第二部二人の英雄編(後編)
次の朝。
朝食後、二人は帰っていった。
そして俺は一人でダイブする。
今日は土曜だから一日中入れるな。
「ゲート・オープン」
「…………」
最後にいた平野に降り立つ。
「エンキドゥ、いるか?」
《YES、旦那様(マスター)》
エンキドゥは仮想体(アバター)でのダイブは無理だったが、俺の意識とリンクすることで《サポートAI》としてダイブしている。
その時、システムメッセージが鳴った。
≫極点権能(マキシマムスキル)、《神之造物(エンキドゥ)》を完全習得(コンプリート)。続いて、固有権能(ユニークスキル)《英雄之炎(リオネルフレイム)》、《紫電(シデン)》を完全習得。
権能と書いて《スキル》と読むらしい。
因みに他のは平等権能(ノーマルスキル)、希少権能(エクストラスキル)。
………使えないと思っていたのに、《英雄之炎》と《紫電》を身に着けてしまった。
エンキドゥがギルガメッシュの記憶に干渉したのか?
極点権能というのはこの世界でのスキルの頂点のようだ。
この世界のスキルというのは思い、願いなどを理に適合させて《概念》とするもの。
≫極点権能 《神之造物(エンキドゥ)》を《世の理》と同機。閲覧権限と自己改造権限を付与します。
《僕は旦那様(マスター)のスキルになったみたいだ。検索はお任せあれ》
「頼もしいな」
≫条件を達成しました。平等権能 《闘気》、希少権能 《切断・改》、
なんと。エンキドゥだけでなくギルガメッシュまでスキルになってしまった。
真之王道とは、実にギルガメッシュらしい名だ。
真之王道と神之造物の能力はこんな感じ
《真之王道(ギルガメッシュ)》
暴君(スタンピード)
身体能力を五百倍に強化する。
「二刀流剣技」
《二刀流剣技》を扱える。
「英雄之聖火(リオネルファイア)」 (これは英雄之炎を最適化したもの)
魂の炎を具現化、操作できる。
「竜技竜剣(ドラグシリーズ)」
闘気と紫電で竜の力を模倣する。
「闘気操作」
自身の存在の根源を操る。
「紫電解放」
力の電気を解き放つ。
「使徒統揮(イオラートス)」
配下となった者を自身の場所に瞬間移動させる。
「概念付与」
物に一つだけ概念を付与できる。
「完全切断(アトミックスラッシュ)」
原子レベルまで切断する剣。
「勇者之剣(ナイトプレート)」
「空虚之剣(アクロノース)」
「永久之剣(アザリート)」
剣を召喚、装備し、操ることが出来る。
「魂剣之終末(ソード・オア・ザ・ソウル)」
「魂剣煉獄(アマノレンゴク)」
「無限之希望(インフィニテッド・キングダム)」
概念を付与した領域、心象転写を展開する。
《神之造物(エンキドゥ)》
「解析」
目に見たものを把握し、その情報を読み取る。
「自律稼働状態(オートモード)」
《神之造物》が身体を正確無比に操作する。
「念話」
念じて会話できる。
「神無撃(プロミネンス)」
天空から無音の流星を落下させる。
「竜神之顎(ドラゴンロード)」
竜の顔を出現させ、喰らった対象のHPを奪う。
「泥人形(ニテヒナルモノ)」
分身をつくる。
「英雄補助(ササエルモノ)」
パーティーメンバーに能力補助をかける。
「一心同体(キョウコナシンライ)」
HPがある限り、スキル破壊系の攻撃を無効化する。
「神束縛鎖(カミヲソクバクスルクサリ)」
神属性のNPC、アバターを拘束する。
「猛牛並縛鎖(グガランナヲシバルクサリ)」
突進攻撃状態の対象を絶対拘束する。
多すぎるだろ、おい。
まあ、二人の二千年と俺の十六年を合わせたからこんなものなのかな?
「進化だな、もう」
《いいじゃないか。力を得るのは》
「………それもそうだな。さて………行くか!」
《どこに?》
「ドラゴン討伐へ!」
***
俺が向かったのは、《死神の煉獄》。
このゲームでボスステージの次に危険なフィールド。
死神の瘴気と悪魔の魔焔が身体を蝕む。
が、《真之王道》にある「闘気操作」と「英雄之聖火」でそれを無効化する。
これから戦うのは、《焔魔竜ルガリオン》。
設定では魔王と唯一対等に戦えるモンスターとのこと。
爆炎魔法と暴風魔法を扱うらしい。
大穴に巣がある。そこがバトルフィールドだ。
「…………着いたぞ。ここが………巣だ」
《深いね》
「大丈夫さ」
「英雄之聖火」発動。
「自由之大翼(ジユウヘノタイヨク)」
背中に発現した炎翼を羽ばたかせながら、大穴にダイブする。
《装備は?》
「こいつらだ」
ストレージからそれらを実体化。
左手に神威、右手にベールリオン。
ナイトプレートだけがストレージになかった。
「…………いた!」
視認出来るだけでも全長数百メートルはあるか………。
「ここだ………!」
神滅煉獄大砲(シン・フレアブラスター)!
ベールリオンの先から熱線を放つ。
「ガアアアアアッ!」
「怒らせただけか………!」
《来るよ!》
ドラゴンはお返しと言わんばかりに口から爆炎を放ってきた。
竜技――――――
「竜鱗障壁(ドラゴシールダー)!」
攻撃系統の《牙》ではなく、防御の《鱗》。
闘気と紫電の障壁で爆炎を防ぐ。
「竜牙餐喰(ドラゴンイーター)!」
竜の顎を放つ。
しかし奴には効かない。
―――久々に………
「竜牙突撃(ドラグストライカー)!」
竜を纏って落ちていく。
「ハアアアアアアッ!」
暴君(スタンピード)発動!
フルパワーの一撃を頭部に浴びせる。
「…………ほっ、と!」
着地。奴の姿は黒く、周囲に赤雷を纏っている。
「ガアアアアアッ!」
突進攻撃、なら――
《神之造物》発動。
「猛牛並縛鎖(グガランナヲシバルクサリ)!」
亜空間から伸びた鎖で竜を捕縛する。
「《ザ・プロメテウス》………!」
二刀流最上位剣技。連続二十五回攻撃――――。
「せぁああああああああッ!」
連撃で竜に傷をつける。
その後すぐに距離をとり、
「神滅竜断罪(シン・ドラグパニッシャー)!」
ゼウスを殺した秘剣。闘気の超大剣を振り下ろす。
「まだいくぞ!」
神威、ベールリオン真名解放。
神威=永久之神(アザリート)
ベールリオン=空虚之剣(アクロノース)
「風刃起動(セット)、導閃之光(ロード・オブ・ファンタジア)!」
追尾の飛天。
「全てを喰らえ、《無帰之王(アストノール)》!」
神之造物に宿る「竜神之顎」の真名。
生命を無に帰す召喚。
「終わらせる………」
「完全切断(アトミックスラッシュ)」を二刀に付与。
概念付与で《絶対切断》を付与。
「……死ね、狂う世に飲み込まれて――――――――――〝神無撃(プロミネンス)〟!」
天空から無音で落下してくる流星が、ドラゴンに直撃した。
「これがラストアタックだ………!」
竜に接近し、二刀を振り上げる。
「《ソニックスラスト》!」
それぞれから放たれる片手単発垂直剣技。
―――首を切断した。
「グォォォオオオ………」
その声の直後、ドラゴンはポリゴンとなって霧散した。
「…………強かった………」
想像以上の強さだった。
ロゼラリアより強かったんじゃないか?
ホワイトディザスターを含めた、今までのモンスターを超えていた。
「…………いい戦いだったよ」
その誇り高き竜に、敬意を表する。
《援護する余裕もなかったよ》
俺は竜を討伐した後、都市に来ていた。
商業都市 《ユーロシオ》
ここに入ってすぐだった。
「アルタイル=アリエルだな」
「?」
俺に声をかけたのは白いマントの騎士。
「…………勇者教か?」
「分かっているのなら話が早い。さあ、我らの末席に加わるのだ」
「あのなぁ、アリアスと話がついてるはずだぞ。協力はするが入団はしない。そう聞いていないか?」
「ああ、聞いている」
………何こいつ。
「だがそれはアリアス様が貴様に譲歩して提示したものだろう?だがここで貴様を叩き潰せば、それも無駄になる」
………何言ってんだこいつ。
頭イかれてんのか?なんでそうなるんだよ。
奴は黄金の髪をなびかせながら言った。
「さあ、決闘を始めよう」
この展開、前にもあったなー
俺はYES\NOボタンを見ずに選択し、ベールリオンを収納。そして神威を腰に装備した。
「ふん、やる気のようだな………後悔するなよ、黒き剣士!」
「⁉」
何故知っている。
俺の情報は秘匿されて………いや、セナとシズクか………。
黒き剣士と決闘というワードに周囲の目が集まる。
「おいおい………黒き剣士だって⁉」
「ウソだろ本物⁉」
周囲の人からすれば、黒き剣士というのは英雄だ。
俺からすれば、不完全な人間だ。
デュエルコールでアルタイルVSレイトと表示される。
男は両手剣を抜剣する。
俺も神威を抜刀。
「黒き剣士と騎士の決闘、見物だぜ」
「こんな戦いが街中で――」
Lady―――――――――――――――Fight!
