っている。


「この神殿は“選別”を行う場所だと記されているわ。」

千景が冷静に壁を読み取り、仲間たちに説明する。


「選別……何を選ぶんだ?」

翼が尋ねると、千景は言葉を濁した。


その時、神殿の奥から大きな咆哮が響き渡った。地面が揺れ、天井から砂が落ちてくる。


「来るぞ!」

翼が剣を構える。


神殿の奥から現れたのは、巨大な獅子のような姿をした魔物だった。その体は岩のように硬く、目には赤い光が宿っている。


「こいつが“選別”の相手ってわけか!」

陽斗を失った後の前衛を務める翼が剣を振るい、魔物に突撃する。

• 翼が時間操作を使い、魔物の動きを鈍らせるが、その力は膨大で完全に止めることはできない。

• 美咲と葵が治癒魔法で仲間を支援するが、魔物の攻撃範囲が広く、全員が回避しきれない。

• 千景が解析眼を駆使して魔物の弱点を探るが、その体の硬さと攻撃範囲の広さに苦戦する。


「核は胸の奥にある!でも、障壁があるから直撃は無理!」

千景が冷静に叫ぶ。


激しい戦闘の中、魔物の鋭い爪が美咲と葵を捉え、二人は壁際に叩きつけられる。


「美咲!葵!大丈夫か!」

翼が駆け寄るが、美咲の体は出血が激しく、呼吸も浅い。


「だめだ……治癒魔法が追いつかない……」

千景が静かに言う。


もう一人の仲間も意識を失い、動けなくなっている。


その時、再び神殿全体に紫の光が広がった。仲間たちは驚き、動きを止める。


「また、あの光……!」

翼が恐怖と不信感に満ちた声を上げる。紫の光は、美咲ともう一人の仲間の体を包み込み、二人を穏やかに覆っていく。


「何なんだよ、これ……!」

翼が近づこうとするが、紫の光がそれを阻むかのように跳ね返す。


美咲は微笑みながら翼に手を振った。

「ありがとう……みんな……私は、元の場所に戻るから。」


葵も千景に伝える「これが……私の役目だったのか……」


光が強まり、二人の体は完全に消えた。


二人を失った後、翼が千景に詰め寄る。

「お前、本当は何か知ってるんじゃないのか!?この紫の光の正体を……」


千景は冷静な表情を保ちながら答えた。

「私が知るわけないでしょう。紫の光はこの神殿の力かもしれないし、異世界そのものの現象かもしれない。」


「でも、お前……ずっと冷静すぎるんだよ!」

翼が声を荒げると、美咲と葵を失ったことで精神的に疲れている他の仲間たちが割って入った。


「もうやめて……争っている場合じゃないよ……」

仲間たちは疲弊し、千景の秘密には気づかないまま、さらに険しい道を進むことを決める。


現実世界では、美咲と葵が、それぞれの場所で目を覚ます。


美咲は病院のベッドで目を開け、異世界の記憶を失っているが、何か大切なものを守ったような感覚だけが残る。葵もまた、日常の中で「異世界の仲間たち」をぼんやりと思い出そうとするが、詳細には思い出せない。


その夜、翼は一人焚き火を見つめながら手を見つめていた。紫の光の余韻が、まだ指先に残っている気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る