ドラゴンとゴマスリ男

なぐりあえ

一話

急報

ここはノイガー王国。豊かな自然と広大な平原を持つ平和な国。

 人々は国王メイクーン・ノイガー・キリリキーの善政の下、笑顔に溢れ幸せに暮らしていた。

 しかしこの国にも大きな悩みの種があった。

 それは隣国のフーハイシティル王国との戦争である。

 フーハイシティル王国はノイガー王国の豊かな穀物地帯を狙い度々侵略を仕掛けてきた。

 歴史を振り返っても国境では大小様々ないざこざが絶えず発生し、その度に軍隊を派遣して収めてきた。

 つい先日もフーハイシティル王国から大規模な軍事侵攻が行われて、メイクーン国王はすぐ様兵を派遣し鎮圧した。

 勝っても何も得られず、しかし負ける訳にもいかない。ただ出費が嵩むだけの愚かな戦争である。


 メイクーン・ノイガー・キリリキーはまだ二十八歳という若さである。

 二年前、前王が病気で急逝し、後継者としてメイクーンが選ばれた。

 当時はその若さからメイクーンの手腕を不安視する声が大きかった。しかしその不安も批判も全てメイクーンは結果を出して払拭した。

 ノイガー王国の今の平和はこのメイクーン国王の努力に他ならない。誰よりも国の事を考えて、誰よりも働いた。

 

 今日もメイクーンは執政室でコツコツ働いていた。

 肩までかかる金髪を後ろで束ねて、書類仕事の邪魔にならない様にしている。

 メイクーンはペンを置きほんの少しの休憩に入った。天井に顔を向け指で目頭を押さえ、疲れた目をほぐしている。

「ふぅ、国境での争いも集結しこれで少しは楽できる。父上の急逝からゴタゴタもここ一年でだいぶ落ち着いてきた。仕事も昔程多くないし何とか山場は乗り越えたか」

 メイクーンは平和なひと時を満喫した。

 腕を伸ばして次の仕事に掛かろうとしたその時に廊下からバタバタと誰かが走ってくる音が聞こえた。

 王城でしかも執政室の前で走るとは余程の緊急事態である。

 メイクーンも身構えて扉が叩かれるのを待った。

 ドンドンと執政室の扉が叩かれた。それはいつもの雰囲気と全く違う。

「入れ」

 メイクーンが入室の許可をすると扉は勢いよく開かれた。入ってきたのは騎士団長だ。

 ――また戦争か……

 メイクーンは騎士団長の顔を見てため息を吐いた。メイクーンはまたフーハイシティル王国が侵攻してきたと考えた。

 だが騎士団長から知らされた内容はメイクーンの予想と大きくかけ離れていた。

「フーハイシティル王国が竜によって滅ぼされました!」

「何だと!」

「フーハイシティル王国の王城を襲撃して占領しております。まだ情報が錯綜していますがかなりの被害が出ていると。既に会議室に人を集めています」

「分かった直ぐに向かう。城の兵は竜の襲撃に備えよ。竜の気まぐれかもしれないがこちらに来ないとも限らない」

「はっ!直ぐに準備させます!」

 メイクーンは騎士団長と共に部屋を飛び出した。


 会議室の席には既に参加者が揃い全員座っていた。

 メイクーンが会議室に入ると一斉に立ち上がり頭を下げた。ここにいる全ての人間がこの国の中核を担い、メイクーンと共に王国を導いている人間である。

「顔を上げよ、それより状況報告を」

 メイクーンは足早にテーブルの真ん中の席に座った。

 一人を除き全員が座ると、立っている男が紙を手にして報告を始めた。

「本日の昼頃、突如フーハイシティル王国に住む赤竜が王城を襲撃しました」

 赤竜とはフーハイシティル王国にある山に住む竜である。古の時代、フーハイシティル王国の王が溜め込んだ財宝を山の洞窟に隠し、赤竜に守らせたとされている。

 だからこそ王族と関係性がある赤竜が城を襲った事がメイクーンは信じられなかった。

「本当に赤竜が襲撃したのか?何か別の魔物ではないのか?」

「城に降り立った姿を多くの者が目撃しております。間違いないかと」

「……そうか」

「国王の安否は未だ不明ですが、城から逃げてきた者の証言ではおそらく殺されたかと」

 隣国での問題は影響の大小はあるが必ずこちらのにも波及してくる。この前代未聞の事態にどの様な動きが起こるか予想が出来ない。

 それでも国王は指を咥えて傍観してはいけない。現状出来ることをやるしかないのだ。

 メイクーンは赤竜の影響で起こるとされる問題を考えた。

「まずは国境の警備を増やそう。多くの難民避難民が押し寄せるかもしれない」

 メイクーンの考えに多くの参加者が納得した。

 軍務大臣は立ち上がった。

「幸い、先の戦争で国境近くには兵士が駐屯しております。編成を変更し国境警備に就かせましょう」

 その後もメイクーン達は長い会議を行った。最後に全員が立ち上がりメイクーンの総括を聞いた。

「とにかく今は情報が欲しい。赤竜の生態、国内の状況、この問題は重要案件とする。皆はいつでも招集がかけられる様に準備をしてくれ。皆でこの国難を何としても乗り切ろう」

「「はっ!」」

 全員がメイクーンに頭を下げた。

 

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