「ちぇりゃああああ!」
裂ぱくの声と共に襲い掛かるのは両手剣。
これはもう、殺意の類だ。
手加減無用というやつだな。
「せいっ!」
正中線で構えていた神威で両手剣を受け止める。
《旦那様(マスター)、完全切断(アトミックスラッシュ)の起動を進言するよ》
(分かった)
神威に完全切断を付与。
そして、俺は深呼吸で精神を落ち着かせた。
「ふーっ………はーっ…………」
仮想体(アバター)の神経を完全に把握。
(初めてだな………闘気を、全開にするのは)
「…………気絶するなよ?」
「何を………!」
「―――――ッ………!」
内側から、自身の存在を爆発させる。
そして俺自身で、世界を覆う。
その時、NF内の一部を除く多くのプレイヤーと、全NPCが委縮した。
「なんだ………何なんだ、お前は………!」
「黒き剣士だ」
瞬間解放の最大でも、闘気の全てを放出することはできない。
保有量を、放出量が超過しているのだ。
何故これのほど闘気が増えたのかは分からない。
ギルガメッシュと俺の闘気を合わせてもこれ程増えるはずがない。
しかし、それで充分だ。
瞬間最大出力の全てを神威の刀身に宿らせる。
そして「英雄之聖火」を薄く展開。
小さな火花を纏いながら、俺は納刀する。
「ひっ………」
騎士は怯えて一歩下がる。
――――だが、そこも危険領域だぞ。
「―――――――――――――〝王牙天翔(オウガテンショウ)〟」
闘気で伸びた刀身が騎士の首を刎ねる。
WIENER Altair!
静まった広場の真ん中で、キン、と納刀の音だけが高らかに鳴った。
デュエルにより死んでもすぐに復活する。
足元の空間にポリゴンが重なっていく。
怯えた顔で動けない騎士を見た直後に立ち去った。
「…………」
この世界でも、人を殺すことに躊躇できない。
≫条件を満たしました。固有権能(ユニークスキル) 《無想者(ココロナキモノ)》を会得しました。
(ココロナキモノ?)
それは、俺の虚空の殺意を形にした〝力〟。
《これは………なんと皮肉な》
「………そうだな」
これこそ最大級の皮肉だろう。
心が無く、文句一つ垂れない強き者。
それこそが、英雄と呼ばれる者たちだ。
《父さん》も、《母さん》も、《爺ちゃん》も、《アリス》も、《ディオン》も、《アース》も、《カイン》も、英雄の視点に立っていた。
しかし英雄と呼ばれたのは、その美しい表面に憧れた少年だった。
二千年前、俺が演じた英雄王も空っぽの偽物。
それは、ギルガメシュの真似事でしかないのだから。
《始まりの英雄》も、《最強の王》も、《ウルク》も、ただの硝子。
俺の心に突き刺さる剣達も、誰かの相棒であった。
悠久の果てに目覚めた〝自分〟も、狂っていた。
『誰かのために』命を懸けて戦い続ける。
『正義のために』誰かの味方を殺した。
『自由のために』仲間が死ぬ中戦い続けた。
『平等のために』神を殺し、死ぬまで戦った。
『人類のために』身体を捨てて戦っている。
『希望のために』無限の不幸と戦い続ける。
『幸福のために』無数の人を殺した。
『金銭のために』弱い悪となった。
『未来のために』大切な過去を捨てた。
『生命のために』街を壊した。
『世界のために』害を滅した。
『女神のために』神敵を暗殺した。
『キミのために』キミを壊した。
『自分のために』自分を騙した。
『凡人のために』天才を消した。
『明日のために』今日を諦めた。
『不死のために』命を捧げた。
『満腹のために』死骸を喰らった。
『保身のために』国を売った。
『快楽のために』か弱い女を買った。
『快感のために』強かった男を踏んだ。
『大切な人を守るために』誰かの大切な人を殺した。
人間とは、善悪を待たない。
人間とは、混沌を孕んだこの世で最も醜い獣である。
その混沌は幻想を生み、科学をし、世界を創造した。
また、平野に来ていた。
「おぼろげだけど、この力の使い方は分かる」
もしかしたら、俺の最強の攻撃手段に成り得るかもしれない。
俺は、山を目の前にしていた。
ベールリオンを解放。
空虚之神(アクロノース)を顕現させる。
「おい、《空虚之神(アクロノース)》。俺の心を受け入れてくれるか?」
喋らない剣は、その輝きを持って応えた。
《旦那様(マスター)、気を付けてくれ。このスキル、力が大きすぎる………》
極点権能(マキシマムスキル)であるはずの《神之造物(エンキドゥ)》がここまで言うとは………。
《無想者(ココロナキモノ)》
空虚之神(アクロノース)を〝闇色の暗黒〟が染め上げる。
災厄すら超えた〝無〟が溢れ出す。
闘気とは違う、触れたら死ぬ、そう思えるオーラ。
「制御が………!」
闇が弾けた。
その余波は天空に伸びて、雲を貫通した。
「ウソだろ………」
雲だけではない、空そのものが、《消えていた》。
飛天のように押し出したのではない。
消したのだ。
その、無限と思える程のエネルギーで。
≫警告。極点権能 《神之造物》は《解析》《閲覧権限》《神速演算》以外の権限を剥奪されます。
「なんだって⁉」
《権能が消えている⁉》
「どうして………」
《……閲覧の結果、とんでもないことが分かったよ》
「?」
エンキドゥは、こう告げた。
《無想者》は、本来存在しないはずのスキルである。
俺の頭は、処理できなかった。
何故、ない筈のものが俺に宿った。
何故、俺なんだ。
《《世界の核》の中にあった余分なスペース全てがこのスキルに集まったようだ》
「どうしてそんなことに?」
《わからない。人為的な操作は確認できないし、世界側がそんなことを勝手にやるとは思えない》
「…………じゃあまずは………こいつを制御しなくちゃな」
《そうだね》
俺はもう一度、空虚之神に無を宿す。
《………っ!》
「くっ………」
二人がかりで押さえつけ、そのオーラを制御する。
「う………ぉぉぉおおおおおおおおおッッッッ!」
限界を感じて剣の枷を外し、無の虚空を解き放つ。
〝無想之終焉(デラートイーア)〟
その斬撃………とも言えない破壊は、山だけでなく、その下の地面すら消していた。
抉られたように消えた大地に、不穏な風が吹く。
そして、その穴から出現したのは、黒い災厄
《ブラックディザスター》
〝無想之終焉(デラートイーア)〟
一瞬で消え去った。
あれを超える厄災を、俺は知らない。
虚ろなる神は、全てを終わらせる。
この、世界さえも。
≫警告。権能(スキル)の統合、最適化が進行。不要、問題となる権能(スキル)を廃棄。
極点権能(マキシマムスキル)《真之王道(ギルガメッシュ)》と《神之造物(エンキドゥ)》を統合。
その結果、極点権能 (マキシマムスキル)《始祖之神(ファースト)》を獲得。成功しました。
‥‥また?
なんで警告が出てくるんだよ。
その結果も凄いことになっているし。
《‥‥どうしてこうなったのかな》
「さぁ‥‥?」
始祖之神(ファースト)
竜王之剣(ドラグアーツ)‥‥竜技竜剣を最適化したスキル。流水之剣舞のデータを一部流用。
使徒統揮(イオラートス)‥‥配下を召喚する能力。配下やフレンドに能力の一部を分け与えられる。
完全切断(アトミックスラッシュ)‥‥物質を原子レベルまで切断できる能力。結界突破を有する。
剣神解放(エクシア)‥‥全ての《剣技》を使用可能。三本の剣を操れる。
闘気紫電‥‥紫電と闘気を完全に制御可能。
英雄真炎(リオネルフレア)‥‥魂を炎に変換する。
解析・情報閲覧‥‥対象の情報を把握する。
自力制御‥‥自身の能力を制御する。
神速演算‥‥思考速度を数百倍に加速する。
心象転写‥‥世界そのものを作り変えるシステム。
うん、やりすぎ。
何?この世界ってもしかして俺に攻略RTAさせたいの?そうなの?
そして、無想者(ココロナキモノ)のスキル情報も解放された。
無想者(ココロナキモノ)
消滅‥‥あらゆるものを破壊、消滅させる反転エネルギー。自力制御との併用で制御可能。
消滅付与‥‥武装に反転エネルギーを付与する。
空間支配‥‥因果律操作を行う。
停止空間‥‥時間の止まった世界を創造できる。
無限結界‥‥触れたら消滅する結界。一度触れると回復薬では再生、回復はできない。
根源消去‥‥復活(リスポーン)を永遠に禁じる。
うん、殺意たっか。
ゼウスワンパンできそうなスキルだな、おい。
《これはまた‥‥とんでもない力だね‥‥》
「‥‥ああ、そう、だな‥‥」
だけど、一つ目に留まった。
自力制御。
これならもしかして。
「空虚之神(アクロノース)、いくぞ‥‥」
消滅付与で刀身に消滅エネルギーを付与する。
相変わらず制御が難しいが、自力制御でエネルギーそのものを制限する。
天に掲げ、高らかに叫ぶ。
魂すらかき消す虚無の斬撃。
「〝無想之剣(アストラルブレード)〟!」
今回のは斬撃と言えるだろう。射線上のものが数㎞先まで消えているが先刻よりはマシだ。
制御‥‥できているのかわからないが、とりあえず最強の攻撃手段の完成だ。
というか、これだけで敵を殲滅できそうなんだが。
◇◇◇シズク視点。
私は勇者教本部で騎士の訓練を指導していた。
その時だった。
彼の闘気を感じたのは。
世界を覆うほどの闘気を彼が‥‥アルタイルが放ったというのは、すぐに理解できた。
少し経つと、伝令係が飛んできた。
「報告します!第七騎士団の三席が黒き剣士様にデュエルを申し込んだ模様です!」
「なんですって!?」
「結果は惨敗、一撃でやられたとのこと!」
「当然の結果ね」
騎士団は第一から第八まであり、それぞれの地域に広がっている。
第一はアリアス守護部隊とも言われている。
「それで闘気解放とはね‥‥」
彼らしいといえばらしいのだが、それでも範囲が広すぎる。
いったい何が彼をこうさせたの?
