緑竜

ジャングォルァ大森林はノイガー王国の南にあり、その自然豊かな森は緑竜から溢れ出す力によるものだと言われている。

 生命溢れる大森林は生き物達に分け隔てなく恵みを与えて、その命を育んでいた。

 それは魔物とて例外ではない。

 ジャングォルァ大森林に生息する魔物は他の地域の魔物より一回りも二回りも大きく、侵入者へ容赦なく襲いかかってくる。

 故にジャングォルァ大森林は自然豊かであるが人が足を踏み入れない未開の領域であった。

 そんな木々が生い茂る道なき道をメイクーンは兵士を引き連れて歩いている。

 途中何度も大型の魔物に襲われ、野営をしながらも緑竜に会うために前へ前へと進んでいく。

 メイクーンの直ぐ前を歩く騎士団長がメイクーンに声を掛けた。

「陛下、お疲れになりましたら直ぐに仰って下さい。いつでも休憩をとります」

「大丈夫だ。自ら行くと言ったのだ、足を引っ張る真似はしない」

 強気な発言をしているがメイクーンの体力の消耗は激しい。それでも弱音を吐けないのは王だからである。

 人を導く者は周りの人間を不安にさせてはいけない。それがこの部隊の士気に関わるからだ。

「分かりました、ですが無理をなさらずに」

「お前も大臣達と同じで心配性だな」

「陛下はノイガー王国の王なのですから当然でしょう」

 騎士団長の心配をよそにメイクーンは苦笑している。

 しばらく進んでいると先遣隊が戻ってきた。

「緑竜を確認しました。この先で寝ております」

 先遣隊の報告に部隊が緊張に包まれた。

 遂に緑竜と直接対面する時が近付いている。

「よし、行こう」

 メイクーンは覚悟を決めて歩み出した。

「陛下、戦闘に入りましたら直ぐに撤退して下さい」

「分かっている、竜と事を構えるなんてするわけない」

 先遣隊に案内され進んでいくと明らかに空気が変わったのが肌で感じられた。

 今まで魔物の鳴き声で騒がしかった森の中は静寂に包まれており、奥へ奥へ進むたびに大いなる存在をヒリヒリと感じる事が出来た。

 そして大きく開かれた空間に出るとその真ん中で緑竜がその巨体を丸めて寝ていた。

 緑竜はその名の通り緑色の鱗に覆われており、更にその上にはびっしりと苔が生い茂っていた。

 メイクーンや騎士団長、そして兵士達は足を止めた。これ以上近付く事が出来なかったからだ。

 誰もがその迫力に息を呑み、呆然と立ち尽くしていた。

「これが竜……なんて雄大な……」

 メイクーンがポツリと呟くと寝息を立てていた緑竜の体がズズッと動いた。

「何者だ?」

 ゆっくりとそして迫力ある声が森の中に響いた。その声を聞いただけで訓練されてきた兵士達は震え上がった。

 世の中には決して手を出していけない存在がいるのだと心で理解した。

 恐怖で立ち尽くす兵士を置いて、メイクーンは一歩前に出た。

「勝手に貴方の敷地に入って誠に申し訳ない。私はノイガー王国、国王メイクーン・ノイガー・キリリキーと言う」

 精一杯気丈に振る舞っているがメイクーンの声は少し震えていた。

「国王?こんな何もない奥地によく来たのう」

 緊張するメイクーンだが緑竜は穏やかに返答してくれた。その声は先程より柔らかな印象がある。

 緑竜はメイクーンに顔を向けた。その顔にも苔が生えており目元をすっぽりと覆っていた。

「歓迎の言葉感謝する。此度は偉大なる緑竜にお願いに参った」

「なんじゃ?この老ぼれに出来る事などありはせんぞ?」

「いえ、緑竜である貴方にしか出来ない事だ。我が国の隣国では今赤竜が王となり国を支配している」

「あの小娘か?フォッフォッフォッ昔から好きに勝手にしてる奴だが遂に王になったか」

 赤竜の名を聞いた緑竜は笑い、その巨体が大きく揺れた。揺れる巨大のから積もった葉っぱがバサバサと地面に落ちていく。

「その赤竜が貴方に会いたいと我が国に打診があった」

「打診?何故お前のとこに?好きに来れば良いじゃろ?」

「赤竜は今王として君臨している身、我が国としても好き勝手に国に入られては顔が立たないのだ」

「なるほど、それでワシを担ぎ出して会うのを許可する形にしたいのか。それならお主の顔も立つからのう」

「ご理解いただき感謝する。こちらとしても人間の勝手な願いだと重々承知している」

「構わんぞ」

「本当か!では赤竜に会う為に城に出向いてもらいたい」

 緑竜の返答にメイクーンは喜びを隠しきれなかった。後ろで控える兵士達の顔もパッと明るくなる。

「ああ、その前に長い事寝ていたのから腹が減ってのう、力が出んのじゃ」

「何か食べ物を獲ってくればよいのか?」

 食べ物くらい幾らでも貢ごうとメイクーンは考えていた。なにしろノイガー王国は自然豊かで食べ物には困らない。

「そうじゃなぁ……タイラントリザードでも食べたいのう」

 その名を聞いた兵士達の顔は明るい表情から一瞬にして曇った。メイクーンも取り繕っているが顔からは焦りの表情が滲み出ている。それでもメイクーンに拒否権は無い。

「タ、タイラントリザードだな分かった。直ぐに用意しよう」

 メイクーンは言葉に詰まりながらもこれを承諾した。

「助かる、では準備が出来るまでもう一眠りするかのう」

 それだけ言うと緑竜はまた体を丸めて眠ってしまった。

 メイクーンは後ろに下がると騎士団長が詰め寄ってきた。

「陛下本気ですか!タイラントリザードは災害級の魔物ですよ!」

「緑竜を相手取るよりマシだ。それに騎士団は赤竜を想定して訓練しているのだろ。タイラントリザードに遅れをとるわけにはいかない」

「確かに仰る通りです……」

「だが発言の責任は私にある。討伐には私も参加して士気を上げよう」

 メイクーン一行は緑竜の下を後にしタイラントリザード討伐に向かった。

 

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