第2章 神々の対立

 オリュンポス山の山頂に集まった神々は、ゼウスの指示に従い、力を合わせる決意を固めた。しかし、静かな合意の中にも、見えぬ亀裂が広がっていることに誰もが気づいていた。特に、ゼウスの命令に反発する者たちが少なくないことを、神々は無視できなかった。

 ヘラはその筆頭であった。ゼウスと共に山頂に立つことは、彼女にとって過去の不満や苦しみを思い起こさせるものだった。二人の長い歴史の中で、彼女は何度も裏切りや失望を感じてきた。それはすべてゼウスが彼女を裏切ったからだ。今、彼が命じるように協力をしなければならないというのは、彼女にとって屈辱的なことだった。

「ゼウス、あなたがこのように命じるのは、まるですべてがあなたの意のままに運ぶかのように見せかけている。だが、私たちが一緒に力を合わせることにどれほどの意味があるのか、考えたことがあるの?」ヘラの声は冷徹で、ゼウスに向けられていた。

 ゼウスはその声に反応し、彼女を見つめ返した。彼の表情は一瞬険しくなるが、すぐに穏やかさを取り戻す。

「ヘラ、私はただ、全ての神々が力を合わせなければ、この世界は崩壊すると警告しているだけだ。過去のことはもう忘れ、今は協力することが必要だ。」

 ヘラは怒りを抑えつつも、冷静に言った。「忘れろ?そんなことはできないわ、ゼウス。私たちがどれほど苦しんできたのか、あなたは一度も考えたことがない。」

 その言葉を聞いたポセイドンは、しばらく黙っていたが、低い声で口を開いた。

「ヘラ、私もわかる。だが、今はその時ではない。私たちの過去を嘆いている暇はない。」ポセイドンは言葉を慎重に選びながらも、ヘラに向かって毅然とした態度を見せた。

「ポセイドン、あなたもか。」ヘラはその言葉に苛立ちを覚え、顔を背けた。

 その時、アレスが登場し、シーンを一層緊張感のあるものにした。戦の神アレスは、ゼウスに対して反発を示すために、すぐに口を開いた。

「ゼウス、ポセイドン。何をしている?協力なんて言葉で解決できるなら、私はもう戦っていないだろう。」アレスの声は粗暴で、彼の力強さが感じられる。

 ゼウスはその言葉を受けて、冷静に応じた。「アレス、今は戦いの時ではない。私たちは力を合わせ、この危機に立ち向かう必要がある。」

 アレスはしばらく黙り込んだが、すぐに答えた。「それが本当に正しいのかどうか、私はまだ疑っている。」アレスはそのまま目をそらし、山頂を見渡した。

 その時、アポロンが現れ、彼の冷静で慎重な言葉が場を静かにさせた。

「ゼウスの言う通りだ。だが、私たちが協力するためには、まずお互いの信頼を再構築しなければならない。今、私たちの間には明らかに不信感が漂っている。協力するためには、それを乗り越えなければならない。」

 アテナはアポロンの言葉に賛同し、静かな声で言った。

「アポロンが言った通り、私たちはお互いの力を信じるべきだ。しかし、それにはすべての神々がその覚悟を決めなければならない。もし不信が残るようなら、それは今後の戦いにおいて致命的な弱点となる。」

 その言葉に、ヘラは不満そうな表情を浮かべ、目をそらした。しかし、彼女もアポロンやアテナの言うことが正しいことを、心のどこかで認めていた。

 その時、ゼウスの側近であるヘルメスが前に進み出て、みんなの注目を浴びた。ヘルメスはその軽やかな足取りで山頂に立ち、今の空気を和らげるように笑顔を見せた。

「ゼウスが言っているのは、単に我々が一丸となることの重要性だ。過去の争いは今は棚上げし、未来を見据えなければならない。」ヘルメスはその言葉を軽やかに口にし、少しふざけたように言った。

「皆さん、そんなに怒らずに、まずは協力することを考えましょう。お互いに信頼できるように、少しずつ歩み寄ることから始めませんか?」ヘルメスの軽い言葉に、少しの笑みが浮かんだ。

 その後、ヘーパイストスが一歩前に出て、その手を広げながら言った。

「私もゼウスの言う通りだと思う。しかし、過去のことを無視して今を乗り越えようとしても、必ずどこかで亀裂が生まれる。それに、私には少しの力しかない。だからこそ、みんなで手を取り合って、私の力を活かす方法を考えてほしい。」ヘーパイストスはその言葉を慎重に口にし、手のひらを広げた。

 その言葉に、ポイベーが現れる。彼女の登場は、神々の中で新たな希望をもたらすかのようだった。ポイベーは静かに言葉を口にした。

「私の力を使えば、皆が協力し合うための新しい知恵を授けることができる。それを皆で共有すれば、不信感を払拭し、力を合わせることができるかもしれません。」

 ゼウスはその言葉に感謝し、うなずいた。

「ポイベー、君の知恵が必要だ。私たちが協力し、今後の道を切り開くために、君の力を借りる。」ゼウスはその言葉に強い決意を込めて言った。

 その時、ケリュケイオンが登場し、神々を見渡すように言葉を続けた。

「私の役目は、皆の意思をつなげ、連携を取ることだ。今後の戦いで何が必要かを伝えるために、私はここに来た。」ケリュケイオンの言葉は、神々を一つに結びつけるための使命を持っていた。