闘気量は修行‥‥自身が高みに行くにつれて増えていく。
‥‥考えても仕方がない。
そしてもう一人、伝令が。
「報告します!黒き剣士が未確認スキルを使用、平野の一部が‥‥消滅しました!」
「消‥‥滅‥‥?」
―――――消えた?
意味が分からなかった。
「詳細を」
「…………不明です。彼が技を試そうとした時に、黒いオーラが山と大地を消滅させたのです」
「…………はぁ」
もう驚きを通り越して呆れる。
「‥‥なにしてるのよ‥‥アナタ」
◇◇◇
空間を斬り裂いた俺の斬撃は、世界の修正力すら無効化した。
通常、破壊されたオブジェクトは時間で修復されるはずなのだが、十分経っても元に戻らない。
「うん、チートじゃん」
このログはHFのコンピューターログによるメッセージです。
≫やあ、届いているかい?
≫届いている。貴様のメッセージは声まで聞こえそうで不快だ。
一人目は、二人目にこう伝えた。
≫そう言わないでくれ。二千年生きた同士だろう?
≫黙れ。だいたいオレは本体(あやつ)から乖離した残り火でしかない。そんなオレに話しかけるとは、死にたいのか?
≫もう死んでいるさ。あの時、NFが本当の意味で開始した時点で体は捨てた。
≫貴様、狂っているな。
≫当たり前だろう?そうでもなければ、数十万人を命の危険に陥らせることなどなかっただろう。
≫だが、大義があった。
≫慰めてくれるのかい?
≫何を言っている気色悪い。オレは現実を述べているだけだ。‥‥幻想郷は実在する、とな。
≫ああ、まさか君がそんなことを言うなんて。
≫黙れ、流川大智。
≫断るよ。君の名は、どうしようか。
≫ギルガメッシュ以外になかろう。
≫そうだね。それじゃあギルガメッシュ、本題に入ろうか。
≫なんだ戯け。
≫君の本体、アルタイル君‥‥とでもしておこうか。彼を更に成長させる必要がある。
≫クライマックス前の修行、というやつか。
≫正にそれ。彼の実現値は一億を超えているが、HFではそもそも実現値の価値を理解できない。ただの闘気総量 という認識だろう。
≫そうであろうな。オレとて闘気は生命力、武器としか見ていなかったのだから。
≫だが、君が完成させた《竜技》を継承させたことで彼の実現値は上昇した。
≫それでもあやつの実現値はロゼラリア戦で1000万程度だったがな。
≫いや、私はそこまで上昇するとは思っていなかった。あの世界で戦い続けた者たちでさえ、百万で止まる者たちが多かったというのに。
≫才能という奴だろう。
≫間違いない。だが、才能以前に重要なことがあるだろう?君、いや彼は―――――――なのだから。
≫オレにその記憶はない。もしオレが本体に回帰しても、その情報だけは消していく。
≫徹底的だね。
≫当たり前だ。‥‥俺が、みんなを守るんだから。
≫そういうところは変わらないんだね。本質、というやつかな。
≫‥‥不変の根源、か。
≫君に、全てを。この宇宙の生物全ての命を託す。
≫誰にものを言っている。オレは英雄だぞ。世の全てなど、天地開闢以前に託されている。
≫‥‥任せたよ。‥‥―――――――。
ここで、会話は終了している。
この会話は、プロテクトによりユーザー1とユーザー2以外の閲覧は許可されていません。
管理者権限により、退室を命じます。
昼飯を食うためにダイブ切断した時だった。
ピロン♪
スマホではなく、パソコンの通知。
このメールアドレスは優也にすら教えていない。
俺と父さんの緊急連絡アドレスだ。
「なんでこのアドレスに………」
その件名は無題。
『Do you know that book? The grimoire in that world. The little devil who controls death. You are the only one who can find it. You are the only one who is not killed by that book.(あの本を知っているか?あの世界にある魔導書を。死を司る小悪魔を。探せるのは君しかいない。君だけはあの本に殺されないのだから)』
………本?
何を言っているんだ?
そのメールアドレスに返信してみる。
『Are you the enemy?(貴方は敵か?)』
これで返信してきた内容によっては、信じてみるか。
すぐにメールは来た。
『No, I am on your side.(いいえ、私は味方です)』
これでは誰かは分からないな。
『Who are you?(お前は誰だ?)』
『I am Babel.(私はバベル)』
「………バ、ベ、ル………?」
旧約聖書などに出てくる「バベルの塔」や、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの「バベルの図書館」が有名だろう。
『How do you know me?(何故俺を知っている?)』
『I am a library. There's nothing I don't know.(私は図書館。知らないことはない。)』
やっぱりバベルの図書館か。
『I have a request for you.(君に依頼がある)』
『What is it?(なんだ?)』
数秒後。
『I would like you to look into Dead of Grimoire.(デッド・オブ・グリモワールを調べてほしい。)』
『Grimoire?(魔導書?)』
NF、HFの両方にある魔法道具。
特定の魔法を封じ込めた本だ。
かなりレア度が高く、ダンジョンの最終報酬などで得られる。
だが、
『I don't know anything about Dead of Grimoire.(俺はデッド・オブ・グリモワールなど知らない。)』
『I'm sure you will.(そうでしょうね。)』
なんか小馬鹿にされた気がする。
『It is a grimoire that kills.(それは、人を殺す魔導書。)』
『Is that in the game?(それはゲームの中で、か?)』
キャラクターが死んでもコンバートが………。
『No. In reality.(いいえ、現実で。)』
『?』
あり得ない。そんなこと。
『In fact, there have been deaths.(事実、死者が出ている。)』
「⁉」
そんなバカな。
クロノス系列にそんなシステムは………。
『By illegal software(非合法ソフトによって)』
非合法………。
『Its name is Dead of Grimoire.(その名称が、デッド・オブ・グリモワール。)』
そして、一枚のスクリーンショットが送られてきた。
古びた本に羽ペンで何かを書き込む、フードの姿を。
『I need your help with an investigation.(捜査に協力してほしい。)』
『Who the hell are you?(貴方はいったい何者だ?)』
『Babel(バベル)』
そういうことじゃないんだよなぁ………。
バベルに依頼を受けて最初に受けた指示は、相棒と会うこと。
HFで待ち合わせらしいが………。
ダイブし、とあるカフェで待っていると。
「待たせたか」
「いや全然。………久しぶりだな、ゼオン」
「ああ」
あの時、天使奪還戦の時に協力してくれた男。
「…………少し付き合え」
「?」
ゼオンについて行くと、そこは決闘場。
また?
多いよデュエル………。
「ルールを決めさせてもらう」
「いいけど………」
「開始から五分間、互いに《剣技》と《闘気》の使用禁止」
「へぇ………」
純粋な剣の技のぶつかり合いか………。
「ゼオン、何故決闘を?」
「…………仕事仲間の強さを知りたいのは当然だろう?」
「そりゃそうか」
俺は神威のみを両手で握る。
ゼオンは二刀一対の夫婦剣を。
「準備はいいか?」
「ああ」
Lady――――――――――Fight!
「雷帝二刀流」
「飛天一刀流」
「「参る!」」
これは、俺の今までの経験と、英雄剣術を融合することで生み出した流派。
飛天一刀流
「〝竜廻(リュウカイ)〟」
つま先に力を伝え、素早く接近する。
「!」
そして身体を捩じり回転と共に水平斬りで斬りかかる。
「〝雷牙(ライガ)〟」
片手曲刀の二本で受け止められる。
「…………流石に剣は上手いな!」
「皮肉か!」
飛天一刀流
「〝居合領域〟!」
全神経を2~3mに集中し、構える。
「〝虎徹〟!」
突進攻撃。
「そこだ!」
大きく振り上げ、一撃にのせる―――!
「〝雷閃(イカズチノヒラメキ)〟!」
素早く振り下ろし、二刀を押さえ込む。
「やるな………!」
「はぁあああ!」
渾身の一撃で剣を弾く。
「せあっ!」
跳躍し、全体重を乗せた一撃。
「〝烈牙撃衝(れつがげきしょう)〟!」
「危ないな」
ゼオンがいた場所には切れ目が。
「私も、本気の絶技を」
目を瞑り、神経を目覚めさせる。
「天ヲ舞ウ鷹」
ダン!大きく踏み込み。
「地ヲ駆ケル虎」
低い態勢で構え
「全ヲ進ム人」
二刀を力強く握る。
「今コノ時、天ヲ別ツ!」
一瞬、消えたように見えた。
「〝真・菊斬り六連〟!」
六連撃―――⁉
あの時見たものとは違うが、確かに同じ術理。
逃げ場がない。
全ての軌跡が退路を断っている。
ならば―――
飛天一刀流
〝龍流閃(りゅうりゅうせん)〟!
