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いつも通りみたいに
図書館を出るころには、もう日がくれていた。まずい、急がないとはち合わせるかもしれない。いつもより早足で歩く。けど、ぼくには体力がない。だから図書館に通いはじめたのに。
なにも変わったことはなかった。特にいじめられてるわけでも、友だちがいないわけでもない。ただ、五年生に上がったころから体調をくずしやすくなった。気持ちも暗くなってきて、なんだか笑えなくなった。理由はわからない。
スマホを見ると、おさななじみからメッセージがある。けど、開く勇気はない。きっともう、きらわれてしまっただろうから。だからこの通知は、ぼくを責める言葉ばっかりなんだ。だったら見ない方がいい。
学校に行けなくなってから、みるみるうちに体重が落ちた。もとから太くはなかったし、なんなら細い方だったと思う。あばらが見えるようになって、少しこわくなった。このままぼくは骨になってしまうんじゃないか。だから、運動をはじめたけど、続かなかった。そこでママが言った。
「図書館に通ってみれば?」
つまづいて転びそうになって、借りてきた本を守るようにしゃがみこむと、目の前にネコがいた。真っ黒の毛がふさふさで、夕ぐれみたいな瞳のネコ。
ぼくは、ネコが好きだけど、きらいだった。
見ているのは好きだ。かわいいから。でも近くにいることを考えるだけでトリハダが立つ。ぼくのペースを乱される未来しか見えないから。
それなのに、この子にはひかれた。ついて行かなきゃいけない気がした。ふわりとしっぽをふったネコは、とたとた歩いていく。とちゅう、スズの音が聞こえたようにも思えるけど、ネコが飼われててもノラでも、ぼくには関係ない。
足がからまりそうになりながら、置いていかれないようによたよた走る。と、だれかにぶつかりそうになった。
「おっと、ごめんなさ――ってあれ、ゆいと?」
「こ、幸志郎くん、ひさしぶり……」
目の前に現れたのはおさななじみの幸志郎くん。つり目でちゃきちゃきしてるのがこわいけど、本当はいいやつだ。ぼくみたいな人にもやさしくて、なかよくしてくれる。あと、「ぼくみたいな」って言うと怒ってくれる。
「なあゆいと、今ひま?」
「え」
「おれ今から公園行くんだ、いっしょに行かね? ほら、ちょうどボールもあるしさ!」
ぼくの体力が落ちたことに気づかないのか、なにも考えてないのか、幸志郎くんはぼくの手を引いて走る。いつも通りみたいに、走る。
たまにはより道も悪くないのかも。
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