 ゼウスはその言葉に強い信頼を寄せ、全員を見渡しながら、改めて言った。

「これから、私たちは一丸となってこの試練に立ち向かう。過去の亀裂を乗り越え、未来のために力を尽くすのだ。」ゼウスの言葉は確固たるものとして、神々に響き渡った。


 ゼウスの言葉が山頂に響き渡った後、神々はしばらく静まり返った。彼らはそれぞれの心の中で葛藤を抱えながらも、ゼウスの命令に従うしかないという現実を受け入れつつあった。だが、その静けさは、すぐに割り込んだ一言で破られることになる。

 アレスが再び口を開いた。

「協力だと?私にとって、戦とは一筋縄ではいかないものだ。」アレスの目にはまだ疑念が浮かんでおり、心の中で戦いを求める熱が収まっていない様子だった。「このように平和的に解決しようなど、神々にとってふさわしくない。」

 ヘラはアレスの言葉を聞いて、冷たく言った。

「戦争の神がまた暴れたいのなら、好きにすればいい。しかし、ゼウスの意図は、今この世界を守るために一丸となることだ。」ヘラの言葉は冷徹で、どこか諦めが含まれていた。彼女はゼウスとの関係がうまくいかないことを感じていたが、今はそれに対しても冷静であろうと努めていた。

 アレスはその言葉を無視し、神々に向かって言った。

「平和を保つために力を合わせるだと?それなら、最も強力な力を持つ私が前に出るべきだろう。」彼の声には挑戦的な響きがあった。

 ゼウスは冷静にアレスを見つめながら言った。

「アレス、力は重要だが、時には戦うだけが解決方法ではない。君の力は大いに役立つだろうが、私たちはそれ以上に重要なものを手に入れなければならない。」

 その言葉に、アレスはしばらく黙った。しかし、心の中で不満が湧き上がり、ゼウスの言葉を受け入れる気にはならなかった。

 その時、アポロンが穏やかな声で話し始めた。

「ゼウスの言う通りだ。戦いだけではなく、知恵と戦略が必要だ。私の予知の力があれば、未来を見通し、私たちが取るべき行動が分かるだろう。」アポロンはその予見の力を信じており、冷静に状況を把握しようとしていた。

 アポロンの言葉に、アテナが続いた。

「アポロンの力が重要であることは言うまでもない。しかし、私たちはそれをどう使うかを考えるべきだ。無駄な争いを避けるためには、まずは情報を集め、次にその情報をどう利用するかを決める必要がある。」アテナの声は冷徹だが、理性を欠いていなかった。

 ゼウスはその二人の神々の言葉を聞きながら、少し間を置いてから言った。

「では、アポロン、君の力を使って未来の兆しを見通し、アテナ、君の知恵で私たちに最も効果的な戦略を示してくれ。」ゼウスはその言葉に強い意志を込め、全ての神々に向けて発言した。

 その言葉を受けて、アポロンは目を閉じ、深い集中を始めた。彼の金色の髪が微かに揺れ、その瞳が遠くの未来を見つめるように見開かれる。アポロンの予知の力が使われるとき、空間が一瞬静まり返り、神々はその力に息を呑んだ。

「私は見た…。」アポロンが静かに言葉を発した。その声は異常に静かで、周囲の空気が引き締まるようだった。「未来において、恐るべき闇の力が現れ、私たちの世界を脅かす。だが、もし私たちが協力し、正しい道を歩むならば、その闇を打ち破る力を手に入れることができる。」

 アポロンは目を開け、その神々を見渡した。その瞳には確固たる信念が宿っていた。

「その闇とは…一体どこから来るのか?」ヘラが問いかけると、アポロンは黙って答えた。

「それは、死者の世界から来るものだろう。冥界の力が、こちらの世界に波及している。」アポロンの言葉は、神々に衝撃を与えた。

 その瞬間、ヘルメスが飛び出してきた。

「冥界の力?それならば、冥界の神々に直接交渉し、彼らから情報を引き出さなければならない。」ヘルメスはその軽快な足取りで前に進み、ゼウスに向かって言った。「私が冥界に行って、ハデスやペルセポネに話を聞いてこよう。」

 ゼウスはその提案を受け入れ、頷いた。

「ヘルメス、君の機敏さが必要だ。冥界の神々と接触し、事態を解明してくれ。」

 ヘルメスは軽やかな笑みを浮かべ、頷いた。「了解した、ゼウス。」

 その後、ヘーパイストスも口を開いた。

「私は、力を貸せる部分があるだろう。戦の道具や装備を整えることで、神々が戦いに臨む準備を整えることができる。」ヘーパイストスの声には、静かな確信が込められていた。

 ポイベーもその言葉に応じるように言った。

「私も、知恵を与え、神々に必要な力を授けることができる。私の力があれば、戦局に有利な知識を与え、皆の心をつなげることができるだろう。」

 ケリュケイオンは、しばらくの間無言でその様子を見守っていたが、最後にその冷静な声を響かせた。

「私は、神々の間でのメッセンジャーとして、情報を伝達する役割を果たす。すべての神々の意図を結びつけ、協力を促進するために力を尽くす。」ケリュケイオンは言葉通り、神々の間で協力を促す重要な役割を担うことを決意していた。

 ゼウスはそのすべての言葉を受けて、ようやく決意を新たにした。

「私たちは一つになり、冥界から迫る闇の力に立ち向かうために力を尽くす。アポロン、君の予知の力をもとに、私たちは今後どう動くべきかを決める。そして、ヘルメス、君は冥界へ行き、真実を探ってきてくれ。」

 神々はそれぞれの役割を認識し、動き出す準備を始めた。ゼウスの言葉は、ただの命令ではなく、神々を一つに結びつけるための力強い意志を示していた。


 第2章 神々の対立 終


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