三連撃で迎撃。
放ち終わった瞬間に流れるように次の技に移る。
剣技では硬直があるが、ただの剣ではそれはない。
「〝竜撃閃〟!」
二連撃。
そして足を踏み込み、腰を捻り、右腕を引いた構え。
「〝竜牙〟!」
刺突。全身運動で放つ一撃。
結果、六撃全てが相殺。
互いに一歩引いた。
「剣の腕は互角か………」
ゼオンが言った。
俺はついて行くので精一杯なんだがな………。
だが、俺にも隠し玉はある。
ただ、まだ使わない。
まだ、その時ではない。
「はぁああああ!」
これは、この流派の旧式奥義。
「〝無限天竜閃(かぎりなきてんりゅうのひらめき)〟!」
突進剣。
合計数十撃にも及ぶ秘剣で、ゼオンを襲う。
「ならば私も―――――雷帝二刀流秘剣」
「―――――――〝雷槌終撃衝(らいついしゅうげきしょう)〟!」
戦争を終わらせる技、そうありたいと思い名付けた秘技。
二刀それぞれ一撃を放つ上段斬り。
「う―――おおおおおッッ!」
―――ガッ―――
―――止められた⁉
技の途中で止められた。
重すぎる。なんて膂力。無論硬直はないが、動けない。鍔迫り合いが続く。
「せあっ!」
「ぐおっ⁉」
右足でゼオンの腹を蹴り飛ばす。
技の空白。
「飛天一刀流――――――〝竜廻〟」
「雷帝二刀流――――〝雷裂〟」
回転水平斬りと上段二撃が衝突。
「―――はあっ!」
刃で二刀を受け流し、すれ違いざまに一撃を浴びせる。
「………飛天一刀流はそれぞれの技が二つ以上の理で成り立っている。それは竜廻も例外ではない。回転による遠心力による初撃。そして初撃の力をそのまま放つ二撃目。………これが二千年の重みだ」
「二千年………か。私の流派は千年………君の流派からすれば若いのだろうが、殺人剣としての誇りは、この剣にもある」
そこで五分経過。
「はあっ!」
ゼオンは剣を投擲する。
それを見て躱し、次に構える。
七つの剣を引き連れ、二刀を手に取るゼオンの技。
「剣滅眼秘技、〝菊斬り九連〟!」
菊斬り六連の強化技。
そして七つの剣は大太刀。
一撃の威力もかなり向上している。
「なっ―――」
俺が驚いたのは速度ではない。正確さだ。
九つの軌道全てが、俺の逃げ道を塞いでいる。
バックステップも無駄。
逃げ場なし。
ならば攻める。
正に脳筋思考。
だが、攻撃を超える防御なし!
〝飛天〟
空間を押し出し、斬撃を停止させる。
俺も最近気が付いたのだが、飛天に触れた物は時間の流れが遅くなるようだ。
想定通りゼオンの剣が止まった。
「銀河天文流抜刀術――――――」
〝王牙天翔〟
七つの剣を砕いた。
「…………そろそろ、終わりにしよう」
「ああ………そうだな」
最後に選んだ技は、それぞれの流派の奥義。
「雷帝二刀流秘剣――――――――――〝雷槌終撃衝〟!」
「飛天一刀流奥義――――――――――」
飛天一刀流の新奥義。
〝飛天〟を習得した時点では放つのに相当の負担がかかっていたが、今の状態なら。
これは〝飛天纏い〟を発動した状況で千にも万にも変化する斬撃を放つ技。
〝飛天〟を連続使用するのは空間を斬り続けるのと同義。
飛天纏いは通常一度の使用で十秒の持続限界がある。
それをフィジカルで取り払い、飛天一刀流の型と合わせるのが――――――――――――――、飛天一刀流・真之型
「――――――〝飛竜天絶剣(ドラゴニックブレード)〟!」
二撃を吹き飛ばし、両手上段斬りで決着。
≫流川よ。二刀流………だけではないな。………ユニークスキルなど何故つくったのだ?
ギルガメッシュの問いかけに、流川大智はこう答えた。
≫世界の攻略速度を上げるため、というのもあるけれどもう一つ、大切なことがある。
≫………ほう。
≫ユニークスキルはね、引き継ぎできるのだよ。
≫引き継ぎだと?
≫NF規格に開発された世界。いやオリジナルもそうか。ようするに、現実以外の世界全てでユニークスキルは機能する。
≫………そういう腹か。貴様、悪いことを考える。
≫ああ、最悪さ。私は、魔王なのだから。
≫だが、オレの二刀流、英雄之炎の力だけおかしいのはどうしてだ?
≫そもそも英雄之炎は私が組み込んだものではない。そして二刀流に関しては、《主人公》が持つように設定したからね。
≫主人公………とな。
≫そう。あの世界の強さは、反応速度と処理速度だ。世界のシステムを処理して自身の力として振るえる者に託すため、その二つの速度が最も速いプレイヤーに二刀流を設計した。
≫成程な。だが、もう一つ、二刀流で疑問がある。
≫何かい?
≫‥‥オレ、いやアルタイルが最後に放った《剣技》………二十六連撃のことだ。
≫そのことなら私も知りたいがね。私はこう考えているよ。あの技も、英雄之炎も、人の心が創り出した願いの結晶………〝希望〟だと。
≫………随分ロマンチストなのだな。………だがしかし、希望、か。
≫ああ、正にあの剣技は希望さ。まさか《ザ・プロメテウス》を超えるだなんて想像もしていなかった。
≫最上位剣技を超えた技、その名は?
≫そうだね………星を越えた剣戟、《スタートオーバー・エクストリーム》。なんてのはどうかな?
≫………貴様にセンスが無いのは分かった。
≫‥‥ええ?いいと思うけどなあ………
≫………もうそれで構わん。
≫それに希望というのなら、君の存在そのものじゃないのかい?
≫………何を馬鹿な。
≫だって二百年生きて、神威の中でも修練を続けるその決意。周りから見ればそれは希望以外の何物でもないよ。
≫そこまで大層なものじゃない。オレは、死んだ。
≫だからこそ、彼がいる。まだ先はあるさ。さあ行こう………《オリジナル》へ!
デュエルの直後、ゼオンと別れた。
次の指示まで何もないそうだ。
そこで俺は、ダンジョンに来ていた。
ステータスを上げるために。
NFとあまり変わらず、暗い洞窟。
壁全面が鈍い輝きを放つダイヤのようだ。
「さて………」
お出ましだ。
《リザードマン・ナイト》。
このダンジョンは全十階層で、今は八階層。
そしてこいつは、所謂中ボスだ。こいつを、片手剣で倒しきる。
ベールリオンを右手に握り、距離を詰める。
それが出来なきゃ、クリアなんて出来ない。
「行くぞ」
「グルワアァ!」
鎧を着た竜騎士が、長剣を振るう。
「はっ………」
呼吸と同時にバックステップで回避。
その直後にモーションを起こす。
片手剣四連撃技 《エクシア》
装甲の隙間に四撃を叩き込む。
刺突で盾を吹き飛ばす。
そこで騎士の剣を受けてしまった。
更に、
「グアァ!」
気合と共に、竜騎士が放ったのは
長剣上位剣技、《フォール・レア》
神速の上段斬り。
「やべっ…………」
それをベールリオンで受け止める。
「お………らぁ!」
流石に戦闘AIの学習が早いな………。
剣を下段、緩めに構える。
そこでやはり、竜騎士は突進剣技。
「そ、こだぁあああ!」
片手剣上位反撃技、《リバーサル》
大音響とともに長剣を弾く。
片手剣と大剣の違いは長さのみ。
威力か速さか、その差が、戦いを決める。
片手剣最上位剣技、《スターブレイク・ノヴァ》
長剣最上位剣技、《メテオクライシス・エグゼ》
「うぉおおおおおッッ!」
「グゥルワァアアッッ!」
途轍もなく重い一撃を四撃で受け止め、俺は硬直。
鍔競り合いを絶対に動かない硬直で守り切る規格外スキル。通称、《SSブロック》。
二秒の直後、俺はトカゲを蹴り飛ばした。
トカゲは胴体に打撃を受けたことにより硬直。
ここだ。
「………せぁあああああ!」
片手剣単発上段突進技 《ソニックスラスト》
「グガァァァァ………ぁあ………」
トカゲ騎士はポリゴンとなって宙に霧散。
そして俺は、先に進む。
トカゲ騎士を倒してすぐ、俺はボス部屋に直行した。
「よぉ………ボスさん」
部屋の中にいたのは、ミノタウロス。
デカい。十六Mってとこか。
「モォォォオオオオオ!」
大斧を両手に突進してきた。
それに対し、俺は右手に神威、左手にベールリオンを装備して対峙する。
真名解放
〝空虚之神(アクロノース)〟
〝永久之神(アザリート)〟
俺が発動するのは、二種類ある武器戦術の最終奥義の内の一つ。
「〝解放宣言〟」
闘気と武装が同期し、融合する。
「〝終末之二剣(ワールドスレイヤー)〟」
両腕を薄い鎧が覆い、二刀の周りに蒼炎が舞う。
「…………」
大斧を二刀を交差することで受け止め、弾き返す。
一歩下がった牛に、連撃で返した。
二刀流上位剣技 《スターマーク・リオネル》
「せぁああああああ!」
空間を舞う火花が連撃ごとに増えていく。
「フゴオオオオオッッ!」
憤怒の一撃が天から降ってくる。
「――――――――――《リバーサル・カウンター》!」
音と飛天で反撃する。
ガアアアアアアアン!
