第3話 新学期 五月

乃愛のあちゃーん」


 三階に向かう乃愛ちゃんを階段で見つけたとたん、昨日の興奮が蘇った。

 走って追いかけて横に並び、一緒に階段を上がる。


「おはよう。昨日見たよ」

「おはよう、柚羽ちゃん。見てくれたんだ、ありがとう」

 

 ゆうべ、乃愛ちゃんが所属しているダンスチームがテレビに出た。

 チームの中で最年少なのに乃愛ちゃんはセンターで踊っていた。

 手足を伸ばし、長い髪を振り乱して全身を動かし、いつもより大きく見えた。とてもかっこよかった。

 乃愛ちゃんと友達なのが、ユズはとても誇らしかった。


 感じた思いを興奮して伝えると、乃愛ちゃんは照れながらも喜んでくれた。


「柚羽ちゃんもダンスやってみたらいいのに」

「ユズはいいよ。体育苦手なんだ」


 乃愛ちゃんは前にも一緒にダンスを習おうと誘ってくれたけど、ユズがあんな風に踊れるとはとても思えない。見ているだけで満足だった。


「柚羽ちゃん、音楽好きでしょう。リズム感はあると思うんだ」

「リズム感? そうかな。ユズにはわかんないや」


 三年生になってひとつ上の階になった。

 四月の間は間違えて二階に行ってしまいそうだったけど、五月の連休が明けてからはなくなり、三階の教室にも慣れた。階段を上がりきり廊下を行く。


 後ろから「ユズは」と聞こえた。

 振り返ると、男の子が歩いていた。

 三年生から同じクラスになった小川勇誠くん。彼とは学童も一緒だ。


「あ、おはよう」


 一応あいさつをした。だけど、彼からは返事がなかった。

 なんだか意地悪そうな薄ら笑いを浮かべている。なんだろう。ちょっと嫌な感じがした。

 にやにやする小川くんを無視しようとしたら、もう一度、

「ユズは」

 そう言い放ち、だっと走って教室に入って行った。

「なにあれ?」

 訳が分からず、乃愛ちゃんと顔を見合わせた。


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