第55話 流石に気が早い?

「――おはようございます、恭一きょういちさん」

「うん、おはよう有栖ありす



 窓から優しく光が差し込む、穏やかな朝のこと。

 ベッドにて、和やかに朝の挨拶を交わす僕ら。最初こそ恥ずかしかったこの状況も、慣れてしまった今となっては流石に何も……いえ嘘です未だに恥ずかしいです。いやまあ、何と言うか……その、日を追うごとに魅力を増していってると言いますか……うん、全く以て末恐ろしい子でして。



 ともあれ――あれから、およそ三年。僕らは今、沖縄にて居住を共にしていて。




 あの後、数日の入院を終え学校に戻るとなずな先輩はいなかった。話を聞くと、数日前に突如辞表を提出したそうで。せめて一言伝えようとスマホを取るも、止めた。彼女が一言もなく去ることを選んだのなら、そういうことなのだろうし……何より、有栖が何と言うやら。


 さて、僕らはと言うと――あれから数ヶ月後、三学期を終えた時点でお父さまと三人で沖縄へと移住した。何とも唐突とも思えるこの展開は、他でもない有栖からの提案で。とは言っても、この時点で行き先までは決まっていなかったけど。


 一応解決したとは言え、あれほど怖い思いをした町に留まるのは辛いから――理由を聞くと、そのような旨を述べていた有栖。だけど、移住それが僕のためであることは明白で。当時、僕らは生徒と教師――そして、もし関係が判明すれば立場が悪くなるのは間違いなく僕。


 だから、彼女は移住を提案した。彼女自身が明陽あの高校を退学すれば、僕に多大な罪悪感を残すことになる。だけど、僕に辞職するようにも言えない。そこで、第三の選択肢――移住これなら、そもそも辞めるなんて話を経由せずに自然に生徒と教師の関係を解消できるから。……まあ、これはこれで寂しい気持ちはあるけれども。





「……ごめんね、恭一くん。本当なら、有栖と二人で過ごしたいだろうに」

「いえ、謝らないでくださいお父さま。むしろ、僕の方こそすみません。親子水入らずのところをお邪魔してしまって」


 それから、ほどなくして。 

 リビングにて、言葉の通り申し訳なさそうに微笑みそう口にするお父さま。この三年、もう幾度も繰り返されてきたやり取りで。彼からすれば、僕こそが邪魔者だろうに……本当に優しい人だと何度でも思う。


 移住の話になった際、お父さまは許してくださるだけでなく、なんと自分はいいから有栖と僕の二人で住むように仰った。それが、僕らのであることは明白だった。

 だけど、彼女も僕もお父さまを独りにするつもりなんて毛頭なかった。なので、固辞するお父さまを二人でどうにか説得し三人で一緒に住むことに。関係は良好だと思うのだけど、出来ればもっと仲良くなれたらと。僕自身、とても尊敬している人だし、近い内にお義父とうさまになる人だし……うん、流石に気が早いかな?


 



 



 


 



 

 


 


 

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