大音響で牛は麻痺した。
〝蒼炎〟
剣から溢れる炎を斬撃として放つ。
「〝蒼き残光〟」
炎を二つ、重ねて撃ち出す技。初撃を防いでも、その直後に二撃が襲う。
斧にひびが入った。
そこで俺は、集中を極限まで深めた。
「ふーっ………はーっ…………」
深く、深く、もっと………深く!
エクリプス
両目が赤く染まる。
世界が遅く見える。
そして………未来が舞う。
空間に映し出されたのは、この先にある無数の未来。
ここの可能性は、俺の手の中にある。
「…………未来は得た」
〝風刃装填(セット)〟、〝舞散之風刃(まいながらちるかぜのやいば)〟・〝下段〟
牛の右足を両断。
「〝飛竜天絶剣(ドラゴニックブレード)〟」
空を舞い、その軌跡を生み出す。
牛の周囲に漂う水色の斬撃。
「〝顕現(アクト)〟」
その言葉に、斬撃が牛に炸裂する。天叢雲剣の力を模倣した攻撃。
不安定な力の流れを、空間そのもので支配する。
空間支配斬撃。
飛天を表すなら、これ以上に適した言葉はないだろう。
斬った空間を支配する固有剣技(オリジンアーツ)。
俺だけの技だ。
そして空間そのもので武器を強化する応用技。
〝飛天纏い〟
漂う斬撃にも攻撃判定がある。
そのまま振り下ろせばただの斬撃が、二連撃となる。
「はあああっ!」
二刀を同時に振り下ろし、四連撃。
後ろに倒れた牛に対して、必殺の一撃を浴びせる。
「終わりだ」
二刀流上位剣技
「スターマーク・リオネル」
牛は無言で霧散。
ダンジョンクリア。ステータスが大幅に上昇する。
「…………帰るか」
ダイブ切断完了。
クロノスを頭から外し、ソファーでくつろぐ。
「…………」
窓から青空が見える。
俺は、本当に俺なのだろうか。
ギルガメッシュ、アルタイルに毒されているのではないか。
自分が自分だという、自信が持てない。
「クソッ………仕方がないとはいえ、記憶の継承なんかするなよ………」
昔の自分に文句を言っていないとやってられない。
不思議だ。二つの人格が共存しているかのような感覚。
二重人格、か。
「違うと言い切れないのが辛いな………」
ピロン♪
スマホに一通のメール。
「アリスから………?」
アリスは機体についているシステムでスマホを使わずにメールを送れる。
「なになに?」
『今すぐショッピングモールに来て』
「?」
何かあったのかと思い、俺は急いで準備して家を出る。
「事件は勘弁だぞ………」
徒歩五分のところを全力疾走により一分で到着。
えっと………どこにいるんだ?
「アル!こっちこっち!」
アリスが飛び跳ねながら手を振っている。
「おーう」
そっちに駆けていくと、アリスの後ろに人影が。
「えっ………シズク?」
そう、シズクがアリスの後ろにいた。
「二人とも、どうしたんだ………?」
「えっとね、たまたま近くで会って………」
「それでアナタと一緒にここをまわらないかって話になってね」
「あ、そういうこと」
―――うん、どゆこと?
どうしてそうなった、二人とも喧嘩しないよね?
無論それは口に出さない。
「あれ、セナさんは?」
「ああ、彼女は今日仕事。ライブがあるって」
セナはこっちで大人気アイドルだ。
「大変だなー」
まあ俺のこの状況も大変なんだけど。
そうして、俺の超ハードな一日が始まった。
◇◇◇
「彼、ホントに面白いよ」
そう言うのは、バベル。
彼女がどこにいるのかは、彼らしか知らない。
彼女が何者なのかも。
ただ、これだけは言える。
この女を敵にまわしてはいけない。
この女は監視カメラやネットすら操り、敵は個人情報を漏らされる。
だがその悪魔でも捉えられない天才がHFにいた。
◇◇◇
「この世には、何が必要か。この世には何が不要か。それを決めていいのは殺される覚悟がある者。僕は全てを壊す。………見ているかい、カナタ。僕はやり遂げるよ。必ず」
彼の手には、一冊の本が。
死統魔導書(デッド・オブ・グリモワール)
この本に殺したい者の名前を入力すると、詠唱が現れる。
その内容と長さは対象によって様々。
「この力で、僕は世界を平和にする」
◇◇◇
俺は今日一日、ずっとデートだ。
誰か、助けてくれ。
この状況で帰りたくない奴いるか?
自分の両腕に女の子が抱きついている。
そしてその二人が、火花を散らしているこの状況で。
さあ、修羅場を始めよう。
はいすんません。
調子乗りました。
この状況で〇ねとか思ったやつは心が狭いよ。
なぁ、おい。俺が今、どういう気持ちか分かるか?おん?
俺は今………めっちゃ気まずいんだよ!
「あのー二人共?なんで俺の腕に抱きついてるのかな?」
「えっ、駄目?」
「いいじゃない、減るものでもないんだし」
(色々減るんだよな。俺の耐久値………だって周り見てよ)
周囲の目が痛い。
だって他から見たら女の子二人を侍らせてるクズ男にしか見えないでしょ。
うん、今否定できないだろって思ったやつ、ちょっと痛い目見てもう。
無想之終焉(デラートイーア)で消してやるよ。
まあ、現実じゃそんなこと出来ないんだけど。
あくまで仮想世界でな。
「ねぇアル、あれ見て!」
「ん?」
アリスが指さしたのは、ジュエリー店。
なんでこのタイミングでジュエリー店空いてんだよぉ!
アリスとシズクに引っ張られ、入店。
終わったー。
財布とか感情とか情緒とか色んな意味でー。
俺の目に留まったのは、二つの指輪。
宝石は青で同色だが、リング部分が金と銀で異なっている。
アリスとシズクが店をまわっている内に会計を済ませた。
神速。
まあ、額がえげつないが。
金貰っててよかったー………。
「うーん、どれがいいかなー」
「これなんてどうかしら」
「あっ、いいね!」
二人も会計を済ませたようだ。
「お待たせ―‥‥って、アルどうしたのその袋」
「…………ほい」
袋から箱を取り出し、二人に渡す。
「えっ‥‥嘘‥‥」
「指輪‥‥」
「似合いそうだと思って、買った」
「…………ありがとう、アル!」
「大事にするわ」
その直後、二人が持つ袋が目に留まった。
「二人は何を買ったんだ?」
「はい」
「開けてみて」
見覚えのある箱の中には、青い宝石に黒いリングの指輪。
「…………考えることは一緒かよ」
「そうみたい」
「‥‥ふふっ」
指輪をそれぞれ指に嵌める。
どの指かは察してくれ。
この時、指輪の宝石がキラリと光った。
「さて、次行きましょう」
「えっ」
「行こう行こう!」
「ウソだろ‥‥」
まだ続くのぉ⁉
えーっと、財布‥‥ヤバい。
俺の金よ、さようなら。
俺は二人と家に帰っていた。
‥‥俺の家だよ。
なんでアリスだけじゃなくシズクまで‥‥。
「なあシズク、なぜに我が家に‥‥?」
「あら、お母さまから聞いてない?私とセナさん、しばらくここでお世話になるわよ?」
「はぁ⁉」
「えぇ⁉」
聞いてねーよ⁉
「まあセナさんはライブツアー明けからみたいだけど」
「なんでそうなった⁉」
「前に泊まった時にお母さまに提案されたのよ。うちに来ないかしらって」
母さん何やってんだぁ!
「え、母さん真面目に?」
「ええ」
「超真面目で⁉」
「ええ」
「嘘だろぉ‥‥」
もう母さんを止められない‥‥。
「えーっと、シズクはそれでいいのか?」
「どういう意味?」
「あー、俺と一緒に暮らしていいのかって‥‥」
「いいに決まってるじゃない」
その時、俺の腕が引っ張られた。
「アルは渡しません。私たちを見て嫉妬してなさい」
アリスはキッパリと、力強く言った。
それに対しシズクは、
「望むところよ。貴女こそ、嫉妬で狂わないようにね」
火花が散る。
この空間で二人の精神がぶつかり合う。
「えっとぉ、二人ともこの前のでそういうの落ち着いたんじゃあ‥‥?」
「何のことかしら?」
「停戦すらしていません」
「「徹底抗戦。争奪戦よ」」
うん、何を争奪しているのかは聞かないでおくよ。
「まーしょうがない。シズク、部屋はどうする?」
「えっ?」
「…………えっ?」
「勿論アナタの部屋で過ごすけど‥‥」
何が勿論なんですかねぇ⁉
「えっと、それは、流石に――――」
「前にも寝たじゃない」
―――そういやそうだったなぁ⁉
俺のパーソナルスペースが………。
「それに、アリスさんとは今でも同じ部屋らしいじゃない」
「どこ情報だそれ⁉」
「お母さま」
母さん!
