Chapter 1 - 2 宗教都市ドラコニア
教会にて薫育を得た孤児にとって、十四歳の成人期は生涯の分岐を指していた。
道は二つに分かたれており、ひとつは俗界とのかかわりを捨てさり宗教儀式にて威徳の伝道または戒律を守り、祈りと労働の職務遂行を教会にておくる道。もうひとつが生まれ故郷を離れて
されども多くはそうしない。あまりに外が危険だからだ。
ところが少女の胸にはある言葉が根ざしていた。
〈狭き門より入れ、
廃村から少女を救った牧師の言葉であり、
おさなくして得たその教えに、少女は力強さを感じていた。
希望と呼ばれる力強さである。
そうなんだ。きっとそうなんだ。
少女はその教えから「苦難に立ち向かってこその
なれば少女の選択はひとつしかなかった。
それ以外に、
§
これからわたしは、どうなるのだろう。
これから、うまくやっていけるのだろうか。
思えば思うほどに思われる、重たき懸念とつづく苦悩……けれども、それら煩悶のなんと無駄なことか。連なり続けて積み重ねても、そこには苦渋が残るのみ。不安から汲まれた濁りの水では心の鏡は洗えない。かえって、くすますだけであった。
だから……やめよう。考えることは、もうやめよう。
少女は心に決めて、思いの口に蓋をした。
なるようにしてなる。いや、なるようにしなくちゃいけないんだ。
そうして自分を鼓舞しながら、不安の紛らわしのため、少女は歌を口ずさんだ。
巡る夜の 深き空へ 芽吹く白の はてなき影のつよさよ
微笑む風の手に旅人は
空へ 空へ 翔ける鳥よ おまえは母の目に届かざる空を背に
嘆かずにうつりゆく
陽をあびて迷わずに
沈黙の
風と踊り続け 空に消えゆく
それは、どこで覚えたのか記憶にない、不思議な歌。
はるか昔の伝え歌でもなければ、知る人もない無銘の歌。
されども、あたかも因果な様に、不思議な親しみをおぼえていた。
「嬢ちゃん、見えてきたよ」
ところで、村から離れて数刻後。壮年の
幌獣車の前方、景色を見やると石の
奥の広場からは吟遊詩人の
弦楽器や木管楽器、太鼓など
食欲のそそる脂の濃厚な匂いや小麦や砂糖が焼き上げられた芳醇な香り。
子供の駆けずる黄色い声から大人の無遠慮な笑い声。
旅人たちを歓迎する花びらが風に舞い、音や香りや色などが歓喜として踊っていた。
まるで、そこでは祭りが開かれているかのようだった。
されど、そここそ大聖の街。
草の香りをのせた、青々とした風が吹いた。
頬をなぞり、髪をたばねるリボンが揺れ、少女の心は
これから大きく何かが変わってゆく。
すべてここから始まってゆく。
心は緊張や恐怖ではなく、かすか感動と期待で躍っていた。
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