第4話

 学生寮に引っ越してから学校の事や周辺の街を調べているうちに春休みも終わり、わたしは新しい制服に身を包み同じ制服の生徒たちが向かう高校さきへ流れるようについていく。


 今日から通う白鵬学院はくほうがくいんは中学から大学までの一貫教育の私立高で、外部受験も受け付けているけれどその合格率は一割未満だと言われている。


 そんなレベルの高い学校への志望動機が『新たな環境で一から人間関係ともだちを作っていきたいから』だなんて、純粋にここで学びたいと思っていても不合格になった人たちがいるのかと思うと少し罪悪感が沸いた。


 それも今更だと思い直して昇降口に張り出されたクラス表に従って自分のクラスへ向かう。


 辿り着いた教室の1-4プレートを確認してから中に入ると、各々談笑していたクラスメイト達が一斉にわたしの方を見てきて逃げ出したくなったけれど何とか踏みとどまり「おはようございます」と小さく挨拶してからそそくさと座席確認の為に黒板前まで行った。


「えぇと、わたしの席は……」


 自分の名前を捜していると、


「あなたが外部受験組の烏丸さん?」


「え? は、はい。そうですけど……」


 後ろから声を掛けられ、おずおずと答えながら振り返ると二人の女の子が立っていた。


 ポニーテールを揺らす勝気な瞳が印象的な子と、黒縁眼鏡でおさげ髪のいかにも文学少女って感じの子。


 失礼ながら正反対の二人組だなと思いながら何で声を掛けてきたのかと警戒していると、ポニーテールの子が笑顔で近付き急に抱き付いてきた。


「凄いよ! うちのガッコレベル高いじゃん? そんな中で部外者入試の上にで入学だなんて! マジ最強かって、感じで凄い!!」


「え? そ、その、ありがとうございます……?」


 な、なんか人懐っこい子だなって――え? 部外者入試でしかも!? わ、わたしが!?


「え? えっ!? あ、の……」


「いやぁ、そんなあなたに会えるのを楽しみにしてたんだけど、まさか同じクラスになるとは思わなかったよ! ここさぁ、意識高い系が多くて窮屈で窮屈でそれはもう息が詰まりそ――ぅぶっ!?」


 思わぬ自分の立ち位置と興奮する彼女のマシンガントークに困惑していると、スパーンと小気味のいい音と共に彼女は呻き声を漏らして頭を押さえしゃがみ込んだ。


「黙れ」


 平坦な声で彼女を止めた文学少女の手に握られていたのは三十センチほどのハリセン。 え? ソレ、どこから出したんですか?


「バカが迷惑かけたね。私は駒居こまい。ほら、アンタも自己紹介」


「あぅっ! わ、わかってるよぅ……アタシは榛沢はたざわけい。よろしく」


 淡々と自己紹介をして再びハリセンで榛沢さんあいかたを叩いて促す駒居さんに戦慄ながらわたしは二人と向き合う。


「あ、改めまして烏丸美由です。よ、宜しくお願いします」


「うん。よろしくぅ!」

「よろしく」


 満面の笑顔の榛沢さんと無表情な駒居さんが同時に応えてくれて、初めてわたしに友達ができた瞬間に思わず涙が零れそうになる。


「友達になったところであなたに忠告」


「忠告、ですか?」


 感慨にふける前に駒居さんがわたしに向けて不穏な事を言う。


「そう。あn――「美由っちはこれからで苦労するよ。まずは『アレ』」


「アレ? って、え。何であの二つの席の周りはあんなに離れてるんですか?」


 駒居さんの話を遮った榛沢さんが指さした先には教室の窓側の前から三番目の席とその隣の席。


 それから、二つの席から距離を置いて囲む他の席。


「あの窓の席の隣が美由っちの席なんだけど、窓側そこの席のヤツがなんだよ」


「も、問題児!?」


 初めて友達ができたと思った矢先に問題児って……。


「圭」


「あ。ご、ごめん美由っち」


「い、いえ……大丈夫です」


 駒居さんに窘められて榛沢さんが頭を下げてくれたけれど、話の内容からがあることが気になって、思い切って訊こうとしたその時――



「失礼するよ」



 穏やかな声が廊下側から届き、そこには一人の男の子が立っていた。


「あちゃぁ、遅かった……」


「え?」


 嘆くように小声で漏らす榛沢さんに不思議に思っていると、その男の子がまた口を開く。


「このクラスに烏丸美由さんっていますよね。どの子?」


 爽やかな笑顔を浮かべて訊ねる彼は背も高く顔も整った人当たりの好さそうな好青年ってイメージなのに、クラスメイト達は怯えていたり、気まずそうに目を逸らしたり、中にはわたしにきたりしている。


「そうか、君が烏丸さんか」


 クラスメイト達の反応で察した彼は、わたしの前に立つと有無を言わせない笑顔を浮かべて――



「ちょっと僕に付き合ってくれないかな?」




 …………どうして?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る