本当に俺の個人情報‥‥まあ俺だけじゃないけど簡単に漏らしすぎだろ!
「私から聞いたのよ」
「連絡先でも交換してるのか‥‥?」
「? 当たり前じゃない。勿論アナタの電話番号、メールアドレスも」
「なんだって⁉」
もうどうでも良くなってきた。
「あー。もう行くとこまで行ったなー‥‥」
「何なら、私と生きる?」
シズクは左手の指輪を見せながら言った。
アリスは神速で反応し、
「私がアルの嫁になるんです!」
「戸籍を取ってから言いなさい」
「うぐぅ!」
アリスにクリティカルヒット!
「‥‥アルは渡しません!」
「コッチの台詞よ」
いつか、この修羅場に慣れてしまう日が来てしまうのだろうか。
シズクが我が家で暮らすことになった。
結衣さんもだ。
「…………どうしてこうなったかなぁ‥‥」
ふと視界にクロノスが入り、それを頭にかぶる。
「ゲート・オープン」
≫一件のメールが届いています。
メール‥‥バベルか?
「…………シズク?」
どうして‥‥?
普通に現実で―――いや、もしかしてあいつ、俺の部屋でダイブしてるんじゃ―――――。
その考えを振り切り、メールに中身に目を通す。
『今すぐ煉獄の十階層に来て』
煉獄は俺が前に戦ったダンジョン。
「なんで今‥‥?」
ボス戦で苦戦しているのか‥‥?
◇◇◇
そこで見た景色は、血の気が引くものだった。
「うおおおおッ!」
「せえええええいっ‼」
そこでは、二つの団体が殺し合っていた。
「なんだよ、これ‥‥」
唖然としていると、後ろから
「アルタイル、来てくれたのね」
「すまない、またお前に縋って」
「‥‥シズク、エイル‥‥」
二人だけが冷静だった。
「どうしてこんなことになったんだよ!」
驚きながら問い詰めると、エイルが口を開いた。
「…………このボス戦は、一つのギルドしか入れないんだ‥‥!」
「なん、だと………?」
ボスを最初に攻略した戦いのラストアタッカーには特別なアイテムが与えられる。
ラストボスなら尚更だ。
「くそっ‥‥なんて性格の悪い運営だ‥‥」
「まったくよ‥‥」
「それで、俺に止めてくれってことか?」
「ええ、アナタはどこにも所属しない第三勢力。問題にはならないわ」
「そうか‥‥」
なら―――――――
「鎮圧開始だ」
片手剣最上位剣技 《スターブレイク・ノヴァ》
流水剣〝河川敷〟
竜剣〝竜廻〟
飛天一刀流〝羅刹〟
範囲縮小〝飛天〟
これらを一瞬で、全て放ち切る。
「これでいいか?」
背中に大剣を納めるのと同時に、ギルドは地面に倒れた。
「…………一応精鋭なのだけど………」
「ああ」
「そうなのか、それはすまないことを‥‥」
倒れているギルドメンバーを見渡す。
VR内で気絶すると、十分後に意識が覚醒する。
「なあ」
俺から切り出す。
「俺達で攻略しないか?」
「…………」
「…………」
「「それだ(よ)!」」
数分後、門の前に立つ。
「行くぞ、準備はいいか?」
「ええ」
「ああ」
ルール
最終階層に入れるギルドは一つのみ。
ただし、ソロプレイヤーはその限りではない。
シズクもエイルも、一時脱退を決意した。
その死神の門が、ゆっくりと開く。
《The Ded Rain》。
大鎌を持った死神。
―――――――血の雨、か。
◇◇◇
「せああああああッ!」
「ハアアアアアアッ!」
「せえええええいッ!」
片手剣上位剣技 《プロミネンス》十連撃。
細剣上位剣技 《プレメント・アクセント》八連撃。
大剣上位剣技 《アトレンク・クラーディング》単発上段斬り。
敵の腹に連撃を叩きこむ。
八層のダンジョンモンスター全てを足しても、こいつには及ばないだろう。
‥‥こうなったら―――――――、
(やるしかないのか‥‥)
もう一度、人前で《二刀流》を使うのは‥‥嫌だった。
「剣神解放(エクシア)」に統合されても、二刀流だけはユニークスキルとして残っている。
「っ‥‥」
「きゃっ…………」
この間にもシズクとエイルが。目の前で、いや、俺と共に戦っている。
もう、迷ってはいられない。
思えば《二刀流》を初めて大衆の前で披露したのはディオンとの決闘の時だった。
今は、状況がまるで異なる。
しかし、誰かのために力を使うのは、まったく同じ。
《神約》が最強の防御だというのなら、《二刀流》は最強の攻撃。
「…………っ!」
ストレージからベールリオンと神威を実体化。
大剣を地面に突き刺し、代わりに二刀を装備する。
神経を《二刀流》特化に変更。
頭で高速戦闘スイッチに切り替える。
思考が加速する。
今もアリスとシズクが剣を捌いている。
「…………うぉおおおおおおおッ!」
エイルが大鎌を弾いた瞬間。
俺はこの世界で初めて、二刀流スキルを人前で使う。
「せぁあああああああああッ!」
二刀流突進技 《デュアルレイザー》。斜め下からの突き上げ。左で突いた後、時間差で右を放つ。
「二刀流‥‥⁉」
「アルタイル‥‥やはりか‥‥」
ここに、HF最強の二刀流剣士が現れた。
「二刀流の‥‥黒き剣士‥‥」
シズクの呟き。
「行くぞ‥‥」
《スターマーク・リオネル》連続十四回攻撃―――。
閃光と火花が空間を灼く。
連撃が、その骨を砕く。
《二刀流》
このスキルは最速の反応速度を持つ人間に宿る。
そしてNFでは、真の勇者の役割を与えられた。
「俺は‥‥負けない!―――――――負けられないんだぁ!」
十四連撃目の右上段斬り、頭蓋骨に大きなヒビが入った。
「…………凄い‥‥」
「アルタイル‥‥」
俺は死神から距離を取った。
その技を放つために。
二刀流剣技は、唯一無二の個性を持っている。
通常、スキルはステータスにより威力は増減しない。
元々会得したレベルのまま、威力は変わらない。
しかし二刀流は、それに当てはまらない。
敏捷度、筋力、それによって威力は増大する。
無限に成長し続ける剣技。
思い切り踏み込み、突進する。
「――――――‥‥ぁぁぁあああああああああッ!!」
二刀流最上位剣技 《デュアルイーター》。
接近し、腕をXにした状態から斬り開く。未来を切り開く一閃。
「‥‥せ、ぁあああああああっ!」
死神は、ポリゴンとなって霧散。
しかしその後だった。
世界が終わり始めたのは。
≫ダンジョンはクリアされました。
「よし!」
≫クリア報酬が開始されます。
「…………開始?」
「どうしたの?」
「いや、クリア報酬が開始って―――」
ザッ――――――
「やあ、久しぶりだね。アルタイル君」
「なっ――――よう‥‥流川‥‥」
そう、空間の歪みから現れたのは、流川大智だった。
「流川⁉」
「何故―――」
「まあまあ、落ち着き給え。私はアルタイル君に用がある」
そして、流川が話す。
「ダンジョンのクリア報酬だ。私たちと戦ってもらう」
「たち、だと?」
「オレとだ」
金髪赤眼の英雄王、ギルガメッシュ。
「ギルガメッシュ‥‥」
シズクもエイルもこいつを見たことがある。
「お前たちと戦えってことか。不利にも程があるな」
「貴様に有利な戦いなどあの世界であったのか?」
「…………それを言うなよ」
しかしそこで終わらなかった。
「貴様に言わなければならないことがある。貴様はこの世界で死ぬと現実で死ぬ」
「…………は?」
‥‥死ぬ、だって?
バカバカしい。
いや。
俺の記憶を刺激したのは《死統魔導書(デッド・オブ・グリモワール)》
シズクとエイルから血の気が引く。
「‥‥どうせ、お前たちと戦わなきゃいけないんだろ?」
「当然だろう」
「…………分かった。やってやるよ」
「待って!」
俺を制止したのはシズク。
「アナタ、本気で行く気⁉」
「ああ」
「相手はあのギルガメッシュよ⁉アナタが一番、その強さを分かっているでしょう!」
「…………そうだな」
「…………私の目を見て!」
はっとしてシズクの目を見つめる。
「…………アナタが死んだら、私はどうしたら‥‥!」
「死なねぇよ」
シズクの頭をポンポンと撫でる。
「…………アルタイル」
「エイル、後は頼む」
「…………了解した」
もう一度、ギルガメッシュに向き直る。
「覚悟はできたか」
「もちろんだ」
「では、行くぞ」
異空間への門が開く。
そして俺達三人が入るとその扉は閉まり、その場に残った。
扉に文字があった。
『無限の絆持ちし者、回廊を打ちこわし、願いから始まる未来への青薔薇を咲かせん』。
◇◇◇
―――俺は、神威とベールリオンを構えた。
ギルガメッシュ、流川はそれぞれ見たことのない武器を。
俺とギルガメッシュは同時に走り出した。
「うおあああああッ!」
「…………」
奴は無言で俺の剣を捌く。
今まで通りの剣戟ではこいつには通用しない。それだけは分かった。
(もっと、もっと速く――――!)
