第47話 大切な話
――それから、二週間ほど経た10月中旬。
「……すみません、
「ううん、気にしないで。そもそも、まだ学校にいたからわざわざ来たわけでもないし」
鮮やかな夕焼け照らす、ある放課後のこと。
教壇の辺りにて、言葉の通り申し訳なさそうに告げる
ともあれ、用件は大切な話があるとのこと。尤も、前回とは違い今回はこの呼び出し自体もある程度想定していて。と言うのも――ここ一週間ほど、彼女の様子が目に見えて違ったから。だから……こう言うと思い上がりになってしまうかもしれないけど、いつか話してくれるんじゃないかと心の準備はしていて。
……いや、もしかしたらあの時も目に見えて違ったのかもしれないけど……うん、だとしたら本当に申し訳な――
「――それで、早速本題なのですが……卒然、父が倒れてしまったんです」
「…………え?」
「――ありがとう、由良くん。こうして、わざわざお見舞いに来てくれて」
「いえ、どうかお気になさらず。それよりも……その、お身体の方は……」
「うん、もう随分と良くなってるよ。心配をかけて申し訳ないね、由良くん」
「……そうですか、それは本当に良かったです」
それから、およそ40分後。
地元の総合病院、その一室にて。
そう、穏やかな微笑で話すのは丸眼鏡の似合う知的な男性。そして、その雰囲気は僕のよく知る女子生徒と何処か重なるものがあって……うん、回りくどい説明なんていらないよね。彼は、蒔野
さて、これまた説明不要かとは思うけど――あのお話の後、僕らはこうして一緒に彼のお見舞いに来ているわけで。
「ところで、折角の機会だし言っておこうかな。有栖をいつも良くしてくれてありがとう、由良くん」
「あっ、いえとんでもないです! その、僕の方こそ
「ふふっ、僕は何もしていないけどね」
僕には勿体ないお言葉に慌て――それでも、彼の目を見つめ感謝を告げる。すると、少し可笑しそうに微笑むお父さま。……うん、その表情も何処か蒔野さんと重なって――
その後も、しばし和やかなやり取りを交わし病室を後にする僕ら。すると、ふとお父さまから柔らかな仕草で呼び止められる。蒔野さんではなく、僕一人だけを。
ともあれ、彼女に一言断りを入れ再びお父さまの下へと向かう。そして、先ほどの柔らかな――それでいて、甚く申し訳なさそうな微笑でゆっくり言葉を紡ぐ。
「――君には、本当に苦労をかけてしまうけれど……どうか、有栖のことをお願いします」
「――改めてですが、今日はありがとうございます由良先生。父も喜んでいました」
「……喜んでくれて、いたのかな?」
「ええ、これでも親子ですからそのくらいは容易に分かります」
「……そっか、それなら良かった」
もうすっかり暗くなった帰り道。
そう、柔和に微笑み話す蒔野さん。気を遣ってくれている……うん、というわけでもなさそうかな。……そっか、それなら良かった。
「わざわざ送っていただきありがとうございます、由良先生。それでは、また明日」
その後、暫くして蒔野家に到着。そして、扉の前で丁寧に感謝を告げる蒔野さん。うん、また明日――そう答え、軽く手を振り再び夜道を歩いて行く僕。
――そう、本来ならきっと。
「――ねえ、蒔野さん。僕の勘違いだったら申し訳ないけど……まだ、話したいことがあるんじゃないかな?」
そう、じっとしたまま尋ねる。そんな、なんとも唐突な僕の問いに対し――
「……やはり、気付いていたのですね」
そう、淡く微笑み答える蒔野さん。その言葉からも察せられるように、そこに驚いた様子はない。むしろ、尋ねられるのを待っていたという印象さえ窺えて。……まあ、流石に僕でも気付かないはずもない、何故なら――
「――由良先生」
ポツリ、僕の名を呼ぶ蒔野さん。そして、ガチャリと鍵を開き扉を開ける。そして――
「――卒然ですが、上がっていただけませんか? お話は、
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