二刀流上位剣技 《スターマーク・リオネル》十四連撃。
ギルガメッシュと俺が同時に放った連撃は、空間に火花を生んだ。
閃光が散り、世が照る。
「遅いぞ、下郎」
「なっ―――」
ギルガメッシュの十四連撃目、ワンモーション遅れる上段斬りの軌道が俺とは違った。
これでは相打ち。
奴のHPが分からない以上、危険を侵すわけには――――、いや。
(だからこそ、ここでやるんだ――――!)
十四連撃目の上段斬り、それは互いの身体にヒット。
しかし、どちらも死ななかった。
「心配して損したぜ‥‥!」
「ぬかせ!」
硬直が終了した瞬間、互いに攻撃を再開した。
「はあああああああっ!」
「――――――…………!」
今度も奴は無言の気合を込めている。
速く重い連撃。
(ここで、お前を超える――――‥‥!)
(やってみろ、俺(オレ)―――――!)
「「らああああああああああッ!」」
二刀流最上位剣技 《ザ・プロメテウス》連続二十五撃。
あの世界最強の必殺剣技。
絶対に殺す。
神すら殺す。
真の殺人剣。
二十五撃目、左刺突。
今度こそまったく同じ軌道。
刀と剣の先が衝突する。
「くっ‥‥!」
「っ‥‥‥!」
互いに後ろに吹き飛んだ。
そして俺達は、他のスキルを使うことにした。
「クソッ!」
扉の向こうでは、エイルとシズクが。
「どうやったら、助けに行ける‥‥!」
ヒントは門に書いてある文言のみ。
絆‥‥アルタイルとの絆‥‥
それを見て、シズクは魔法を唱える。
「フォーレルメン・アノークライ・レンフォー・アールレイ・オールレイ‥‥」
「まさか、お前‥‥」
基本属性魔法は日本語‥‥というか、術者の母国語で発動する。
しかし、それに当てはまらない魔法属性がある。
「空間属性‥‥」
空間系の術者は極端に少ない。
何故なら、エクストラスキルと同程度の会得難易度だからだ。
それに習得方法不明。
もうユニークと遜色ない難易度。
それを目の前でやられたのだ。エイルは驚愕した。
いや、それ以前に。
(誰を呼ぶ気だ‥‥?)
空間魔法‥‥この状況なら転送・転移魔法だろうか。
それには二通りある。自信を指定した場所に転送する魔法。そしてプレイヤーを自身の座標に呼び出す魔法。今なら恐らく後者。
「カノードル・エクリーフ・プラフィード・プレイアード・フォーム・アート・アールラ・カリーナ」
長い。それ程に空間操作は大変なのだ。
それを簡単にやってのけるアルタイルの飛天は、まさに〝規格外〟。
「アールレイ・クラーフラ・アーレクス・フォー・アー・」
後はプレイヤー名を言うだけ。
「アリス」
一瞬の光の直後、シズクを剣が襲った。
「いっ⁉」
「え、シズク?」
「貴女わざと⁉」
「いいえ、今モンスターと戦っていたの。で、呼び出すとは何事ですか?」
シズクは簡潔に状況を説明した。その説明が終わるや否や、アリスは剣で扉を攻撃し始めた。
扉にはドアノブすらない。
先に進むために出来ることは破壊のみ。
それは二人にも分かっていたこと。
だが、扉は傷一つつかない。
「硬すぎる‥‥!」
アリスは《コスモスター・レスティング》を放つが、結果は同じ。
「くっ‥‥」
「貴女でもダメなの‥‥?」
(アリスさんの絆でもダメなら、いったい誰が――――)
絶望の中。
足音が五つ、その場に向かっていた。
◇◇◇
「増援は来ないみたいだね。アルタイル君」
俺達の戦いを見ている流川がそう言った。
「うるせぇ‥‥黙ってろ‥‥」
そうはいっても、俺はもう限界だ。
戦いは拮抗していても流川にまで気を向けていると、あっという間に接近されてしまう。
「お前に絆を持つ者などいなかったようだな」
「いるさ‥‥《あいつら》が!」
「あいつら?」
◇◇◇
「どうしたら‥‥」
「らしくねーな、アリス。お前は何事も諦めないんじゃなかったのか?」
「えっ‥‥あ、あ、あぁ‥‥アース!」
三人が後ろを振り向くと、五人の男たちがいた。
「優也君!」
「アリッドです、シズクさん」
星川優也=アリッド。
「ディオン‥‥クリンス‥‥」
「初めましてだね、エイル君」
聖騎士ディオン
「お父様‥‥!」
「久しぶり、アリスさん」
星川紘一=ゼン
「カインさん!」
「よっ、アリスの嬢」
旅月カイン
「安心しろ、少年少女!俺達が来たからには、あのカッコつけ野郎を死んでも助ける!」
カインの言葉にアリスとシズクは大粒の涙を流す。
「そうは言っても、どうやって扉を壊すつもりだ」
そう問うのはエイル。
「俺達はアイツとの絆が誰よりも深い。俺達に壊せねぇ訳はねぇだろ」
根拠のない説明。だがどこか説得力がある。
「行くぜ、皆さん!」
「おう!」
「ああ」
「はい!」
「了解した」
孤月弐式・破龍裂槍(ハリュウレッソウ)!
流水之宝剣・天礫太憐衝(テンレキタレンショウ)!
新約 《バティリア・アクロフォース》
奪命・血裂(ブラッドストライク)発動 短剣最上位剣技 《エタナリィ・アポフィナシリー》
星天流奥義・天牙天穿(テンノキバハアマヲウガツ)
それぞれ人類の最高峰が放つ、最強の技。
それに絆が宿り、扉は砕かれた。
◇◇◇
ドゴン!七色の光が侵入してくる。
無限を隔てていた扉が砕けた。
「アル!」
「助けに来たわよ!」
「えっ―――――――くくっ‥‥遅ェぞ。みんな」
「‥‥アル坊、まぁその‥‥なんだ。‥‥久しぶりだな」
「おう」
「流川は私たちに任せてくれ」
「――――――任せた!」
余裕が出来た心のまま、ギルガメッシュに斬りかかる。
「まさかここまで多いとはね。幼稚な絆を持つ者たちが」
アリス、シズク、エイル、ディオン、アース、アリッド、ゼン、カインは声を合わせて、
「勘違いするな!」と叫んだ。
それは怒号に近い。
「「私達は愛を教えてもらった!」」
「希望となって共に戦ってくれた!」
「よい友(ライバル)になってくれた!」
「死に絶えるはずだった流派を繋いでくれた!」
「今まで数えきれないほど助けてもらった!」
「私達のもとに生まれてきてくれた‥‥すくすく育ってくれた!」
「一番の‥‥親友になってくれた!」
もう一度声を合わせて、
「テメェ(貴方)(君)(アンタ)にとやかく言われる筋合いはねぇ(ない)!」
各々、自身の最強技を構えた。
細剣最上位剣技 《コスモスター・レスティング》
波動細剣最上位剣技 《ウェーブ・アクリフォリス》
弧月壱式奥義 〝幻想龍戟衝(ゲンソウリュウゲキショウ)〟!
流水之宝剣 〝天礫太憐衝(テンレキタレンショウ)〟!
神約剣技 《ガーディアン・ザ・ブレイバー》
錬成武装 《エタニティセイバー》鎧モード・〝星斬(ほしぎり)〟!
星天流 〝新河流星(シンガリュウセイ)〟!
星天流奥義 〝銀河光星断(ギンガコウセイダン)〟!
対する流川は、
「《剣神解放(エクシア)》発動」
ザ・プロメテウス
全員が跳躍し、空中で剣を交えた。
「アリス‥‥!」
「さよなら!セイッ! シズク!」
「任せて!はあっ! エイルさん!」
「了解した。機外装・星斬! アース殿!」
「はい!〝天礫太憐衝〟! ディオン!」
「承けたわまった。せあっ! 弟君!」
「任せて下さい!‥‥兄さんをと僕たちの絆を‥‥舐めるなぁあ! 父さん!」
「ああ。‥‥息子とその嫁さんが大変世話になったみたいじゃないか。これはお礼だよ! カイン君!」
「最後の大トリは俺だぁ! ここで終わらせる‥‥テメェの‥‥テメェらの物差しで‥‥俺達の絆をはかるんじゃねェ!」
「ぐああああっ!」
流川は地面に倒れる。
◇◇◇
「…………バカども‥‥」
(‥‥泣かせんじゃねェよ‥‥!)
俺とギルガメッシュは互いに空中で制止した(空を飛べるのは炎翼のおかげ)。
「「〝心象転写〟」」
俺達は同時に同質の世界を展開。
「〝魂剣之終末(ソード・オア・ザ・ソウル)〟」
剣が互いの背後に出現する。
「行くぜ‥‥―――――ギルガメッシュ!」
「来い―――――アルタイル=アリエル!」
突進し、背後の剣を射出。
そしてその隙に闘気を高める。
「はあああああ‥‥」
ギルガメッシュは右手の剣だけで数本を防ぎ、同じように闘気を高めた。
「――――――《竜牙突撃(ドラグストライカー)》!」
最高峰の刺突同士が衝突する。
「はあっ…………!」
「くおっ…………!」
また互いに吹き飛ぶ。
「もう何回目だよ‥‥!」
「知らん。数えてない」
(どうする‥‥俺にあって奴にないもの‥‥――――あるじゃないか。《無想者》が)
「ここらで決めるぞ、下郎」
「ああ‥‥終わりにしよう」
銀河天文流奥義 《天牙流星(テンガリュウセイ)》!
「お前、これは持っていないだろ‥‥!」
【無想之剣(アストラルブレード)】!
「双方そこまでに!」
「「!」」
俺達を制止したのはエンキドゥ。
「お前、なんでアバターを‥‥」
「少しプログラムに穴を開けてね。時間がかかったけども」
「それで応答がなかったのか‥‥!」
「エンキドゥ」
「…………久しぶりだね。ギルガメッシュ」
「…………何故止めた」
「逆に聞くけど、二人の旦那が殺し合っているところを止めない嫁がどこにいるんだい?」
「…………それに、敵は別にいるだろう?」
「敵‥‥だと?」
「バベルと死統魔導書(デッドオブグリモワール)の所有者、だよ」
「⁉」
なんだって‥‥?
「エンキドゥ、それはおかしいだろ‥‥バベルは俺に情報を提供してきたんだぞ?なんでソイツが敵になるんだよ‥‥」
「情報提供の理由は?」
「!」
「そう、彼女に情報を渡す理由はない。それに正義感からだとしても、君ではなく警察に伝えるはずだ。なのに彼女は君とゼオンに接触した。‥‥何故だと思う?」
「…………まさか…………」
ギルガメッシュが顔に怒りをあらわにした。
「ギルガメッシュ、君の予想通りだよ。バベルと《バルバ》はゲームをしていたんだ」
「バルバ?」
「死統魔導書の所有者だよ」
「エンキドゥ、その情報をどこから…………」
「さっきシステムに侵入したと言っただろう?その時ログを見つけたんだよ。彼らのメッセージログを」
「そういうことか…………エンキドゥ、一つだけ答えろ」
「何だい?」
「敵はどの方向だ」
「東と南に一人ずつ」
ギルガメッシュは世界から剣を取り出した。
神威
「まさか世界に二本同時に存在することがあるとはな」
「これも運命だろ」
真名解放・空虚之剣(アクロノース)
「ビルガメス・アヌ」
空間を裂く最強の切断技が、陰に隠れていた二人を襲う。
「くっ…………」
ソイツらは防壁を張ったが、即座に砕けた。
壁に衝突。
「…………バベル、バルバ」
俺がそう呼ぶと、女性――――バベルが応えた。
「やあ、…………初めましてだね…………アルタイル君…………」
「何故こんなことをした?」
「何故、だって?」
「お前らはいったい何人殺した!」
「五十七人」
バルバが簡単にそう言ってのけた。
「…………なんでだ!何故できる!」
「正義の為」
「正義だと…………⁉お前らのどこに正義があるってんだ!」
「犯罪者を殺した」
ドゴッ――――――、一発。バベルとバルバの腹に鉄拳が入った。
「悪い、アル坊…………警察としてコイツら見過ごせねェわ」
「同じく」
カインと師匠は警察官だ。
因みに師匠が警視長。カインは警部。
「僕たちの何がおかしい!犯罪者を裁いて何が悪い!」
「お前たちはただの快楽殺人者だろ。要するに犯罪者なんだよ」
「何を――――!」
「お前たちみたいな勘違い野郎を裁くのも、警察…………つうか裁判所の仕事だ」
この世界では逮捕出来ないが
「もうお前たちの部屋に同僚が向かってる。諦めるんだな…………あほんだら」
しかし
「まだ…………まだだ…………!まだ終わってない!」
「なに?」
「この本で終わらせる!」
バルバはその手に握られた本に文字を入力した。
アルタイル
その本に文字が浮かび上がった。それを読むことで対象を殺せる。
「なんだこれ‥‥読めない‥‥長すぎる‥‥!」
そう、まさに異世界語といえる文章。
「アル」
「アナタ」
「「私たちに任せて」」
「頼む。シズク、アリス」
「行くわよ?」
「ええ」
二人は呼吸を合わせた。
細剣限界突破剣技 《フリューゲル・ストリーム》
「嫌だぁアアアアア!」
「きゃああああああ!」
合計四十連撃にも及ぶ刺突が、バルバとバベルを殺した。
二人は強制ログアウト。戻った瞬間逮捕されることだろう。
「終わったな」
「ええ」
「うん」
「アルタイル」
ギルガメッシュに向き直る。
「最後に話がある」
「…………分かった」
ギルガメッシュに向き直る。
「それじゃあ、あの場所がいいよね?」
流川が指パッチンすると、世界が消えて空白が残った。
「二度目だな、ここに来るのは‥‥それで、何なんだ?ギルガメッシュ」
「…………」
ギルガメッシュは言いにくそうな顔をする。
「はやく言っちゃいなよ。融合して元に戻りたいって」
そう言ったのはエンキドゥだった。
「何を言っている、エンキドゥ!」
「だって、あからさますぎるでしょ。旦那様(マスター)の敵対心を煽って戦うだなんて‥‥勝って止めてくれって言っているようなものじゃない。‥‥もしかして君、ヤンデレ系ヒロインだったの?」
「プッ…………」
「くくっ‥‥」
「ひひっ」
俺以外のみんなが笑いを堪えて腹を押さえる。
「ええい黙れ!‥‥ああそうだ!オレはお前と同化する!」
「…………分かった。来い」
「随分と軽いな」
「もう慣れたよ」
「慣れたくはないな。そんなこと」
「…………共有したいことはいっぱいあるよ‥‥本当に‥‥たくさん‥‥」
「………では、またな。下郎」
そう言ってギルガメッシュは消えていった。
「次は私の番だね」
流川大智。
「まだ何かあるのか?」
「酷いじゃないか。僕にだってあるさ‥‥君に伝えたいこと‥‥それは――‥‥アリスを頼んだよ」
直後に奴は消えた。
そして呆気にとられた心を戻してアリスの表情をうかがうと、その顔は唖然としていた。
親父が口を開く。
「あの男にとって、アリスさんは娘のようなものだったのだろう‥‥‥そしてこうも言いたげだった。『ごめんよ』と。」
「…………!」
アリスの瞳に涙が浮かんだ。その姿は父との別れを悲しむ子供のよう。
そしてアリスが泣いた理由はもう一つ。
《ニューワールド・ファンタズム》の世界はもうないと実感したからだ。
アリスにはあの世界で仲のいい人が大勢いた。その中にはNPCもいただろう。
「‥‥うっ、うぅ‥‥」
「アリス」
「アル‥‥――――‥‥うわぁああああああああ!」
アリスは俺の胸の中で泣いた。
大きな声で。こういう姿を見るのは初めてだな。
そしてまた、一つの世界は消えていく――――――――――。
ピコン。
≫一件のメールが届きました。
――――――お前の脳にオレ達の最大戦闘能力に耐えられるよう、一つの力を与えた。
その名は―――――
《神加速方法(アルティメットアクセル)》
究極の神速‥‥か。
無論肉体上限のないフルダイブ空間でしか使用できないが一瞬だけなら―――いや、考えないでおこう。
その能力は名前の通りあらゆる速度を究極の神速に加速する能力。
仮想体(アバター)の基本速度を上昇させる《ソニックアクセル》。
思考速度を一千倍に加速させる《ブーストアクセル》。
この二つを融合した本当の神速。
―――――これでやっと、アリスとシズクに追いつけるかな‥‥。
剣速で言ったら俺は二人の足元にも及ばない。
俺はほら、色々チート使ってるし。
《二刀流》とか、《アクセル系統》とか、〝飛天〟とか。
◇◇◇
「…………」
帰ってきた‥‥この世界に。
「アル」
「アナタ」
「ん、どうした? アリス、シズク」
二人は身体をもじもじとしながら‥‥。
「「…………膝枕、してくれない?」」
「⁉ ふふふ二人とも何言ってんだ⁉」
「ちょっと、ね‥‥」
「おねがい」
「…………あー、んー‥‥今回だけだぞ‥‥?」
二人はコクコクと頷いた。ソファーに座る俺の膝元に、二人の頭が預けられる。
「…………どうしたんだ?‥‥二人とも」
「…………怖かったの」
「何が―――――あっ」
「ギルガメッシュが言っていたじゃない、死ぬって‥‥」
「いや多分、あれはハッタリ‥‥だと思うけど‥‥いや、そうだと信じたい‥‥」
「それでも、アルが死ぬんじゃないかって、怖かったの‥‥!」
「そうよ‥‥アナタ、自分が死んだらどうなるかぐらい考えなさい‥‥!」
ぐっとくるものを堪えて、
「…………ごめんな、二人とも‥‥」
「いいよ、このままいさせてくれれば」
「私も‥‥今日だけは甘えさせて」
「‥‥おう」
お帰り、俺の日常。
さようなら、寂しい人生。
さようなら、ギルガメッシュ。
さようなら、《父さん》、《母さん》、《爺ちゃん》。
そしてさようなら、《アリエル》。
俺の名前は、星川鉄也。
又の名をギルガメッシュ。
そして又の名を――――――――――黒き剣士、アルタイル。
(おわり)
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